八百二十二話 実戦さながら
「……聞いたか、お前ら」
「勿論、ちゃんと色々と聞いたわ」
冒険者ギルドを出た三人。
そんな中、アラッドとガルーレは……ギルドを出たとはいえ、堪えていなければ……笑みが零れてしまう。
二人とも本能的に、その笑みが零れれば、無意味に通行人達に迷惑をかけてしまうと解っていた。
だからこそ、まだ必死で笑みが零れない様に気を付けていた。
「あんな実力者たちが、あそこまで恐れる奴らがいるんだな……ふ、ふっふっふ」
「アラッド、怖い笑みが零れかけてるよ」
「おっと、それはいけないな」
慌てて手で口元を隠す。
それでも、直ぐ傍にいるスティームとガルーレ、クロやファルはアラッドが非常に好戦的な笑みを零していることに気付いていた。
「何にしても、良い情報が聞けた」
「ハヌマーンだっけ。やっぱり、あのハヌーマって白毛の猿の上位種は強かったみたいね」
アラッドたちの中で、ハヌマーンにやられたパーティー……そのリーダーである細剣士エルフがあそこまでダメージを負っていたというのが、よりハヌマーンの強さを惹き立たせ、興味を引き寄せる。
「……………………一応、訊くか。二人とも、ハヌマーンと戦りたいか? 因みに、俺は戦りたい」
「私も勿論戦りたい」
「正直、僕も戦りたいね」
少し意外な事に、冷静さを保っており、二人の様に他人に威圧感を与える笑みが零れない様に必死で抑えている二人ほど、戦いたいと思っている様に見えなかったスティーム。
だが、心の内には確かな戦闘欲が灯っていた。
「おっ、スティームもか。やっぱりあんな話を聞いたら、闘争心が燃え上がるか」
「うん、まぁ……そうだね」
ギルドで聞いた話も、スティームの闘争心を燃え上がらせる材料ではあった。
ただ、スティームはハヌマーンの内容を聞き……ほんの少しだけ、アラッドと共に活動を始めてから半年も経っていない内に戦った強敵……雷獣を思い出した。
(話を思い出す限り、雷獣よりも優れた技術や知能を持っている。似た様な個体と言うにはそれなりに差がある。でも……獣的な強さで言えば似てる…………様な気がするんだよね)
当然の事ながら、スティームはハヌマーンと遭遇したことは過去に一度もない。
雷獣と比べるにはあまりにもデータが足りないが、なんとなく……本能がそう判断した。
「しかし、やはり三人とも戦りたいと思ってしまったか……であれば、先程決めた内容で誰がハヌマーンと戦うか決めるか」
一旦、三人は宿泊中の宿に戻った。
「「「最初はグー……じゃんけんっ!!!!!」」」
防音機能がそれなりにしっかりしている事もあり、アラッドたちの気合が入った声が他の部屋に伝わることはなかった。
「あーーーーーーーーーっ!!!!」
「「ぃよしっ!!!!!!!!」」
なんと、あいこが重なる事三回……最初にガルーレが脱落。
勝ち残った二人は思いっ切りガッツポーズした。
「「最初はグー……じゃんけんっ!!!!!!」」
決勝戦が始まったハヌマーンと誰が戦うじゃんけん。
三人でのじゃんけんはあいこが三回重なっただけで、比較的直ぐに終わった。
ただ……ここからが長かった。
「「あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!!」」
二人とも接近戦タイプの戦闘者であるため、非常に動体視力が良い。
その為、完全に出し切るぎりぎりまで相手の手を見極めることが出来る。
最初は見極めなければならない手が二つあったため、どうしても運に任せる割合がそれなりにあった。
ただ、見極める手が一つだけとなれば、話は別。
(…………二人共頑張るな~~~)
既に脱落してしまったガルーレは、結果を待つのみ。
一方、決勝戦を始めてから約数分が経過しているが……まだ決着は着いていなかった。
「「あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!! あいこでしょ!!!」」
二人とも相手の手をぎりぎりまで見極めるのに本気になっており、汗をかき始めていた。
その集中力は強敵との戦闘時に負けない程であり、同業者たちが見れば「どこに集中力を使ってんだよ」と、絶対にツッコみたくなる。
「「あいこでしょ!!! っ!!!!」」
そして決勝戦が始まってから約十分後……アラッドがパー、スティームがチョキといった形で、勝者はスティーム。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそっ、負けたか~~~~~~」
「へ、へっへっへ。ぎりぎり勝利、だね」
「はぁ~~~~~~~……負けは負けだ。それじゃ、ハヌマーンと遭遇したら、戦うのはスティームに決定だ。それにしても、随分と気合が入ってたな、スティーム、そんなにハヌマーンと戦ってみたかったのか?」
「え? そ、そうだね。この前戦ったブリザードパンサーも勿論強かったんだけど、なんとなく……ハヌマーンはブリザードパンサーよりも強いと感じてね」
「直感か。そういう直感は、当たりそうだな」
アラッドも絶対に以前ウィラーナ周辺の雪原で戦ったスノウジャイアントよりも強いという確信があった。
だからこそ悔しいという気持ちは大きいものの、俺がリーダーだぞ!!! 俺がルールだ!!! と暴君になることはなく、しっかりと自分の負けを認めた。
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