七百七十三話 頼もしい姿

「ふっふっふ。どちらにしろ、お前たちが本気を出せば、討伐不可能ということはないだろう。クロもいることだしな」


「ワゥっ!!!」


任せて! と元気良く吠えるアラッドの相棒。



「ねぇ、アラッド。本当にスパイダーからタラテクトに進化したであろうモンスターと、糸で戦わないのかい?」


屋敷へと続く通路の道中、スティームもガルーレと同じ言葉を投げた。


「なんだ、スティームまで糸を使った俺とタラテクトの勝負を見たいのか?」


「ガルーレほどではないけど、珍しいなと思ってね」


糸と糸では、他の武器同士を使った戦いよりも盛り上がらない、比べられない。

そういった気持ちが解らなくはないが、それでも珍しいと思う気持ちの方が大きかった。


「……俺にとって、糸は確かにバカにされれば、屈辱を味合わせたくなるほど頼れる力だ。ただ……他の武器と比べて、ライバルと言える存在がいないだろう」


「ら、ライバル、か。それはまぁそうだろうね」


長剣、短剣、槍、斧等と比べてまず使う者がおらず、せいぜい暗殺者が使う程度の武器。


貴族の者が使うことはまずなく、アラッドの実家に仕える騎士たちの中にも使用する者は一人もいない。


「だからか、特に張り合おうという気持ちが湧いて来なくてな」


では、せっかくライバルと言えるかもしれない敵がいるのであれば、尚更挑もうという気持ちが湧かないのか!? と言いたかったガルーレ。


しかし、アラッドの表情から……これ以上同じ事を言えばイラつかせてしまうと確信し、口には出さなかった。


「とりあえず、ギルドに伝えておくか」


自分たちで討伐しても良いが、一応冒険者ギルドに報告しておくべきだろう。


そう思ったアラッドは屋敷に戻り、そのままギルドへ直行。

受付嬢に話を伝えるが……実は、既にここ最近、スパイダー系のモンスターの姿が多く確認されていた。


「……マジですか」


「え、えぇ。そうなんですよ。ギルドの方でも、実はタラテクトクラスのモンスターが潜んでいるのではないかという話が出ていて」


「被害の方は」


「今のところ死者は出ていません。しかし、状況次第では特にルーキーたちの身が危なくなるかと」


蜘蛛系のモンスターの武器は糸だけではなく、毒液や麻痺液といった状態異常系の攻撃といった、嫌らしいものもある。


状態異常を治すポーションは傷を治すポーションよりもやや高く、確実に回復魔法のスキルを会得してる者でなければ治せない。


故に、ルーキーたちにとってはこの上なく厄介なモンスターである。


「おい、アラッド。何をそんな心配してんだよ」


「タラテクトクラスのモンスターが潜んでいるかもしれないとなると、心配するなというのは無理な話かと」


声を掛けてきたのは、顔見知りの冒険者の一人。


「まっ、それもそうか。けどな、アラッド。できれば今回の件は、俺たちだけで解決したいと思ってるんだよ」


「…………理由を聞いても良いですか」


嫌だ、俺たちが倒す、別にモンスターを倒すのに予約制なんてないだろ……といった言葉を吐かず、一旦顔見知りの考えを聞くことにした。


「簡単な話だ。ヤベぇ、強ぇモンスターが現れたからつって、お前に頼るのは情けないだろ」


幼い頃ならまだしも、今のアラッドは自分たちよりも数段強い。

それは彼も解っていた。


起こってしまう被害を考えれば、アラッドたちに討伐してもらった方が良いのは、考えなくても解る事である。


「いざとなればアラッドに頼れば、領主が出てくれれば一発で解決……ってのはよ、俺らのプライド的にはちょっとな」


「解らなくはないですが」


「勿論あれだぜ、どうしようもねぇってなったら、頼らせてもらうことになる。情けなねぇけど、そこまで意地は張れねぇ」


男はただ暴走して「俺たちだけでなんとかしてみせるぜ!!!」と言ってる訳ではなく、最低限のリスクは考えている。


「でもな、自分たちで何もせず最初っからお前らを頼るのは、それ以上に情けねぇしダセぇだろ」


情けない、ダサい。

そういった感情が理由でリスクに突っ込んでほしくないという思いは……あるにはある。


しかし、アラッドも冒険者であり……そして男。


(……はぁ~~~~~~~。どうやら、この先輩だけの意見って訳じゃなさそうだな)


全員が全員、アラッドの顔見知り冒険者と同じ意見という訳ではない。


「…………分かりました。十分注意して、対策を立てて挑んでくださいよ」


「おぅよ。まっ、実はタラテクトの一歩手前ぐらいのレベルが一番ありがてぇんだけどな。なっはっは!!!!」


強腰なのか弱腰なのか解らない先輩の様子に……アラッドは小さく笑みを零し、伝えたいことは伝えたのでギルドから出た。


(あそこまで言わせて、あんな覚悟の決まった顔をされたら、やっぱり俺たちが……なんて言えないな)


生き残ってこそ冒険者。


それが彼等にとって最優先事項なのは間違いない。

だが、時にはプライドや誇り、想いを優先しなければならない時がある。


「はぁ~~~~…………仕方ない、か」


大きなため息を吐きだすも、頼もしい顔見知りたちの頼もしい姿を思い出し、また……笑みが零れていた。

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