八百十四話 善人だろうが悪人だろうが

「やっぱりクロやファルに乗ってると着くのが早いね~~」


ウィラーナから出発して三日間、天候にも恵まれて三日ほどで目的地に到着したアラッドたち。


「他の冒険者たちからしたら、涎ダラダラ流しながら欲しがる機動力……移動力よね」


「モンスターを従魔にするっていうのは、その人のテイマーとしての才能、後は運が重要かな」


「僕もアラッドと同じ考えだね」


二人とも自身の従魔たちと出会い、心を通わせることが出来たのは偶々だと、運が良かっただけだと認識している。


その為、同業者たちにどうすればと尋ねられても、上手く返せる知識は持っていない。


「けど、二人みたいな従魔を持ってたら、バカな同業者が絡んで来そうだけどね~~。二人ともそういう経験は無かったの?」


「俺はなかったな。そもそも実家の名前はそれなりに広まっているのもあるが……俺が公の場でフローレンスを相手に暴れ倒したのも大きいだろう。まぁ……クロに手を出そうとするバカがいれば、斬るか社会的に潰すだけだ」


今現在、三人はカルトロッサに入る列に並んでおり……金髪に黒髪が混ざっている特徴的な髪色を持つ青年の正体に気付いている者が多くいた。

権力に関わりを持つ者たちは、自分たちに全くその気持ちがないにもかかわらず、アラッドの言葉を聞いただけで……急所に刃を添えられている幻覚を感じた。


「僕は…………それなりにあったかな。アラッドみたいに公の場で活躍する機会はなかったからね」


「俺が従魔にした方が相応しいから寄越せ、みたいな事を言われたということか」


「う~~~ん、確かにそんな人たちもいたね。頑張って訓練場で倒したら近寄ってこなくなったけど」


「馬鹿ね~~、その同業者たち。ファルはスティームが主人だからこそ慕って従魔として共に行動してるのに」


ガルーレの言う通りであり、ファルはスティームが自分の主に相応しいと認めているからこそ、共に行動している。


仮にスティームより本当に強い者が「俺の傍に居る方がそいつの為になる!!」と宣言しても、ファルからすればその者はただの赤の他人。

魅力など欠片もなく、寧ろ主であるスティームを下に見ている不快な人物という印象しか得られない。


「冒険者ギルドが冒険者になる者たちに学習する機会を与えればと考えたことがあるが、冒険者になる前からプライドが高い者はいると思うと……あまり学習する機会の有無は関係無いのかもしれない」


「難しいところだよね。ほら、以前雷獣と戦う機会があったでしょ。その時に出会った、エレムさんって覚えてる?」


「雷獣の時の、エレム………………あぁ、あの英雄を夢見る人か」


以前、アラッドとスティームは雷獣という非常に珍しいモンスターが出没するという噂を聞き、最寄りの街へと向かった。


だが、その街にエレムという若くて実力のある冒険者がいたのだが……中々にアラッドと考えが合わない人物だった。


「英雄を夢見る人って、そこだけ聞くとこう……痛い人? って感じに思えるわね」


「実力はそれなりにあったから、痛い人ではなかったと思うぞ。それでスティーム、そのエレムさんがさっきの話にどう関係するんだ?」


「あの人って、悪い人ではなかったでしょ」


「…………そうだな。世間一般的に見れば、悪い人ではなかったな」


アラッドからすれば「なんでわざわざ雷獣の素材の取り分を分ける様な真似をしなきゃならないんだ、なんで足手まといになる連中の面倒を見なきゃならないんだ」と、物凄く考えが合わない人物という印象が強い。


それでも、救いようがないタイプの屑ではないことは解っている。


「その人もさ、悪い人ではなかったけど、アラッドとは根本的な考え? が合わない人だったじゃん」


「そうだな。申し訳ないが、正義の英雄……皆仲良く一緒に頑張ろう的な思考が強かったからな」


「つまり、根がどうこうとか、プライド云々とか関係無く、善人であっても悪人であっても人の考えとか事情を理解出来ない人は理解出来ないってことだよ」


「……なるほど。確かに、そうだな」


全員がルールを、常識や法律を……モラルを守って生きられるのであれば、治安を守るための騎士や兵士は必要ない。


だが、それがどこまでいっても理想だからこそ、治安維持の為の騎士や兵士が必要なのだ。


(せめて職場である冒険者ギルド、同僚である冒険者はと思っていたんだが……意味のない理想を考えていただけだったな)


アラッドはこれから先五年、十年……数十年は冒険者として生きていくつもりである。

結婚などによって多少の予定変更はあるかもしれないが、それでも今すぐ辞める予定はない。


だからこそ、ただ真面目に頑張って上を目指そうとする者たちが、そのまま伸びていける様に……自分の伸びしろはここまでだと解ってしまっても、下の者たちに当たるような真似をしないように教育を施せる機会について多少考えていた。


(自分がされて嫌なことは、他人にしないようにしよう……教育を受けようが、それを実行出来る者が多くないからこそパワハラとか虐めが消えないんだったな)


ふと、前世の事を思い出し……アラッドは何とも言えない表情を浮かべた。

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