八百二十話 どう決める?
「敵意ある視線は向けられなかったけど、相変わらず多くの視線を向けられたね」
「それだけ俺だけじゃなく、お前ら二人も注目されてるってことだ」
まだカルトロッサに到着してから一週間も経っていないが、、今のところ面倒な輩たちに絡まれた回数はゼロ回。
アラッドにとっては、この上なく嬉しい流れであった。
「ふ~~~ん……それなら、何人か絡んできてくれても良かったのに」
「それはどういう意味でだ?」
「こう……拳で交流するみたいな?」
要は喧嘩したい、試合がしたいということであった。
「はぁ~~~~~~~……まぁ、別に拳で交流するのが悪いとは言わない。俺たちの目的が直ぐに達成出来るとは思えない。だから、拳で交流するなら普通に声を掛けて、それから交流してくれ」
アラッドとしては、初っ端から険悪な雰囲気にならなければ、それで構わない。
寧ろ、仲良く出来るのであれば、それが一番良い。
「オッケー!!! あっ、そういえばさ、今日戦ったモンスターの中で、白い猿がいたでしょ」
「あぁ、いたな。ハヌーマだろ。それがどうしたんだ?」
「いやぁ~~、あのモンスターとの戦いが今日一番楽しかったかなって思って」
二人とも本日の戦闘を振り返った結果、同じ考えに至った。
「確かにそうだね。一番戦い応えがあった」
「でしょでしょ!! でさ、猿系のモンスターって、大概は上位種がいるじゃない。あのハヌーマってモンスターは上位種じゃなくて通常種でしょ」
ガルーレの言う通り、優れた体技を持つハヌーマはCランクモンスターだが、ただの通常種である。
「あれの上位種っているのかなって考えると、テンションが上がらない?」
「解らなくはないな。モンスターの中でも体技のスキルを持っている個体はいるが、一定のレベルを超える個体とは
遭遇したことはない」
ハヌーマとの戦闘に楽しさは感じていたものの、Bランクモンスターの中でも腕力に優れた個体とパワーをぶつけ合う戦いの方が楽しさが上だと感じるアラッド。
「あの個体の上位種、か。ただ戦うのが得意なだけじゃなくて、同族を指揮して戦うのも得意そうだね」
「……優れた体技を持つ個体っていう部分を考えると、その可能性も確かにあり得そうだな」
「ふっふっふ、考えれば考えるほど戦ってみたい個体ね」
優れた体技を持つ個体。
当然ながら、アラッドも戦ってみたいと思っており、意外にもスティームもそんな個体に興味を持っていた。
「そういえば、結局グレイスさんから教えてもらった風竜と、誰が戦うか決めてなかったね」
「「っ…………」」
我儘な考えではあるが、風竜とも戦ってみたいと……ソロで戦ってみたいという気持ちが三人ともある。
自己中心的な思考を持っているリーダーであれば、全て俺が戦う!!!!! と、無理矢理意見を通すかもしれない。
しかし、このパーティーのリーダーであるアラッドは、戦闘以外の場所で暴君になることはない。
「そうだな。まだそれも決めてなかったな………………よし、こうしよう。Bランク以上のモンスターと遭遇した時、その時戦いたいと思った者が戦う」
「被ったらどうするの?」
「じゃんけんで決めてもらう」
アラッドからじゃんけんとはなんなのか聞いているため、二人はその決め方に納得した。
「それで、その時Bランクモンスターと戦った者は、次のBランクモンスターとは絶対に戦えない」
「なる、ほど……それじゃあ、一番最初に遭遇した人は、四回目のBランクモンスターとの遭遇時じゃないと戦えないってことだね」
「そうだな…………うん、その方が良いな。それで、四回目の遭遇時には、最初に遭遇した人もじゃんけんに参加出来るということにしようか」
ちょっとバカなガルーレもしっかりと理解し、アラッドが決めたルールに完全納得。
ただ、少し不安な点もあった。
「そのルールは良いと思うっていうか、それが一番揉めずに済むと思うから良いんだけどさ、そんなに何回もBランクモンスターと遭遇できる?」
「俺は出来ると思うぞ。ロッサの密林は元々モンスターの生息数が他の地域と比べて多く、過去にはAランクモンスターの存在も確認されてる。それに、この街の冒険者ギルドで活動している面子のレベルもそこそこ高い」
「つまり、それなりにレベルが高くて、実戦経験が豊富な冒険者たちじゃないと狩れないモンスターがうようよいるってことね」
「うようよいるかまでは解らないが、退屈な時間を過ごすことはないんじゃないか」
レベルを上げて身体能力を、魔力総量を増やして経験を積み重ねて強くなれば、安定してモンスターを討伐し、依頼をこなせるようになる。
非常に収入が安定するのは間違いないが、実力不相応な場所に居続ければ、ギルドにとっては有難い存在ではあるものの……同業者たちからは「いつまで居続けるんだよ。強いんだからもっと別の街に行けよ」とウザがられる可能性が高い。
元冒険者である母のアリサからそういった話も聞いているため、アラッドは自信をもって退屈しない環境であると断言出来た。
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