七百十五話 自分たちなら

SIDE スティーム達


「ねぇねぇ、あの人結構凄いね」


「国の若手代表枠に選ばれた人だからね。凄いのは当然なんだけど……うん、ガルーレが口に出して言いたくなるのも解るよ」


観客席からアラッドとラディアの戦闘を観戦しているスティームたちは、改めてラディア・クレスターの強さに感心していた。


「私は殆ど魔法を使わないからあれだけど、あんなにばんばん攻撃魔法を使いながら、さっきまで以上の剣速で斬り合えるのって、かなり凄いんでしょ」


「……僕は、超凄いと思うかな」


「私もスティーム君と同意見ですね。アッシュ君はどうでしょうか」


「凄いんじゃないですか? シルフィーは大剣使いなのであまり必要な技術ではないにもかかわらず、頑張って会得しようとしてますけど、まだ実戦ではおそらく使えない。現在高等部の人たちでも……あそこまで適当に攻撃魔法をぶっ放さず、アラッド兄さんと斬り合える人は……いないんじゃないですか?」


口ぶりから、アッシュが魔法の発動と剣戟を同時に行えるのが丸解かり。

スティームたちは改めてアッシュもアッシュで、アラッドが自分以上の才とセンスを持つ男という言葉を理解させられた。


(レイ先輩ならと思ったけど、あの人でも……多分、あそこまで威嚇じゃなくて、攻撃目的で魔法を発動し続けるのは無理だろうな)


アッシュの中で、学生の中で強さランキングトップに居るのは、見た目以上の超身体能力を持つレイ。


そんなレイなら……と思ったが、アッシュは冷静に現在あの兄と互角に戦っているラディア・クレスターの方が上だと判断した。


「スティームなら、どう戦う?」


「……………………アッシュ君と、同じ戦法を取るかな」


「初っ端から赤雷を使うってことね」


スティームの切り札と言えば、赤雷。

魔力の消費が激しいため、本当に切り札と言う言葉が似合う内容の手札であるため、そう簡単に切る事は出来ない。


しかし、現在敬意を持つ友人と戦っている同じ若手冒険者の強さを見た感じ……勝つにはそれが一番安全だと断言出来る。


(勝敗の結果に生死が関係無いなら、赤雷を使って万雷を下せば倒せそうだけど………………万が一、防がれたり避けられたりした見事なカウンターを食らっちゃうよね)


雷獣の素材をメインに使ってハーフドワーフのリンが製作した得物、万雷。

武器と同じ名前の技が付与されており、マジ通り万の雷を下すことができる。


風属性の攻撃魔法等と同じく、素早さが売りの攻撃魔法であるため、避けることが難しい。

防いだとしても……相手がタンクであろうが関係無く全力で焦がして真っ黒にするため、防ぐという選択肢は完全に悪手。


ただ、万が一避けられてしまった場合……スティームは一気にガス欠になってしまうため、カウンターを食らえば……一発KOされてしまう。


「そうだね。僕もあの人が使ってる剣が気になるから、今言った通り最初から赤雷を使うかな……アッシュ君なら、どう戦う?」


「僕ですか? …………そもそものレベルが違うと思うんで、戦いたくないですね」


「Aランクモンスターの素材を貰えるとしても?」


そもそも戦いたくないというアッシュの考えは解らなくもないが、それなりにアッシュの性格を把握してきたスティームは見事会話を続かせ、考えを引き出すことに成功。


「…………可能性があるとすれば、トラッシュトークってやつで相手の冷静さを奪ってから、一気に攻める。あの人レベルの強さを持つ相手だと、僕が勝つにはそれしかありませんね。もっとも……今アラッド兄さんと戦ってる人は、単純な挑発に乗ったりしなさそうですけど」


「なるほど。やっぱりそういった感じになるよね。ガルーレは?」


「私はペイズ・サーベルスが発動してからが本番かな。スタミナには超自信があるから、相手のスタミナ消費を狙う形になるかな…………そんな関係無しに突っ込んで殴って蹴って倒したい感はあるけど、あの人レベルの相手だとねぇ~~~~」


ガッツリ殴って蹴って、斬って突いてといった感じの戦いを好むガルーレではあるが……やはり負ければ、それ相応の悔しさを感じる。

故に、時には好みを捨てて戦うこともある。


「フローレンスさんはどうします?」


「…………おそらくですが、契約している精霊を召喚することになるでしょう」


フローレンスはアラッドに破れてから、騎士になってから強くなったという自信があった。


そして実際のところ、フローレンスは確実に強くなっていた。

それでも……ラディア・クレスターからは、荒波にもまれた経験から身に付く強さを感じる。


(場合によっては、精霊同化を使う可能性もありそうですね…………というより、やはりあのロングソードは……)


剣に対する疑問が確信に変わりつつあるタイミングで……アラッド対ラディアの戦況に変化が訪れた。


「ッ!!!! やはりあれは……精霊剣でしたか」


「ふ、フローレンスさん。精霊剣って、もしかしなくてもあの精霊剣、ですか?」


「もしかしなくても、あの精霊剣です…………これからが、本当の勝負と言ったところでしょう」


明らかに戦況が変わった。

この時、アッシュ対リエラの時と逆で、ナルターク国王が盛大にニヤニヤしていた。

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