八百二話 信号?
「……なんだ、今の」
「アラッドも……今、何か感じた?」
「二人とも? それじゃあ、私の勘違いじゃなかったみたいね」
アラッドだけではなく、三人とも雪山の方向から何かを感じた。
「……敵意や、殺意はなかったと思う」
「そうなの? そこまで詳しくは解らなかったけど……でも、確かに敵意だ、殺気だ! って直ぐに解るようなものじゃなかったかな」
「敵意や殺意がないなら……この前の連中の関係者、ではないと思って良いのかな」
先日交戦した裏の組織に属する者たちが相手であれば、今度こそ慎重に戦わなければと身構えていたスティーム。
「そうだな。油断し過ぎるのは良くないが、おそらく俺たちと敵対しようと考えてる……存在ではないと思う。寧ろ……これは俺だけかもしれないが、呼んでいるように感じた」
「私たちと会いたいって思ってる存在がいるってこと? でも敵意や殺意がなくても、中々強烈な……存在感? が飛ばされてきたよね。ってことは、人間ではないのかかな?」
「…………実際に行ってみないと、解らないな」
そう言いながら雪山に向かって歩を進めるアラッド。
元々雪原地帯から雪山の方まで行く予定はなかった。
しかし、スティームは「しょうがないな~~」と、やれやれという顔を浮かべながらもアラッドに付いて行く。
ガルーレも予定を変更して雪山へ向かうことに異論はなく、寧ろまた強敵と遭遇できるのかと思い、ワクワク顔になっていた。
「にしても、どんな存在が私たちに向けて……何かを送って来たんだろうね」
当然ながら一日では到達できず、雪山のふもとで野営することになった。
「おそらくモンスターだとは思うが…………パッと出てこないな」
「ねぇ、アラッド。もしかしたら精霊っていう可能性もあるんじゃないかな」
「精霊か……無きにしも非ずではあるか。仮にそうだとしたら、俺たちに何か頼み事があるのかもしれないな」
肉に塩胡椒を振りながら、じっくりスノーグリズリーの肉を焼きながら、三人とも妄想を膨らませていく。
「住処を他のモンスターに狙われてるとか?」
「……人間に信号? を発信できるレベルの精霊なら、そこら辺のモンスターに負けないと思うが」
以前、アラッドはフローレンス・カルロストが契約している人型の光の精霊と戦ったことがある。
当時、まだアラッドが学生であったとはいえ、こんな手札を隠し持っているのは他の学生たちと比べて不幸肺になるのでは? ……と、デルドウルフという超反則級の従魔を従えているお前が言うかと総ツッコみされる感想を零していた。
「それじゃあ、並じゃないモンスターと争ってるのかも」
「並じゃないモンスターか。ガルーレがこの前戦ったヘイルタイガー……スティームが戦ったブリザードパンサー、俺が戦ったスノウジャイアント。もしくは、それらに近しい戦闘力を持つモンスターか」
「雪山の中にいるってことは、雪原で主に暮らしてるモンスターとはタイプが違うかもしれないね」
「熊……は、雪原にも生息してるか。蝙蝠系のモンスター、単純にコボルトの上位種が生息してる可能性もあり得るな」
コボルトは全身ではないものの、毛があるタイプのモンスターであるため、ゴブリンやオークなどと比べて寒い地域でも適応しやすい。
「クロと同じウルフ系のモンスター……動物から離れると、百足や蟻系のモンスターが幅を利かせててもおかしくないんじゃない?」
「百足や蟻系のモンスターか。そうなると、ワームの上位種とかの可能性も浮かんでくるな」
「うげっ!! ワームか~~~~。あんまり相手したくないかな~~~」
強敵との戦闘はいつでもウェルカムなガルーレだが、ワームはその見た目から戦闘欲が嫌悪感によって思いっきり削がれてしまう。
まだゴブリンやオークの上位種の方が闘争心が萎えずに済む。
「洞窟内だと、後は蜘蛛系のモンスターとかもいるよね」
「……モンスター同士の力関係、勢力図がどうなってるのかは知らないが、もしかしたら百足や蟻、蜘蛛系のモンスターが手を組んで精霊を追い詰めようとしてる……って場合もありそうだな」
「………………噂の雪竜が、精霊を狙ってる可能性もありそうよね~~~」
ガルーレが口にした可能性を聞き、二人の表情が固まった。
二人とも焼き上がった焼肉を従魔に渡しながら……表情が元に戻ることはなく、今度は自分の肉を焼き始めた。
「ちょっと~~、二人ともびっくりし過ぎだって。あくまで可能性の話じゃん。いや、それはそれで面白そうではあるけど」
「そう、だな。あくまで可能性の話……そもそも、精霊がって話も仮定の話だからな」
あくまで仮定の話だと何度も自分に言い聞かせるアラッド。
(噂の雪竜がどういったタイプなのかは知らないが…………あの屑風竜、ストールみたいなタイプだったら、やり易いんだがな)
パーティーのリーダーであるアラッドはあれこれリスクを考えながらも大きな怪我を負うことなく、時折再度飛んでくる信号? の先へと進んでいく。
そして翌日の夕方過ぎ……普段なら夕食を食べている時間に、信号? を放っていた存在と対面した。
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