九百四十九話 どうやって……

「……アラッドは、正直いると思う?」


「俺は…………おそらく、いると思う」


虎竜とは、虎系のモンスターとドラゴンが合体した末に生まれ個体。


虎とドラゴンの特徴を併せ持つキメラという訳ではなく、虎竜という種が誕生する。


「それは、どうして?」


「どうしてと尋ねられると……答えに困るが、世の中イレギュラーが起こることは、割と珍しくないみたいだからな」


イレギュラーが起こることは珍しくない。


アラッドは、自分でも矛盾したことを言ってるなという自覚はあった。

ただ、決してその言い方は間違ってはいない。


人によって差はあれど、アラッドは場所から場所へとどんどん移り、旅をするタイプの冒険者。


故に、普通の人よりも、一般的な冒険者よりもイレギュラーに遭遇しやすい。


「……どういう流れで、そういう事になるんだろうね。だって、元は敵……っていう認識だよね」


「多分そうだろうな…………種を越えて惹かれあったのかもしれないな」


アラッドの考えに、スティームは思わず小さく吹き出してしまった。


「ふっ、ふっふっふ」


「? どうした」


「いや、アラッドもそんなロマンチックな事を言うんだなって思って」


「……別にロマンチックな言葉でもないだろ」


そんなことはないと反論するアラッドだが、本人も確かに似合わずロマンチックな事を言ってしまったと自覚しているからか、若干頬を赤くして明後日の方向を向いた。


「それか……互いに戦った後に、互いの強さを認め合ったのかもしれないな」


「強さを認め合った、か……僕たちとヴァジュラみたいに、って感じかな」


「そうだな。感覚的には、それで合ってると思う」


ヴァジュラとスティーム、ガルーレはバチバチに戦い、互いの強さを認め合い……最終的にはガルーレの従魔となり、アラッドたちと共に冒険している。


「……どうやって、やったんだろうね」


「さぁ、どうやってやったんだろうな」


人間同士の間で、人族とエルフが、獣人族とドワーフが、エルフと竜人族がといった話ではない。


虎とドラゴン……がっつりと種が違うのだ。

下品な話ではあるが、二人ともどのようにして二体が合体し、虎竜が誕生したのかそれなりに気になっていた。


「…………人になったのかもな」


「人に? ……あぁ、なるほど」


一部のモンスターは、人間の姿に化けることが出来る。


当然、スティームはAランクドラゴン……木竜の事を忘れていなかった。


「それなら、可能性はありそうだね。というか、そうじゃないとやっぱり想像出来ないね」


「だろ」


「……今回は良かったけどさ、次は大丈夫かな」


「? 俺が暴走させられそうになるかってことか?」


「いやいやいや、そういう事じゃなくて。ほら、結果的に一緒に戦うことになったけど、今回フローレンスさん達と被ったでしょ」


「あぁ、確かにそうだったな」


元々アラッドたちは、自分たちだけで闇竜デネブと闇の力を授かったモンスターたちを討伐するつもりだった。


結果としてフローレンスたちと共闘して倒すことになったが、それはあくまで結果論である。

そもそも相手がフローレンスたちでなければ、基本的に一緒に組んで討伐しようという考えにはならない。


(フローレンスたちじゃなければ……まぁ、ギーラス兄さん達なら、一緒に組んでも良いか)


上から目線な考え方ではあるが、そこら辺の冒険者たちと組めば、アラッドからすればその者たちは戦力ではなく、足手纏いになる可能性が高い。


「…………それに関しては、運任せだな」


「うっ、やっぱりそうなるかな」


「そうなるな。もしかしたら、今度は別の騎士団と被るかもしれない。もしくは、虎竜を狙ってた冒険者と被るかもしれない」


「……仮に、同業者と被ったらどうするの?」


「どうもしないさ。ただ、向こうが先に遭遇して討伐したら、それはそれで良しだろ」


正直なところ、アラッドは虎竜というモンスターの素材に関して、非常に気になっていた。


なので、できれば自分たちが討伐して、虎竜の素材がほしい。

だが、当然の事ながら、モンスターを討伐するのに予約制などはない。


アラッドもそれを理解してるからこそ、他の同業者たちに牽制しようなどとは思っていない。


先に討伐されたらされたで、それは仕方ない事である。

加えて……自分たちだけにしか討伐出来ないとも思っていない。


「……なんか、随分大人な考えになったね」


「そうか? よっぽどバカじゃなければ、虎とドラゴンの力を併せ持つ存在に、中途半端な実力で挑んで勝てるわけないって解るだろ」


「それは、そうだね。でも……うん、あまり言葉は良くないけど、世の中アラッドの言うよっぽどなバカはいるじゃん」


「いるな」


スティームの言葉を、アラッドは一切否定せず、逆に肯定した。


「……俺は、一応騎士の爵位を持ってるけど、騎士として活動してるつもりはない。それと、自分以外の冒険者たちを気にするほど経験を積んでる訳でもない。中途半端な実力で功績を求めて挑んで、死んだとしてもそれは自己責任だ」


お前じゃ無理だと、伝えることは出来る。


ただ、アラッドがそれを伝えたところで、どう考えても喧嘩売ってるのかと捉えられてしまう。

そのため、バカを止めるメリットはアラッドにとって一切なかった。

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