六百三十五話 これが総意だ
ある程度予想は出来ていた。
嘘を付かれても、自分たちの中でそれは嘘だという確信は崩れない。
だが……アマルたちにとって、アラッド本人の口からそれが聞けることが重要だった。
「そうか。ではこちらも隠さず言わせてもらおう。今すぐこの件から引け」
「はっ?」
徐々に、徐々にではあるが……アラッドの空気がヤンキー寄りになっていく。
(う、わぁ……け、喧嘩にならないよね?)
(はぁ~~~……やっぱり、アラッドのこういう雰囲気も良いよね~)
スティームは乱闘にならないか心配。
ガルーレは強気な姿勢が崩れないアラッドから強い雄味を感じ、ワクワク感がこみ上げてくる。
「それは、どういう意味だ」
「そのまま意味だ。パーシブル家の人間が関わってどうする」
「どうすると言われてもな……今の俺は冒険者だ。一応騎士の爵位は思ってるが、冒険者であることに変わりはない。別にここに来たことに実家の意志は一つもない」
本人の言う通り、アラッドは実家から何かしらの命を受けてロンバルクに来たのではない。
ただ半ダンジョン化したリバディス鉱山と、そこに眠っているかもしれない剛柔に興味があってロンバルクに訪れただけである。
「そもそもうちの実家は他家にあれこれ牽制するタイプではない。そういった点を意識しているなら、自意識過剰だ。恥ずかしいだけだから止めておけ」
明らかに上から目線な言葉を向けられ、アマルと共に行動している騎士と魔法使いが動こうとしたが、主であるアマルがそれを制し。
しかし、それはアラッドの言葉に納得したからではない。
「では言い方を変えよう。これはエスペラーサ家の問題だ。他家の者は関わらないでもらいたい」
「アホか」
「っ!?」
速攻で返答が返された。
そしてその返答は……あまりにもド直球すぎる冒険。
これにはアマルも面食らってしまい、自身の従者に近い存在である二人が動き出すのを止められなかった。
「おぅっと……まさか、それ以上動いちゃう? 私としては、喧嘩するのも良いと思うんだけど~~~……まだうちのらのリーダーはその気はなさそうなんだよね~」
「僕としては、酒場で喧嘩とかしたくないんだよね。仮に戦るとしたらギルドの訓練場とかが良いと思うんだけど、まだアラッドにその気はないみたいだから、できれば引いてくれませんか」
「「ッ……」」
だが、二人が立ち上がってアラッドに詰め寄るよりも先にスティームとガルーレが動き、そっと首元に手刀が添えられた。
「二人共、座っていてくれ」
「し、しかし!!!!」
「座っているんだ」
「「……分かりました」」
不満は残っていれど、主の言葉に大人従う騎士と魔法使い。
アマルを慕う者として見逃せない発言ではあるが、アマル自身から気にする必要はないと言われてしまえば、大人しく下がるしかない。
「言っただろ、今の俺は冒険者だ。騎士の爵位を持っていれど、あれこれ勘繰られるのは筋違いだ……借りを作ろうとも考えてない」
「っ……やはり、その気はないようだな」
祖先の英雄が使用した名剣は、今でも子孫たちが探している。
当然、見つけた者にはそれ相応の金額で買い取る。
その金額は白金貨程度ではないこともあり、冒険者たちは発見した場合……まぁ売っても良いかと思っている者が多い。
分割しなければならないため、一生遊んで暮らせる……とは言い難いが、それでも今よりも良い暮らしが出来るようになるのは間違いない。
だが、アラッドはこれまで目標としたモンスターを最終的には狩ってきた男。
運良く剛柔を手に入れたとしても、素直にエスペラーサ家に売るとは思えない。
そんなアマルの予想は見事的中していた。
「当たり前だろ。なんでわざわざ手放す必要があるんだ? まっ、今回はスティームとガルーレの三人で行動してるから、別に見つけたら俺の物になると確定してる訳だはないが……二人はどうするんだ?」
「そうだねぇ~~~…………一応剣は使えないことはないし、売るって選択肢はとりあえずないかな~~」
「……僕も同じかな。私的な考えだけど、上を目指す者として剛柔ほどの名剣を売るという選択肢はあり得ない。それこそ、どれだけ大金をつぎ込んでも得られないであろう物というのもあるけどね」
ガルーレはその場に合わせた嘘ではなく、里で暮らしていた時に主に刃物を……ロングソードを使う同族の戦士に教わっていた時期があるため、実戦でも使えなくはない。
スティームはアラッドが売らないと言ってるからりーだーに従う……のではなく、純粋に発見出来れば売るべきではないと考えていた。
「ほっ、良かった。これで二人とも売る気満々だったら、俺クソダサかったしな」
「だって英雄が使ってた名剣よ? 手に入れられたら、元々剣を使ったことがなくても、実戦で使えるように鍛えてみたい!!! って思うものでしょ」
「ガルーレの言う通りだね」
「やっぱりそうだよな……これが、俺たちの総意だ。だから、そういう注文は却下だ。言っておくが、剛柔と同ランクの名剣を用意しても無駄だぞ。興味があるのは、英雄が使っていた名剣だからな」
当然と言えば当然、当たり前と言えば当たり前ではあるが、アラッドに対して利益のない提案をしたとしても、それは本当に無駄としか言えない行為である。
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