七百十四話 自惚れていた?

(……あのロングソード、本気で、気になるな)


試合に集中すると宣言しながらも、意識はチラチラとラディアが持つロングソードに向いていたアラッド。


しかし、全くラディアの斬撃がアラッドの体を斬り裂くことはなく、斬撃も斬撃刃も全て対処していた。

ラディアの攻撃が全くヒットしない状態が続くも……それはアラッド側も同じであった。


(それにしても、基礎戦闘力からして、あの二人よりも、強いのは間違いない、な)


あの二人とは、フローレンス大好き超大好き信者のソルとルーナ。


アラッドをその場から一歩も動かすことが出来ず、糸と魔力だけしか使用しなかったアラッドに負けた二人ではあるが、あの二人は同世代の中で男女関係無く頭一つ抜けた存在。


そんな存在よりも、今も斬り結でいるラディア・クレスターの方が強いと断言出来る。


「強いな」


「試合中に、会話とは、随分と、余裕ですね」


「それは、お互いさまでは、ないのか」


試合中に会話というのは、ハッキリ言ってバカがする事。


次どう攻撃するか、どう相手の攻撃を防ぐのか、それとも躱すべきか。

試合中に考えなければならない事は腐るほどある。


会話をするということは、それだけで思考力がそちらに囚われてしまう。


だが……二人は相変わらずハイレベルな斬撃戦を行いながら、会話を続けていた。


「……そうかも、しれませんね。しかし、あたの顔から……全く余裕な表情が、消えませんね」


「ニヤけてるつもりは、ないのだがな」


「感情が透けて見えている、と言ったところでしょうか」


ラディアの言う通り、アラッドの表情は至って真剣であり、相手を侮るような表情はしていないが……ラディアはこれまでの人生の中で、多くの人物と戦ってきた。


貴族令嬢である時から、冒険者として活動を始めてからも……様々な人物と戦っていた。

そういった経験から、例え相手が真面目な表情をしていても、その裏でどんな顔をしてるのか解るようになった。


「そうか…………一応、謝っておこう。ただ、予想以上に代表戦の対戦相手である、あなたが、強くてな」


「嘗めてた、と言う訳では、なさそうね」


「……正直に、言うと、自惚れていたと言った方が、正しいかもしれない」


アラッドは今現在の自身の戦闘力に満足してない。

他人からすれば、お前はどこまで行けば満足するんだとツッコみたくなる。


ただ……アラッドがこれまで重ねてきた功績は、紛れもなく並ではなく、アラッドを狂者…………ではなく、強者たらしめる内容。


本人はそこまで気にしてこなかったが、少しでもアラッドを知っていて、好意を持っている者たちは、その功績を凄いと褒める。

人によっては褒め過ぎと言いたくなるぐらい褒める。


アラッドも、それは嬉しい。

そしてそこで満足しないのがアラッドなのだが……ナルターク王国に到着するまでの会話の中で、もしかしたら若手冒険者枠の対戦相手が、良い試合をするのが目的で、自分に勝つ気はないのではないか。

そんな話が身内の会話で出てしまったため、これまでの自身の功績を振り返り……本気でその可能性について考えていた。


「だからこそ、あなたの様な、本当の強者が対戦相手で、嬉しいという気持ちが、ある」


「なるほど。そういった理由でしたか……一応納得、出来ました」


嘘は付いていない。

人によっては、傲慢で上から目線だと感じ、怒りを抱くかもしれない。


だが、ラディアはアラッドの言葉から、表情から、瞳から……透き通る湖の様な美しさを感じ取った。


(この方も真の強者だからこそ、持っていた考えなのでしょう)


ラディアも対戦相手になるであろう冒険者の情報はそれなりに集めていた。


その中でも、アラッドが積み重ねてきた情報は、頭一つ二つどころではなく、四つ五つ越えていた。


候補として選ばれた者の中には、盛られ過ぎた功績だと鼻で笑った者もいた。

しかしラディアは……その情報を変に疑うことはなかった。


相手がどんな功績を積んでいようと、同じ若手冒険者であることに変わりはない。

実家云々など関係無く……ただ、目の前の相手と対峙すれば、全身全霊で勝利を取りに行くのみ。


(……レイ嬢に、似ているかもしれないな)


初対面であり、戦闘中に喋りはしているものの、自分の何かを紹介し合ったわけではない。


それでも、ラディアの戦闘に……試合に対する姿勢を、純粋な闘志を感じ取り……思わず笑みが零れそうになる。


「ところで……そろそろ、ギアを上げませんか……お互いに」


「……そうですね。それでは」


次の瞬間、アラッドは風の攻撃魔法を……ラディアは水の攻撃魔法を発動。

当然の様に二人は斬撃戦を続けている。


(やはり、平然と行える、か)


どちらかが一方的にトラッシュトークをするのではなく、ただただ普通に会話を行っていた。


アラッドはそんなラディアの対応力から、自分と同じく接近戦を行いながら平然と攻撃魔法を放てるのではと予想していた。

見事その予想が的中し……着実にアラッドのボルテージが上がっていく。


そして、それは対戦相手であるラディアも同じだった。

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