六百三十四話 化かしても無駄?

アラッドの尋ね方に対して、おそらく貴族であろう人物から苦言の言葉が飛んでくることはなかった。


それは……向こうが既にアラッドが自分と同じ貴族出身と解っていたから。


「君は、あのアラッドで合っているか」


「そのアラッドで合ってると思うぞ……俺が俺であると確認するという事は、俺に……もしくは俺たちに用があるという事だな」


代表である二十……よりも少し手前。

スティーム、ガルーレと同年代の青年が軽く頷く。


「そうか。なら、とりあえず座って呑め、食え。じゃないと話は聞かない」


「ッ」


「そっちが俺たちに用があるんだろ? それにここは酒場だ。何も注文しないってのは店に失礼だ」


これに関してアラッドは何も間違っておらず、周囲の冒険者たちは何故かドヤ顔しながら頷く。


「……それもそうだな」


アラッドの言葉に納得した……と言うよりも、青年もそれぐらいは解っていた。

都合上、現在は自分と同じ貴族出身以外に、冒険者と共に活動している。


「ふぅ~~~。すいません、エールをもう一杯」


「かしこまりました~」


五杯目に突入したアラッド。


これから貴族を相手に会話をするというのに、そんなに呑んでも良いのか? と思われるかもしれないが、アルコール耐性が高いアラッドからすれば、まだそこまで吞んだうちに入っていない。


加えて……アラッド自身も侯爵家の出身であるため、全く問題無かった。


「それで、あんた達はいったい何なんだ?」


「私はアマル・エスペラーサ。エスペラーサ家の次男だ」


「っ、エスペラーサ家といえば、ロンバルクを治めてる家か」


赤髪のやや長めのヘアスタイルに加え、荒さと高貴さ……美しさ、パーフェクト過ぎないか? と嫉妬込みのツッコみを入れたくなる顔面を持つ男、アマル。


この男はアラッドの言う通り、ロンバルクという街を治める侯爵家の次男。


(アラッドと同じ侯爵家の人間、か…………元々この国の人間ではないし、僕はあまり会話に入らない方が良さそうだね)


(ふ~~ん……アラッドやスティームと違って、これはこれで悪くないわね。食べられるなら食べてみたいけど……まっ、頑張るだけ無駄よね~)


スティームはなるべく邪魔にならないようにしようと思い……ガルーレはアマルの強さも含めて食べてみたいと、アマゾネスの本能が騒ぐも、相手の立場を考えれば動いても無駄だと判断。


「エスペラーサ家の次男が、俺たちにどんな御用で」


「君たちの目的を尋ねたくてね」


「ロンバルクに訪れた目的か? 半ダンジョン化したリバディス鉱山に興味があってな。以前活動していた街でガルーレに一緒に探索してみないかと声を掛けられてな。ガルーレが強いこともあって、その誘いに乗った」


実際はかつての英雄、エルス・エスペラーサが使用して名剣、剛柔を探す為。


だが、それを敢えて隠したということをスティームは当然として、ガルーレも把握。

うっかり口が滑ることはなかった。


「……本当か? 本当にそれだけか」


しかし……アマルは見抜いていた。

実際にアラッドと出会ったことはなく、今回が初。


それでも、アラッドがどういった人間なのか……ある程度把握していた。


「君は、冒険者として活動を始めてから数度、他者の獲物を奪っているだろ」


「……ふふ、人聞きが悪いな。これでも、一応実家に迷惑が掛からないように活動してるつもりなんだがな」


プライベートで盗賊団を討伐したこともあったが、事前に冒険者ギルドには報告しており、結果として当初予定されていた討伐隊が向かっていれば……マウンテングリズリーとホワイトタイガーの餌食になっていた。


「あんた指してる内容は、雷獣や火竜……轟炎竜の件だろ? 言っておくが、俺はきっちり順番は守った。元々モンスターを討伐するのに予約制などないが、それでもそこは守っている」


「それでも、結果として君は全て叶え、得ている……違うか?」


「まぁ、それはそうだな。結果として雷獣や轟炎竜とも戦えた。それは間違ってはいない」


あまり細かくは調べていない。

それでも、アラッドが嘘を付いていないことぐらいはアマルも解る。


ただ……本人が言う通り、結果的にアラッドは全ての機会を得てしまっている。


「……剛柔を、狙っているだろう」


「…………」


まだ、現時点では完全に決めつけである。


半ダンジョン化した鉱山に興味があるというのは、ロンバルクに訪れた冒険者たちの殆どが抱いている。

だがそれと同時に、多くの冒険者が運が良ければ剛柔を……と考えているのもまた事実。


(ちっ、少し黙った時点で俺の負けだな)


咄嗟に言い返しが思い付かなかったというのもあるが、それよりもアマルから見抜かれている。

嘘を付いても無駄だという感覚が強いため、アラッドは大きくため息を吐きながら正直に答えた。


「そうだな……かつての英雄、アマル・エスペラーサが使用していた名剣となれば、冒険者として……戦う者として、興味を持つなって方が無理って話だ」


アラッドの正直な答えに、また周囲の同業者たちが首を縦に振り、そりゃそうだよな~といった表情を浮かべる。


(やっぱり、正直に答えるしかないようね。多分嘘を付き続けてもバレてると言うか見抜かれてるだろうし……けど、どうなるのかな)


ずっと黙っているスティームは……アマル側の空気から、嫌な予感しかしなかった。

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