八百二十一話 見た目は、モンスター

「……どうやら、僕たち以外の誰かが当たったみたいだね」


ロッサの密林で探索をを始めてから二日目の夕方……その日は適当な依頼を受け、一応風竜を探しながらも受けた討伐依頼のモンスターを仕留め、遭遇したモンスターを全て討伐した。


それなりの買取金額を受け取り、先日と同じく直ぐにギルドを出て夕食を食べようと思ったところで、ある冒険者たちがギルドに入って来た。


「そうみたいだな」


その冒険者たちは、アラッドたちに関わろうと……喧嘩を売ろうとしていた訳ではない。

ただ……身に付けている防具がいくつか砕けており、負傷した傷を完全に癒せていなかった。


(五人組のパーティー……全員がCランク…………いや、あのエルフの剣士だけはBランクだな)


一目でそのパーティーの戦力を見抜く。

スティームとガルーレもある程度把握したからこそ、そのパーティーが遭遇したモンスターの強さを把握出来た。


「はぁ~~~、良いなぁ~~~。今日も今日で退屈じゃなかったけど、羨ましいわね」


「ガルーレ、あまり大きな声でそういう事を言うな」


悪きがないことは解っている。


だが、受け取る人によっては喧嘩を売っていると受け取られる可能性もある。


「……情報収集だね」


「そんなところだ」


冒険者ギルドから出ようとした三人だが、アラッドはそこら辺の椅子に腰を下ろし、耳を澄ませ始めた。


「あのエルフの……細剣士? の人、結構強いよね」


「魔力総量も、後衛のエルフ並みに多いんじゃないかな」


「そうだな。おそらく、攻撃魔法もある程度いけると思う」


「アラッドやラディアみたいなタイプってことだ。でも、あの人も結構ボロボロよね……相性が悪かったのかしら」


「…………どうだろうな。他のメンバーの力が劣っているとは思えない。どう視ても、あのエルフのワンマンパーティーではない」


アラッドの見立ては間違いなかった。


そんな三人の評価を耳にしていた周囲の冒険者たちは……あのアラッドが高く評価していると驚くも、細剣士エルフたちを知っているからこそ、その評価に納得していた。


あのアラッドたちが、高く評価している。

そう思ったからこそ……それなら、あのパーティーをあそこまで追い詰めたのは、いったいどんなモンスターなのかという恐怖が膨れ上がる。


「おい、何があったんだ!!??」


細剣士エルフたちと交流がある冒険者が慌てて心配の声を掛ける。


アラッド達としては、ここで風竜という単語が出た方が……早く目標を達成出来るため、嬉しかった。

だが、物事はそう上手く進まない。


「あの、白毛の猿共だ」


「は、ハヌーマのことか? でも、あいつらが相手なら、お前らなら……っ、まさか……あの個体がいたのか」


「そうだ…………クソッ!!!!!!!!!!」


怒りを露にする細剣士エルフ。


あの個体に勝てなかったからか、敗走という選択肢を選ばなければならない状況に追い込まれてしまったからか……違った。

彼が、エルフらしからぬ怒りを抑えず、露わにしているのは……仲間が必要以上に負傷してしまったからである。


「そうか……また、上位種が現れやがったか」


「次は……次はっ!!!! …………くっ!!!!」


次こそは斬り刻む、突き殺す。

そう口にしようとしたが、細剣士エルフはぎりぎりで零さず、飲み込んだ。


負けた、敗走という選択肢を選ばされた個体に対し、リベンジの炎で燃えている。

それ自体は悪い事ではなく、次へ進むために必要な燃料。


ただ……その個体に、従う通常種たちに負け、パーティーメンバーたちが負傷してしまった。

その現実が、彼に冷静さを取り戻させた。


「マジかよ、またハヌマーンが現れやがったのか」


「ハヌマーンって、俺は遭遇したことねぇけど、ハヌーマの上位種だったか?」


「その認識で合ってる。上位種らしく、通常種を指揮する力も持ってるんだ」


「厄介な上位種なのよね~~~」


「どう厄介なの?」


「身体能力が高くて、優れた体技を持ってるそこはハヌーマと同じで、当然ハヌーマから大幅に強化されてるの。ただ、通常種と違って上位種は何かしらの武器を持ってるのよ」


「もしかしなくても……その何かしらの武器の腕も、普通じゃない感じ?」


「そうよ。もうモンスターじゃなくて、見た目がモンスターの冒険者、もしくは騎士と戦ってる感覚に近いわ」


モンスターの身体能力、体格を有しながら人間に負けない技術力と指揮能力を有している。


加えて……猿共は、自身に余裕があると、相手をからかうクセがある。


人間からすれば、この上なく厄介で苛立つモンスターだが……ハヌーマであればまだしも、ハヌマーンを相手に苛立ち、挑発に乗ってしまえば……それこそ思う壺であり、一気に終演へと向かってしまう。


その恐ろしさが改めて冒険者たちの間で共有される中…………耳を澄ませていた三人は……スティームを除いた二人が俯いていた。


その強さ、モンスターにしては異質と感じる力に恐れた?


違う。


この二人は……ただ、ついつい浮かんでしまう笑みを同業者たちにバレない様に、下を向いているだけだった。

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