六百二十四話 そっちの方が感じる?
「えっと……アラッド」
「戦ってみても良いんじゃないか? ただ……そうだな。割と本気で戦るなら、ガルーレはかなり真面目にやった方が良いぞ」
「勿論、そのつもりよ」
ガルーレはスティームのこと嘗めてはいない。
ただ……心のどこかで、アラッドよりは恐ろしくないと思っていた。
「アラッド、割と本気ってことは……」
「そういう事だ。速くてパワーがあるだけじゃなく、見た目以上に頑丈だから、そこまで気にしなくても良いと思うぞ」
「……分かった」
約二十分ほど休息を取り、ガルーレの体力が完全回復したところで、スティームとの試合が行われる。
ガルーレとスティームの試合が行われるという情報は直ぐに広まり、訓練場には冒険者たちだけではなく、休憩時間を取ったギルド職員まで来ていた。
「…………」
(この感じ……もしかしなくても、最初から全力で来そうね)
アラッドとの試合は、どちらが上かを決めるというよりは、試合そのものを楽しむ気持ちだった。
だからこそ、最初からマックスギアで挑むことはなく、徐々にギアを上げて激しさを増す感覚を楽しんでいた。
しかし、今目の前に立つスティームからはアラッドと同じく試合を楽しむという雰囲気とは異なり、本気で勝ちにいくという熱意が感じ取れる。
ガルーレとしては……じっくりスティームの強さを味わいたいという思いはあったものの、その純粋な勝利への熱意をぶつけられるのは悪くない。
寧ろ……そちらの方が感じるまである。
(さっきアラッドが言ってた通り、最初から本気で挑んだ方が良さそうね)
試合開始方法は先程と同じく、両者が決める。
「すぅーーーー、はぁーーーーー……すぅーーー、っ!!!!」
(来る!!!!!)
スティームの呼吸を読み取ったガルーレは即座に反応するも……眼で追うのが精一杯だった。
(速過ぎる!!??)
眼の後に体が付いて行き、なんとか死角から放たれた衝撃を回避することに成功。
当然、ガルーレは強化系のスキルを使用していなかったから反応が遅れたという訳ではない。
強化スキルはしっかりと発動しており、魔力も纏って完璧な強化状態。
ペイズ・サーベルスこそ発動出来ていないが、それでも今の状態でもBランクモンスターと渡り合える戦闘力がある。
だが……その状態であっても、赤雷を纏ったスティームには一歩及ばない。
(っ! やっぱり例のスキルを使ってなくても、強い!!!!)
スティームは例のスキル、ペイズ・サーベルスが特定の条件下でなければ使えないことを見抜いており、疾風のスキルだけは使用していなかった。
それは舐めプではなく、スティームなりに越えなければならない壁を自ら設定しただけのこと。
「っ…………はぁ~~~~。私の負けね」
「ありがとうございました」
それは時間にして十秒に満たない試合だった。
十秒以内の決着。
人によっては、瞬殺劇と捉えるかもしれないが、訓練場で二人の試合を観ていた同業者たちの感想は違った。
最初に一秒から二秒ほどガルーレは初めて目にした色の魔力の力に驚嘆するが、そこは戦闘民族アマゾネス。
その奇跡に感謝し、闘争本能全開で軽い切傷は無視して攻撃に転じる。
一切退がることなく前に出るガルーレの意志と、それを可能にする戦闘力に改めて驚かされたスティームだが、自分はその人物よりも更に凄い男と共に行動しているというプライドがあるからか……見事、リミットが来る前に刃を喉元に突き付けて決着。
ガルーレの拳は半端なところで止まっていたということもあり、勝者はスティームという決定に誰も異論はなかった。
「いやぁ~~~、やっぱり凄いね、その色の付いた魔力ってやつ? 最初から本気で来るってのは解ってたのに、全然対応出来なかったわ」
「謙遜を。それはほんの数秒の間だけだったじゃないですか。あのスキルを使っていない状態なら、もっと早く終わらせられると思っていました」
「私もそれなりに強いからね」
それなりに強い彼女は……まだスティームに余裕があるのを見抜いていた。
(もしかして、ペイズ・サーベルスが使えないのを考えて、本気の本気を出さなかったのかしら? まぁ、本気を出してなかったのは私も同じだし……文句は言えないわね)
アラッドとスティームとの模擬戦を終えたガルーレは二人を昼食に誘い、ギルドを離れて適当な店に入る。
「今回は私が奢るよ。私から試合を申し込んだしね」
二人としては、そこら辺の冒険者よりも圧倒的に強いガルーレとの試合は、自分たちにとっても為になり、満足出来る試合だったので奢って貰わなくても……と思ったが、素直に感謝の気持ちを受け取ることにした。
「二人共本当に強かったわね。噂以上だったよ」
「そう言ってもらえると光栄だ」
「僕は……アラッドと共に行動するようになってから、予想以上の体験を何度も得てきたから、それもあってここ最近は基礎的な力が良い感じに上がり始めてるんだ」
決して褒められても驕らないその態度に、ガルーレは更に好感を感じ……アマゾネスらしく、ある提案をした。
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