六百四十一話 考え続ける日々

(結局、答えは出なかったな)


その日、一日の殆どをお茶会という名の半ダンジョン化したリバディス鉱山についての話し合いに時間を費やした三人。


夕食を食べ終えた後も風呂の時間になるまで語り合ったが、それでも結論が出ることはなかった。


(何かが足りないから半ダンジョン化に留まっているのか……いや、そもそもその足りない要素が追加された、リバディス鉱山がダンジョンになってしまうのか?)


まだ一度ダンジョンという迷宮を探索したことがないアラッド。

まず……半ダンジョン化したリバディス鉱山に何が足りないのかなど、解る訳がない。


だが、それでもアラッドはベッドに入ってからも考え続けた。


(モンスターの強さは……正直言って、問題無し。クロも轟炎竜の時ほどではないが、それでもある程度楽しめている)


アラッドとクロだけではなく、スティームとファル、ガルーレもリバディス鉱山内で遭遇するモンスターとのバトルに、ある程度満足している。


(やっぱり、宝箱か? しかし、一応ギルドには尋ねたが、宝箱は幾つか発見されてるみたいなんだよな……まさか!!!!)


もしもの可能性が頭に浮かんだアラッドは上半身を起こし、驚きながらも自分の頭に浮かんだ考えを否定したくなる。


(あり得ない、というか……否定したくはなるが、でも…………クソ、絶対にあり得ないとは断言出来ないな)


実に簡単なことである。

既に……他の冒険者が宝箱の中から剛柔を発見し、ギルドにそれを報告せずに使用しているという流れ。


エスペラーサ家は剛柔の発見者に対し、もう冒険者を引退しても構わないと思えるだけの金額を支払うと公言しており、その金額はギルドから既に発表されている。


しかし、しかし……冒険者であれば、アラッドたちと同じくかつての英雄が使用していた名剣を売るなんて考えられず、自分で使う可能性は十分あり得る。


(でも……それなら、なんでリバディス鉱山はまだ半ダンジョン化したままなんだ?)


再び布団をかぶり、眼を閉じるアラッドは尚も考え続ける。


(いや、誰かが剛柔を手に入れれば半ダンジョン化という状態が無くなるとは限らないが…………)


考えても考えても纏まらない。

アラッドはこれ以上考えても仕方ないと思い、考えるのを止めた。



「ッ!!!!」


「よっ、ほっっと」


翌日、クロの背中に乗ってリバディス鉱山に到着したアラッドは早速ワームと戦闘開始。


見た目は気持ち悪いが、その肉は割と美味く……食べるのに始めの一歩が少々勇気が必要なモンスター。

その外見に、一部の接近戦タイプの冒険者は近づくのを躊躇うが、アラッドは一切の躊躇いなしに接近し、切断。


「お疲れ様、アラッド」


「おぅ。でも、どうせなら上位種でも出てほしかったな」


「このリバディス鉱山なら、そのうち遭遇する筈よ。まっ、私はちょっと苦手だけどね~」


ガルーレの攻撃は十分ワームに通用するのだが、過去に戦闘経験があっても若干の苦手意識は消えていないモンスターであった。


「そういえば、アラッドって……キャバリオン? ってマジックアイテムを造ってるんだったよね」


「あぁ、そうだな。趣味の一つだ」


「どうせなら、折角鉱山に来てるんだし、採掘したら? それが目的で行動しててもモンスターとはどこかで遭遇する訳だしさ」


「っ、それは……そうだな。ありと言えばありだな」


アラッドは頭の中がかつての英雄、エルス・エスペラーサが使用していた名剣、剛柔のことで一杯だったため、採掘という楽しみをすっかり忘れていた。


子供の頃から採掘はオーアルドラゴンが住み着いたことで復活した鉱山で採掘を行っていた為、亜空間の中には既に採掘用の頑丈なツルハシが入っている。


「……アラッド、なんで既にツルハシを持ってるの?」


「前に言ったと思うが、実家の領地に鉱山がある。そこで昔から採掘を行ってたんだよ」


「あ、あぁ。そういえばそんな事を言ってたね……でも、よくご両親が許したね」


護衛として騎士や魔法使いが居たとしても、普通に考えて危ないの一言である。


「クロが今の姿になってからは、鉱山までの到着時間もかなり短縮できるようになったからな。いつも夕食の時間前には屋敷に帰れてたよ」


「それなら大丈夫……大丈夫?」


クロの脚の速さは、スティームも身を持って体験している。


だが、それとこれとはまた話が別のような気がしなくもないが……それ以上ツッコムのを止めた。


「……もしかしたらなんだけど、剛柔が鉱石なっちゃってたりするのかな?」


「つまり、剛柔の素材として使われた鉱石に戻った、ということか」


「今パッと頭の中で思い付いた考えだけどね」


ダンジョンという存在が、別世界からの転生者であるアラッドからすれば奇跡的な存在。

そして半ダンジョン化という現象はこの世界でも奇跡的な現象であるため……それはさすがにあり得なくね? と思わず疑問から入ってしまう内容も、絶対にあり得ないとは否定出来なかった。


(使われた鉱石はそのまま鉱石になって……モンスターの素材は、化石になってるのか?)


もう何が何だか解らなくなってきたアラッドは、これ以上考え続けると頭がショートすると判断し、強制的に深く考えることを止めた。

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