八百三話 身近にいるのでは?
(…………超デジャヴ、だな)
何度も信号? を自分たちに伝えてくる方向へ進み続けたアラッドたち。
そして遂に……信号? を送り続けていた主の前に辿り着いた。
「良く来てくれました、強き人間たち」
三人を呼んでいた主は予想通り氷の精霊……ではなく、ヤバいと噂の雪竜であった。
「あなたが、俺たちを呼んでいた? 存在なのですね」
「えぇ、その通りです。私は雪竜、グレイスドラゴンです。グレイス、とお呼びください」
「分かりました……グレイスさん」
アラッドは鋼竜、オーアルドラゴンと何度も対面し、話していた経験があるため、ある程度驚きを抑えて会話することが出来る。
スティームとガルーレに関しては、オーアルドラゴンと対面して話したことはあれど、正面にドラゴンがいるという経験はそう何度もしていない。
そのため、恐怖に怯えてはいないものの、驚愕の感情を隠すことが出来ていなかった。
「ところで、俺たちを呼んでいた? 理由はいったいなんでしょうか」
実際に対面し、アラッドは改めて信号? を送っていた存在は、自分たちに敵意や殺意がないと感じた。
だが、だからこそ雪竜グレイスドラゴンが自分たちにどういった要件があるのか解らない。
「簡単なことです。私は、あなた達と争うつもりはないと伝えたかったのです」
「な、なるほど? つまりそれは……人と争うつもりはないと」
「いえ、そういう事ではありません。私は、あなた達とは争うつもりはないのです」
グレイスから伝えられた言葉は脳内で反芻すること数秒。
アラッドはグレイスが自分たちに何を伝えたいのかようやく理解した。
理解したが……何故? という疑問が浮かんだ。
「俺たちと争いたくない、というあなたの気持ちは解りました。ただ、どうしてでしょうか?」
「簡単なことです。今、ここであなた達全員から襲われれば、私は死んでしまうので」
「「「………………」」」
スティームやガルーレもアラッドと同じ気持ちであり、三人ともグレイスの考えを聞き、驚きのあまり固まってしまった。
目の前にいるのは、間違なくドラゴンである。
生物ピラミッドの頂点に君臨するドラゴンの一種。
そんな存在が……戦えば死ぬと解っているため、お前たちとは争うつもりはない、と伝えてきた。
三人にとって、今の状況はあまりにも衝撃的過ぎた。
「ふむ? そこまで驚くべきことでしょうか」
「い、いや。なんと言いますか……そう、ですね。正直、かなり衝撃的でした」
「そうなのですか? あなたから凄まじい力を持つドラゴンの匂いがするので、身近に強くとも争うことなく、友好関係を築けているドラゴンがいると思ったのですが」
「っ!!!!????」
アラッドは慌てて自分の体を嗅ぐが、特にそれらしい匂いは感じない。
しかし、グレイスは間違いなくアラッドとオーアルドラゴンの関係を示す言葉を口にした。
「な、何故それを?」
「ドラゴンにしか解らない匂いがある、といったところでしょうか。何はともあれ、そういった反応を見る限り、私の様な存在があなたの傍にいるようですね」
「えぇ、そうですね……解りました。俺たちも、グレイスさんと争いません」
「ありがとうございます。しかし、あなた達とは争わない、その点に関して言及はしないのですね」
グレイスは確かに、あなた達とは争わない……つまり、アラッド達と争うつもりはないと口にした。
そして、アラッドの人と争うつもりがない? という質問を否定した。
その言葉、やり取りからアラッドたち以外の人間とは争う可能性があることを示している。
「グレイスさんに挑むのは冒険者たちの自由というか権利と言いますか、俺たちがどうこう言ったところで、抑えられることではありません。そして、そんな冒険者たちを撃退するのはグレイスさんにとってただの正当防衛なので」
知人、友人には「あの雪竜は本当に強いから挑まない方が良いぞ」と忠告するかもしれない。
だが、同業者とはいえ、大して交流のない冒険者たちを心配するほどアラッドはお人好しではない。
そしてそんな同業者たちも、アラッドから忠告を受けたとしても「ちょっと強いからって上から目線で語ってんじゃねぇぞ!!!」と反発し、争いに発展する可能性が高い。
「そうですか……理解があるようで感謝します。そういえば、まだあなた達の名前を聞いていませんでしたね」
「失礼しました。俺はアラッド・パーシブルです。こちらは俺の従魔のクロです」
「ワゥ!!」
「僕はスティーム・バリアスティーです。こちらは従魔のファルです」
「クルルゥ」
「私はアマゾネスのガルーレよ」
「アラッドにクロ、スティームにファル、ガルーレですね。しかと覚えました……ところで、アラッド。あなたの……家名? に、聞き覚えがありますね」
「多分、それは俺の父親が暴風竜ボレアスを倒したからかもしれませんね」
「なるほど。アラッド、あなたはあの人間の子供でしたか」
ドラゴンという恐怖と強さ、憧れに近い感情を抱かせる存在が、自分の父親を知っている……認めている。
それを知ると、どうしても無意識に笑みが零れる。
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