八百十五話 あいつとは、違うよな?
(……悪くない活気だな。グレイスの話によれば、少し離れた場所にあるロッサの密林に風竜が潜んでいるという話なんだが…………その風竜に怯える様子はなさそうに見える)
住人たちの活気、すれ違う同業者たちの雰囲気を見る限り、密林に潜んでいるであろう風竜に怯えてるようには思えず……そこまでの強さを秘めてないのかと思ってしまったアラッド。
「アラッド、どうしたの? 急につまらなそうな顔になるじゃん」
「いや……別に良い事なんだが、この街に住んでる人たちは、同業者たちもあまり何かに怯えてはいないなと思ってな」
「そりゃあ、割と良い感じの冒険者がチラホラといるからじゃない?」
「それはそうなんだが、それらを見る限り俺たちが倒そうと思っている風竜は、大して強くないのかと思ってな」
「あぁ~~~、なるほどね」
カルトロッサの住民、冒険者にとっては寧ろ良い事。
しかし、アラッド的には少し不満を感じる。
二人はその矛盾を把握し、スティームは苦笑いを零した。
「喜ぶしかない、ね。でもさ、アラッド。ロッサの密林には風竜以外にもアラッドが興味を惹かれるモンスターがいると思うよ」
スティームの言う通り、ロッサの密林はサンディラの樹海の様に一帯を支配するAランクの木竜の様な存在はいない。
だが、その代わり王座を……頂点を争えるだけのポテンシャルを持つモンスター多く潜んでいる。
「……ふふ、そうだな。それはそれで、ありだ」
先の事を考えれば、風竜は真っ先に潰しておきたい。
しかし、先日アラッドはフールに対して遭遇した出来事、自身の考えなどを手紙に記して伝えている。
自分だけが動いている訳ではないと思えば……あまり風竜だけに囚われる必要はない。
心が軽くなり、顔に笑顔が戻った。
その後、三人は当分の間泊る宿を確保し、その日は体を休めた。
そして翌日は朝食を食べえた後、早速冒険者ギルドへと向かった。
(……避けられるなら、自分から避ける努力ぐらいはしなければダメか)
クロとファルを表に残し、ギルド内に入る瞬間……アラッドはほんの少し纏う雰囲気を変えた。
その変化に気付いたスティームとガルーレはアラッドが何をしたいのか気付き、同じく纏う雰囲気を変えた。
すると、中に入ると……これまでと同じく、三人はロビーにいる冒険者たちの注目を集めた。
だが、いつもと違い、視線を向ける多くの冒険者たちの顔に……侮りの色が少ない。
(どうやら、成功みたいだな)
ほんの少しだけ笑みを零しながら、クエストボードへと近づく。
元々多くのクエストを達成してランクを上げようという目的はなく、三人は少し離れた場所からボードに張られている依頼書を見ようとしたのだが……何故か、ボードの前にいる冒険者たちが道を開けた。
(? ……少し、威圧し過ぎたか???)
もう大丈夫だと判断したアラッドは雰囲気を普段通りに変え、二人もそれに従って威圧感を引っ込めた。
しかし、それから五秒ほど経って、ようやくボードの前にいた冒険者たちは、三人がそこまで必死に何かしらの依頼書を探している訳ではないと察して先程まで通り自分たちの望む依頼書を探し始めた。
「……どの依頼を受けたい?」
「そうだなぁ…………正直なところ、面白そうな依頼が多く、割と迷っている」
「私も同じだな~。思ってたより、面白そうなモンスターが沢山生息してるみたいね」
討伐系の依頼書にはDランクやCランクのだけではなく、Bランクモンスターの討伐依頼も多く張られている。
加えて、賞金首を掛けられているモンスターまでおり、アラッドはカルトロッサに訪れた本来の目的を忘れそうになっていた。
(っ……そうだよな。まだあぁいう内容の依頼があるって事は、まだ生息してるんだよな)
眼に入った依頼書の内容は、Bランクの風属性ドラゴンの討伐。
それを見た瞬間、忘れそうになっていた目的を再確認し、口端がゆっくりと吊り上がる。
(お前は、強くても……あいつとは違うだろ)
風竜と聞き、アラッドの脳内に浮かぶのは兄であるギーラスが戦ったストールという名のドラゴン。
強さは、Bランクのドラゴンに相応しいものを持っていた。
ギーラスといえど、黒炎を会得出来なければ……結果が逆になっていた可能性は否定出来ない。
しかし、直接戦ったギーラスに加えて、離れた場所から観ていたアラッドも……ストールには、ドラゴンとしての誇りを感じなかった。
「アラッド、圧が零れてるよ」
「っと。ふふ……少し期待してな」
「期待、ね。それにしても、目当てのモンスターとはアラッドだけで戦うの?」
「ッ、それは………………どうしようか」
三人の目的は決まっていた。
ただ……ここにくるまで、誰がグレイスが教えてくれた風竜と戦うのか決めていなかった。
これから探す風竜が三体で行動しているという話は聞いておらず、目当ての風竜と戦えるのは、一人だけ。
同業者たちが聞けば「いや、なんで三人で戦わないんだよ」と絶対にツッコまれてしまう。
そんな事はスティームは当然として、アラッドやガルーレも解っている。
しかし、三人で挑めば……それは挑戦、勝負ではなくただのオーバーキル。
なにより、三人はドラゴンスレイヤーという称号にはさほど興味はないが、ソロで討伐することには興味がある。
だからこそ……一人で挑むことに意味がある。
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