六百四十二話 どう扱っても構わないが……

「……なんか、冒険者が増えてきたか?」


採掘と探索から帰って来た三人は、いつも通り討伐して解体を終えているモンスターの素材を売却しに、ギルドの中へ入る。


すると、ギルド内には予想以上の冒険者たちがいた。


「リバディス鉱山はかなり広い。そんな広い鉱山が半ダンジョン化しているとなれば、興味を持つ同業者たちも増えるだろうね」


「…………もしかして、アラッドが一つの要因になってるかもね」


「? ガルーレ、それはどういう意味だ」


「そのままの意味よ」


先日、アラッドはエスペラーサ家の次男、アマル・エスペラーサと衝突。


結果としてアマルの方がアラッドから受けた言葉を良い意味で捉え、それ以降両者が再度激突するようなことはなかった。

しかし……あの件に関して、アマルたちと共に行動している冒険者二人が言いふらすことはあり得ないが、周囲に居た酒場の客である冒険者たちは別である。


そもそも男女問わず、冒険者と言うのはお喋りなもの。


とある酒場で、あの今噂の侯爵家出身のアラッドと、領主の息子でありこちらも侯爵家の出身であるアマルが衝突した件に関して……何故衝突したのかという話が、徐々に広まり始めていた。


その話を耳にした冒険者たちの中には……剛柔を売らず、自分たちの物として扱う。

新しい自分の得物として振るうことは、決して悪いことではない!!! という気持ちが大きくなっていた。


それもあって、かつての英雄であるエルス・エスペラーサが使用していた名剣を自分の物に! と意気込む冒険者がたちが更に増えていた。


しかし、ほぼ毎日リバディス鉱山に潜っていたアラッドが、それを知る訳がなく、冒険者達が増えている理由が自分にある……とは微塵も思っていなかった。


「自分にそこまで影響力があるとは思っていない」


「ん~~~……それは、あれじゃないかな。今回冒険者が増えてる件に関してはどうなのか解らないけど、その考えはちょっと自分を過小評価してると思うよ」


「そうか? …………まぁ、だとしても自意識過剰になるより過小評価の方が良いだろ」


自分の実力が低いとは思っていない。

それを言ってしまうと、さすがに謙虚を越えて嫌味になるのは解っている。


だが、影響力まで人並外れたものを持っている……と、とりあえず自分からは言えない。


(俺としては、こうも冒険者が増えられたら、剛柔を他の奴に先取りされないか心配なんだが…………まっ、その時はその時で仕方ないと諦めるしかないか)


エルス・エスペラーサという英雄に何かしらの思い入れがあるのではなく、武器に関しては既に渦雷と迅罰という頼れる得物がある。


手に入れた者に交渉を持ちかけてでも手に入れたいという欲は、アラッドの中にはない。


「でもあれね、これだけ探す人が増えてきたなら……ひょっとして一か月以内には見つかるかしら?」


「そうだな…………まっ、見つけるなら俺たちが見つけたいがな」


剛柔を見つけることに関しては、戦闘力の高さだけでなんとかなるものではない。


アラッドたちではない……それこそ、Dランクの冒険者たちなどが見つけてもおかしくはない。

ランク自体を考えれば、彼らが扱うには実力不相応というものだが、それでも発見者がどのように扱おうとも、それは発見者の自由。


ただし……グレー、もしくは黒い手段を行うことに罪の意識がない連中に狙われれば、自分たちの首を絞める結果になる可能性もある。


(それでも、そもそもリバディス鉱山から剛柔が見つかる条件が揃ってない可能性もある…………鑑定で調べても解るものではないし……この世界にグ〇グル先生はない……情報がないってのは、こんなにも辛いものなんだな)


そういった未知を解き明かすのも冒険者の醍醐味ではあるが、この件に年単位で時間を掛けようとは考えていないアラッドにとって、そもそも探索次第で剛柔が手に入るのか否かは、金を積んででも知りたい内容だった。


「やはり、そう簡単に上手くはいかないな」


「そんな沈む必要はないって!! ぃよし!!! 今日は浴びるように呑むぞ!!!!!」


「お、お手柔らかに頼むよ、ガルーレ」


「スティームに激しく同意だ」


浴びるように酒を呑む……それはとても冒険者らしく、アラッドとしても悪くはない。


ただ……本気でガルーレの呑みっぷりに付き合おうとすれば、人族の中ではアルコール耐性が高いアラッドであっても、引き際を間違えれば完全に千鳥足になってしまう。


(とりあえず、スティームは潰れるだろうな)


アラッドの予想通り、酒場でたらふく食べてエールを何杯も呑んだ後、バーへ移動してからもつまみを食べながら様々なカクテル呑んで呑んでを繰り返し……ガルーレがまだ肝臓四分目といったところでスティームはダウン。


「お~い、スティーム~~~~。お~~~い」


「完全に潰れたみたいだな。そっと寝かしてやれ」


「仕方ないね~。にしても、貴族ってみんな酒に強いんじゃないのかい?」


「さぁ、どうだろうな。ある程度アルコールを嗜むだろうけど、呑むのはワインがメインだからな……決して低くはないが、高いとも言えないのが多いからな」


「それじゃあ、その中でもアラッドは強い方な訳だ」


「かもしれないな……ところでガルーレ、ちょっと気になったことがあるんだが」


酒の席で伝えた内容、それはアルコールが入って少し判断能力が鈍っていたガルーレであっても、左から入って右から抜けていくことはなかった。

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