九百六十一話 特異
「ど、どうぞ」
「……ありがとう」
アラッドは特に頼んでいないが、バルンガはせめてもの謝罪と、三人にエールをご馳走した。
「ふぅ~~~~~……さて、虎竜に関して教えてもらっても良いか」
「えぇ、勿論っす。ただ、あまり知ってることは多くないんですけど」
伝えられることは多くないと前置きを置きながらも、バルンガは虎竜に関して知っている情報を全て話した。
「なるほど。一昔前は、割と姿が見られることはあったんだな」
「そうなんすよ。ただ、ある時期からぱたりと姿を見なくなって。と思ったら、また度々移動する影? だけは見えるんすけど……その度に、それなりに有名どころというか、強い冒険者とかが冒険から戻らなくて」
「冒険に向かった場所は、ディラーズフォレストか」
「うっす」
ハプターラから離れた場所にある巨大森林、ディラーズフォレスト。
虎竜はそこで度々姿自体はを目撃されていた。
「……虎竜は、強い相手だけを狙うようになったのかな?」
「スティームさんの言う通り、ハプターラで活動してる冒険者やギルド職員たちは、そう思ってる人が多いっす」
アラッドより歳上ではあるものの、スティームはバルンガよりは歳下である。
普段のバルンガであれば歳下の冒険者に敬語? など使わないが、アルバース王国に来てアラッドと共に行動するようになってから、スティームの名も徐々に広まりつつある。
当然、スティームがアラッドの手を借りることなくBランクモンスターをソロで討伐出来るという功績も広まりつつあるため、バルンガはアラッドと同じくさん付けで……敬語? で話すことにした。
「……ねぇ、アラッド、ガルーレ。僕、あるモンスターたちが頭の中に浮かんだんだけど」
「そうか、丁度俺も同じモンスターたちが浮かんだよ。ガルーレはどうだ?」
「そういえば、そんな事してたんだっけ? やっぱ、モンスターって強くなれば、そういう知恵が回るようになるのね」
「えっと……お三方は、似た様なモンスターと戦った事があるんすか?」
「そうだな。そういった事があった……さて、時折殺される冒険者たちの強さを教えてもらっても良いか。無理なら、大雑把でも構わない」
バルンガはハプターラを拠点に活動している冒険者。
思い出したくない記憶もあるだろうと思い、口にしたくなければそれでも構わなかった。
「大丈夫っす。おそらく虎竜に殺された冒険者たちは、主にBランクに昇格するだろうと言われていたCランク冒険者や、既にBランク冒険者として活動している人たちっす」
「なるほど……確かに、強者だな」
金の卵、強者に名を連ねる者たち。
虎竜が殺したであろう冒険者たちは、確かに強い者だけを殺していた。
「ねぇ、そのBランク冒険者たちの中には、パーティーメンバーが全員Bランクのパーティーもあったの?」
「……はい、あったっす」
ガルーレの言葉に、バルンガは重々しく……首を縦に振って答えた。
(全員がBランクのパーティーを殺す、か。そうだろうとは思っていたが、実力は……ジャンルは異なるが、それでもデネブと同等かそれ以上の実力なのは間違いなさそうだな)
アラッドの中で、虎竜に対する警戒度が改めて上がった。
未知を探す冒険を行う必要はなく、ほぼほぼ虎竜という特異なモンスターが存在することは確定した。
後は……討伐するのみである。
「…………相当強い、ね」
「? Bランクパーティーを殺せちゃうんだから、強いのは当然でしょ」
「それはそうなんだけど……バルンガさん、そのBランクパーティーが殺される前には、既に虎竜の存在は広まっていたんですよね」
「あ、あぁ。勿論っす」
「どんなパーティー構成なのかは解らないけど、一人は身軽で脚が速い人がいる筈。いや、全員で挑めばって思ったのかな? だとしたら……」
一人で勝手に悩むスティームを見て、首を傾げるガルーレとバルンガ。
だが、アラッドはスティームが何を思って、相当強いねと呟いたのか解った。
「身軽な人が逃げて、情報を持って帰ろうとしたかもしれない。にも拘らず、虎竜はそのパーティーを全員仕留めた……だからこそ、普通に強いだけじゃないって言いたいんだろ、スティーム」
「そう、それが言いたかったんだよ」
「あぁ~~~、なるほどね。確かに全員がBランクで、中に斥候を担当してる人がいて、その人が全力で逃げても仕留められたってことは…………総合的には、この前戦ったあいつよりも強い?」
あいつ、という言葉が誰を指しているのかアラッドは察し、ゆっくりと頷いた。
「やっぱりか~~~……でも、なんでちょいちょいディラーズフォレストに姿を現すんだろうね?」
「そこが虎竜の生まれ故郷だからじゃないか?」
「……モンスターに、そこまでこう……故郷を懐かしむ? 感覚ってあるのかな」
「さぁな。詳しくは解らないが、虎竜が特異なモンスターだと考えれば、そういった普通ではない部分も、あり得なくはないんだろうな」
自分から情報を得ながらも、淡々と話し合うアラッドたちの姿を見て、バルンガは改めて自分はなんて人たちに絡もうとしてしまったのかと猛省……それと同時に、ある事を思い出し、再び顔に青白さが侵食し始めた。
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