六百四十七話 他にもいたような

(倒す倒す、絶対に倒す。殺す殺す殺すコロス、切る切る切る斬る、斬る……キルッ!!!!!!!!)


「ッ!!!!????」


完全にイってしまった雰囲気を醸し出しながら赤雷を纏った双剣を振るうスティーム。


その姿は、普段のスティームからは考えられない程荒々しく、鋭いが……間違いなく、強い。


それに対してソルヴァイパーは……半ダンジョン化したリバディス鉱山に誘惑され、ボスモンスターとなった。

よって、これまでのソルヴァイパーと違い、戦闘の際に回避や防御といった手段は取るものの、その場から逃亡しようとはしない。


それはどれだけ……ソルヴァイパーが目の前に迫る冒険者に対して恐怖心を持とうとも、それを上回る闘争心が溢れ出す。


(チッ!!! 嘗める、なッ!!!!!!!)


ただ、半ダンジョン化した地帯のボスモンスターとなり、好戦的な性格へと変更した筈のソルヴァイパーだが……正直なところ、まだ全力で攻めて攻めて攻めまくるという姿勢に慣れていなかった。


加えて、ソルヴァイパーが以前、スティームとの初戦で得た武器、白雷は防御に優れている。

一応攻撃にも使用出来るが、攻撃性能は言うまでもなくスティームが扱う武器、赤雷の方が優れている。


逃げたい……スティームとの攻防が行われるために、闘争心によって潰されたはずの恐怖心が蘇る。


もし、もし万が一ソルヴァイパーが半ダンジョンの摂理に反し、逃走することに全意識が振り切ったとしても……それはただ対戦相手に背を向けることになってしまう。


何故なら、まだまだアラッドが設置したオリハルコンの糸による牢獄が健在だからである。

白雷を纏って全力で突進したとしても、簡単に破れる代物ではない。


オリハルコンまで強度を高めたが故に、通常の糸と違って時間制限はあるが……すくなくとも、スティームが倒すまでは保たれる。

アラッドが大半の魔力を消費して展開したということもあり、スティームもその強度は信用している。

だからこそ……前回に関する不安、失敗は完全に頭の中から消えており、ただ前回……自分のせいで逃がしてしまった敵を斬り刻み殺す為だけに駆ける。


「疾ッ!!!!!!!」


「ジャッ!? ァ!!!!」


駆ける駆ける駆ける。


赤雷を纏うスティームは戦場を縦横無尽に駆け回る。

ソルヴァイパーは気配だけではなく、生物の熱を感知して敵の位置を把握することが出来る。

それもあって、人間という存在を見失うことはないが……ただ、ただただ速かった。


白雷を纏っている。

だからこそ、赤雷を纏った斬撃を食らっても、なんとか一撃でぶっ倒れることなく済んでいるが……全く反撃が出来ない。


オリハルコンの糸による牢獄によって行動範囲を縛られているから?

それは確かにあるだろうが……一番の要因は、赤雷を使用し続けられる短さを把握しているが故に、スティームが防御という意識を捨てて獣の如く攻めて攻めて攻め続けているから。


(今、ここッ!!!!!!)


既にソルヴァイパーの体には十を越える斬撃が刻まれており、臓腑までには達してないとはいえ、それでも血はダラダラと流れていた。

白雷を癒すことだけに集中して利用すれば治る傷も、こうまで相手の動きや繰り出される攻撃に集中しなければならないとなると、それだけに集中する訳にはいかない。


作戦による逃走すら行えない……それが完全にソルヴァイパーの行動を抑制し、一瞬にして死地へと追い込む。

失血による眩暈などの現象は人間だけの反応ではなく、モンスターも同様に起こる。


今のソルヴァイパーには…………それを囮にして反撃、という思考に至る事すらなく、持ち上げていた頭部が不自然に下がってしまった瞬間を狙われ、頭部を切断。


「はぁ、はぁ、はぁ………………ギリギリ、セーフ……かな」


時間にして、十数秒。

赤雷を会得してから、スティームもレベルアップしており、赤雷を常時纏い続けられる時間は現在も増加中。


それでも、白雷を会得したソルヴァイパーは……防御力などに関しては、Aランクに近い。

スティーム一人だけで討伐するというのは非常に危ない綱渡りとだったのだが……スティームはその中でも、回避二割りに攻撃八割。

それを意識して攻め続ける選択肢を選んだ。


結果、ソルヴァイパーがまだ全力で敵を倒すという事に慣れていなかったというハンデを差し引いても、見事な勝利だと言える。


(結構切り刻んじゃったけど……まっ、素材としては使えるよね)


戦闘中、スティームは全く素材のことなど考えられておらず、当然ながら心臓は傷付けないように戦わないといけない……なんて考えは全くなかった。


「っと、はは。やっぱり……かなり無茶したみたい、だね」


ソルヴァイパーを回収しておこうと思って動くと、膝が地面に付いてしまった。


「そういえば…………確か、ソルヴァイパー以外にもいきなりモンスターが現れた様な……」


本能的に目の前に現れたソルヴァイパーが、前回逃してしまったソルヴァイパーだと感じ取ったスティームはそれしか目に移っておらず、他にどういったモンスターが同時に現れたのか把握していなかった。


だが、周囲を見渡すと……ほぼ同じタイミングで炎蛇と黒蛇が討伐された。

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