六百四十六話 逃がすか!!!

「……ここら辺、もしかして新しくできた道かな」


「ん~~~~……そうかもしれないな」


「ワゥ!!!!」


「ん? やっぱりスティームの言う通りなのか、クロ」


「ワゥ」


「そっか。なら、ここは本当に新しくできた道なんだろうな」


今日も今日とてアラッドの採掘がメインとなりつつあり、剛柔の探索はついでになってきている三人。


とはいえ、アラッドも含めて自分たちの最終的な目標は剛柔のゲットということは忘れてない。


「新しくできた道、ねぇ……それなら、ちょっとは期待したいわね」


「だな~~…………っと、気になるところ発見」


……やはりアラッドは採掘にしか興味が向いてないかもしれない。


気になる場所を発見し、頑丈なツルハシで削って削って削り、鉱石の姿が見えてきたら丁寧に採っていく。


「っし、お待たせ」


「本当に手慣れたものね~~~」


「子供の頃から同じことをやってたからな」


「……改めて聞くと、やっぱりちょっとおかしいよね、それ」


「ちょっとおかしい件に関しては俺本人も自覚してるよ」


ちょっとどころではないが、色々とおかしい事に関しては言葉通り本人も自覚、理解している。


(良い鉱石も手に入ってきたな…………どうせなら、久しぶりに完全に遊びでキャバリオンを造ってみるか? それなりに良い素材は揃っている……なにより、轟炎竜の素材は使ってみたい)


先日、まさかの一件で火竜ではなく轟炎竜と戦うことになったアラッド。


そしてクロと共に討伐し……解体して得た素材の一部は実家に……ハーフドワーフのリンに送った。


それでも、アラッドの手元には多くの素材が残っている。


(いや、轟炎竜の素材を使うなら、もう少し質の高い鉱石を使った方が良いか? 遊びとはいえ、折角のAランクモンスターの素材を無駄にはしたくないしな)


ここ最近、ミスリル鉱石を手に入れたアラッドだが……轟炎竜の素材を十全に活かすとなれば、やや量が足りない。


「っ…………揺れた、か?」


「ん~~~~……かもしれないわね。もしかしたら、ワームとかのモンスターが移動してるのかもね」


鉱山内ではよくある話だが、崩落の危機も否定出来ない。


「崩落、とか大丈夫だよね」


「ここは半ダンジョン化した鉱山だろ。多少無理に人が掘ったとしても、特に問題はないと思うぞ」


確証があるわけではないが、アラッドたちが軽く集めた情報の中に、これまでにリバディス鉱山が崩落したという情報は一つもなかった。


「…………どうやら、ガルーレの予想が合ってたみたいだな」


ただし、ワーム以上の個体が迫ってきていた。

加えて……その数は一体ではない。


「「「ッ!!!!」」」


殆ど同時、予想していた通り、ワーム以上のモンスターが……合計で三体現れた。


「「……逃がすカァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」」


「っ!!??」


三体の内、一体のモンスターの姿……纏う空気を把握した二人の眼の色が一瞬で変わった。


スティームは即座に赤雷を纏い、双剣を抜剣。

そしてアラッドは……三体がボスモンスターに分類されるモンスターであれば逃げない可能性が高いにも関わらず、オリハルコンの糸をそこら中に張り巡らせ、完全に逃げ道を塞いだ。


そこまで二人が眼の色を変えるほど必死になるモンスターは……そう、前回うっかり逃げられてしまった白蛇、ソルヴァイパーである。


別のソルヴァイパーではないのか?

そう思うかもしれないが……二人には解る。

そもそも半ダンジョン化した地帯には、モンスターを生み出す能力はなく、周囲のモンスターを引き寄せる効果しかない。


「わぉ! あんな荒々しいスティーム、初めて見るわね! それで、アラッド……私は、あっちの黒いのを相手しても良いかしら」


「そっちの黒いの……ディーマンバとは戦ったことがあるから良いぞ。俺はこっちの赤い奴と戦る」


「オッケー! んじゃ、いくわよ!!!!!!!」


アラッドたちの目の前に現れたモンスターは白蛇、炎蛇、黒蛇の三体。


二体は以前二人が遭遇したソルヴァイパーとディーマンバ。

そして最後の一体はプロミネンスコブラ。


二体と同じくBランクのモンスターであり、火を扱う珍しい個体。

Bランクモンスターが三体と、ボスとしては申し分ない戦力。


「「…………」」


ただ、三人それぞれロックオンした大蛇を倒すことに集中し過ぎた為か……クロとファルはすっかり空気となっていた。


「………………ワフゥ」


一応、主人が展開したオリハルコンの糸に振れたクロ。

頑張れば切り裂けるが……主人が何のためにこれほど頑丈な檻を展開したのか、前回白雷を習得したソルヴァイパーを逃がしてしまった事をクロはなんとなく覚えていた。


「ワフゥ~~~」


「クルルゥ……」


今回は自分たちがすることは何もないと悟った二体。


あの中に入ろうとする命知らずはいないと思わなくもないが、それでもここが普段冒険している場所とは違うことを把握している二体は関係無いモンスターが割って入ってこないかの警戒を始めた。


しかし、結果として三人の戦いが終わるまで余計な邪魔をしに来るモンスターは一切現れなかった。

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