六百四十五話 こいつ、言いやがった

「アラッドって、本当に容赦ないところは容赦ないよね」


雷獣での一件などはまだ記憶に新しく、クソイケメン優男先輩に対して容赦ない正論パンチをぶつけまくっていた光景はまだ覚えているスティーム。


「容赦ないというか……相手の対応次第だ。まともなら、こっちもまともに対応するに決まってるだろ。というか、まともな相手から求婚なら、断るか受けるかは置いといて……わざわざ俺を呼ばないと思うけどな」


そもそもな話、そろそろ自分が知り合いの王女様には婚約者ができてもおかしくないと考えている。


故に、まともな相手であれば寧ろそのまま進めても良いのではと思うアラッド。


「まともかどうかは置いといて、戦う相手が貴族を越えて王族とかになったら、やっぱり緊張するものじゃないな?」


「自国の王族なら大なり小なり緊張はすると思うが、他国だろ……あまり他の貴族の前や、王族の前では言わないけど、元を辿れば同じ平民だろ」


「「っ!!!!!!!!!」」


言ってしまった……こいつは、言ってはいけない事を言ってしまった!!!! といった思いが顔に滲み出る二人。


「あ、アラッド…………わ、私は貴族じゃないから、その……あれだけど、貴族がそういう事を、言って……良いものなの?」


「絶対に駄目だろうな。お前たちの前でだからこそ言ったんだ」


「そ、そう……信用してくれてるのは、嬉しいけど……」


「……アラッド、あまり心臓が止まりそうになるような事をサラッと言わないでよ」


ガルーレ以上に心臓バクバク状態のスティーム。

他国の者とはいえ、一応……一応、注意しておかなければならない。


「分かった分かった、すまなかった。でもな……本当に俺たちや平民から認められるような人って言うのは、その事を自覚した上で、王族としての責務を全うする人だと思う。勿論、良い意味での責務をな」


生まれた立場ゆえか……それとも、周りの世話係などの育て方のせいか、平民を人とも思わない権力者と言うのは、一定数存在する。


(……そこら辺を考えると、弟は俺というバグみたいな存在がいたにも関わらず、そうう意味で悪い方向に進まなかったよな……結局危ないおクスリに対しての誘惑にも打ち勝ったし)


アラッドの弟、ドラングがやってしまった事といえば、社交界で感情的にアラッドの評価を落す様な発言をしていたこと。


それはそれで宜しくないことではあるが、実家の人間以外の者に迷惑を掛けてはおらず、実は裏で取り巻きを率いて男爵家や子爵家の子供を虐める、などの行為も行っていなかった。


「とにかく、相手がまともであれば俺も殺意を抱いて殺す様なことはしない……今回絡んで来た? あのアマル・エスペラーサという男も、やり方は気に入らなかったが、それでも恥を忍んであぁいった申し出を俺にしてきた……あぁいうタイプであれば、せいぜいイラつく程度で済むだろう」


それなら……とはならない。

ガルーレはイラつくアラッドに、それはそれで魅力的だと感じていたが、スティームにとってはいつ殴り合い……という名の一方的な暴虐が始まるのかと、気が気ではなかった。


「まっ、知り合いの王女様からそういう頼みをされるなんて、基本的に起こりえない話だ」


「…………」


「なんだよ、スティーム。その眼は」


「いや、なんと言うか……ここ一年ぐらいアラッドと共に行動してるけど、それまでの冒険者人生と比べて明らかにデンジャラスであり得ないことの連続って感じだからさ……それぐらいあり得るかなって」


「それぐらいって件じゃないと思うんだが」


「確かにそれぐらいって感じの内容じゃないかもしれないけど、アラッドならあり得そうって思えるね~~~」


ガルーレは非常にスティームの考えに賛成だった。

二人にそこまで言われると、アラッドは強く反論出来なかった。


(そりゃあ、普通じゃない旅を望んで歩んできてるわけだが………………まっ、あの王女様からの頼みであれば、断りはしないな。キッチリ報酬は貰うが)


轟炎竜の焼肉を食べ終えたアラッドたちはその後も採掘を行いながら、元気良く襲い掛かってくるモンスターとも戦い続けるが……結局、その日も剛柔を手に入れいることは出来なかった。



「ねぇ、そういえば二人は、なんか剛柔の手掛かり? を見つけたんだっけ」


その日の夜、再びバーで呑んでいた三人。

そこでスティームは二人が剛柔に関して、あまり悲観的になっていない事に気付き、その理由を尋ねた。


「あぁ、そうだな。仮説ではあるけど、今のリバディス鉱山には……が足りないんじゃないかと思ってな」


「っ!!!!」


アラッドの考えを聞いたスティームは、既に始まっていた多少の酔いが一瞬にして吹き飛んだ。


「そ、それは…………そっ、か。確かに、それと納得出来るあれは……まだ、いないかもしれないね」


「そうだろ。とはいえ、ただの仮説だから、確証はない。だからギルドにも報告はしてない」


「ま、まぁその方が良いだろうね」


その情報を伝えたところで……正直なところ、アラッドたちが不利になることは、あまりない。


何故なら……知ったところで、大多数の冒険者には対処出来ないことだから。

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