七百七十四話 謎が過ぎる凄い人
「本当に良かったのかい、アラッド」
「先輩たちにタラテクトとその他のスパイダー系モンスターを討伐する機会を譲ったこと、か?」
「当然、それだよ」
冒険者ギルドから出た後、直ぐに屋敷に戻ることはなく、街中をぶらぶらと歩いている三人。
「アラッドだったら、先輩たちが意地を張ろうとしても、それならせめて一緒に戦う。もしくは最前線には出ないけど、後方から遠距離攻撃で支援するとか、何かしらの条件を付けると思ってたんだけど」
「…………あの人たちは、確かにこの街の住民だ。俺は……あの人たちが一般市民であれば、頼みを却下して俺たちだけで戦おうとしたよ」
意地を張らせてくれと申し出た人物は、確かに街の住民ではあるが……戦闘を生業とする冒険者である。
「でもさ、あの人たちは俺らと同じ冒険者なんだ。逆にさ……スティームはどうなんだ。自分よりも強い同業者の力だけに頼ってしまうのは」
「っ、それは………………確かに、嫌だね。普段そんな事を気にしない質でも、つい意地を張ってしまうかもしれない」
当然のことながら、アラッドにそんなつもりはない。
そんなつもりはないのだが、自分よりも強い同業者の力に頼ってしまうという言葉は、スティームに対しても……少し考えさせられるものがある内容だった。
「彼らは彼らで、覚悟を持って冒険者として活動してるんだ」
「……ぶっちゃけ、何人かそうでもない顔をした人もいたよ」
「そうだな。全員が全員、あの先輩ほど覚悟を持っていたり、誇りを持ってはいないだろうな。別にそれに関してどうこう言うつもりはない」
アラッド個人としては、そういった覚悟を持って行動していた方が良いとは思っているものの、同業者たちに強制するべきではないと解っている。
「でも、あの先輩の様に覚悟を……誇れるプライドを持ってる人も多くいた。それなら……俺が前に出るのは、最後で良いと思ってしまった」
「なんか難しい事を考えてるみたいだけど、それでアラッドが納得してるなら、私としては別に何も言うことはないかな」
「僕も……そうだね。アラッドがそれで後悔しないなら」
「後悔か……………………そうだな。一緒に戦わずとも、出来ることはあるよな」
「「???」」
何を思ったのか、アラッドは商人ギルドへと向かった。
「どうも」
「あ、アラッド様!!!??? ほ、本日はどういった御用で?」
商人ギルドの職員たちにとって、アラッドはただ凄い……ではなく、良く解らな過ぎるけど凄い人、という印象を持っている。
特に何かしらの商売はしてない。
知る者はキャバリオンという錬金術によって造り出した物を販売している事は知っているが、アラッドの資産は……キャバリオンという品物の売買が行われるよりも前から圧倒的な速度で増え続けていた。
まさに、謎が過ぎる凄い人物。
「金を引き下ろしたい」
そう言いながら、アラッドは懐から商人ギルドのギルドカードを取り出した。
「お、お待たせしました」
「ありがとうございます」
じゃらじゃらと音が生る袋を受け取り、手数料を支払い、要件は終了。
ロビーにいる全員が、あの袋の中にはどれほどの現金が入っているのかと気になるも……領主の息子ということもあり、誰も声を掛けることが出来なかった。
「………………」
「どうした、スティーム。変な顔になってるぞ」
「いや……変な顔にもなるよ」
直ぐ近くにいたスティームは、アラッドが受け取った袋の中に、どれほどの現金が入っているのかを知っている。
スティームの様に変な顔にはなっていなかったが、ガルーレもどういった顔をしていいのか分からなかった。
「さて、今言ってもあれだから……夜に向かうとするか」
宣言通り、アラッドは夕食を食べ終えた後、夕食後の訓練を行わず……一人、クロも連れずに冒険者ギルドへと向かっていた。
変装用のマジックアイテムを使っていることもあり、通行人にバレることなく冒険者ギルドに到着。
そして……そのまま馬鹿正直に中に入るのではなく、レンタル用の馬などを飼育しているスペースへと向かい、丁度世話をしていたギルド職員を発見。
「失礼、少し良いですか」
「はい、何かあっ!!!!!?????」
アラッドに声を掛けられた職員は、変装用のマジックアイテムを解いた有名人の姿に驚くも、声を出さないでほしいというポーズを見て……咄嗟に自分の口を両手で塞ぐことに成功。
「ありがとうございます。少し、ギルドマスターに伝えたい事があって」
「か、かしこまりました」
職員は直ぐに許可を取りに向かい、アラッドは再び変装用のマジックアイテムを使用して裏口からギルドへと入った。
「やぁ、初めましてですね」
ギルドマスターが働く執務室に入ると、親しみやすいタイプのイケおじギルドマスターがアラッドを笑顔で迎え入れた。
「どうも、初めまして。早速ですが、俺に下手な敬語は使わないでください。少なくとも、今の俺は冒険者なので」
「はっはっは、そうか。そう言ってもらえると嬉しいかな」
ソファーに腰を下ろし、秘書が用意した紅茶を一口飲み……その後、アラッドは直ぐに本題に入った。
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