六百二十五話 渡せば良いってものでもない
「なぁ、二人ともうちの里に来なよ。うちも含めて絶対にあんたらの種を欲しがるよ」
「…………」
「ぶっ!!!!????」
アラッドはもしかしたらと予想していたため、変な顔になるだけに留まったが、予想していなかったスティームは口の中にあった料理を吹き出してしまった。
「二人の遺伝子? 血? なら、皆欲しがる。男は皆そういうの大好きよね」
「いや、あのな…………ガルーレ、この酒場で聞き耳を立ててる連中が大勢いることを考えれば、それはそれで間違ってはないと思う」
「「「「「っ!!!!」」」」」
アラッドの言う通り、会話に聞き耳を立てていた野郎たちは慌てて明後日の方向に顔を向けた。
「でもな、今のセリフは一部の戦士に喧嘩を売る内容だ」
「??? そうなのかい? まぁ、確かに冒険者としてぶらぶらしてたら、そんな珍しい男も確かにいたね。けどさ、あれだよ。ずっと里に留まって欲しいなんて頼みじゃないよ。そうだね……十年おきに来てくれたら嬉しいかな」
「諦めない奴だな。悪いが、それでも俺はいかない」
「も、申し訳ないけど僕も行かないかな」
「なんでよ~~。良いじゃん良いじゃん、子作りし放題だよ」
子作りし放題というパワーワードを耳にし、多くの野郎たちが様々な反応をするも……全員、ムスコが元気になってしまうという変化だけは一致していた。
「あれだ……魅力的な提案ではあるんだろう。ただ、そうやって子供が生まれれば、俺としては全く気にしなくて良いというのは無理だ」
「僕も同じだね。まだまだアラッド一緒に冒険は続けたい。でも、ガルーレの提案に乗ったら、常にその子たちのことが頭から離れなくなる」
「……二人とも、貴族なのよね?」
「今は冒険者として活動しているが、一応令息だ」
「同じく」
一応どころか、二人とも侯爵家と伯爵家の立派な令息である。
ガルーレの言う通り、諸々含めて彼らは立派な種となる条件が揃っている。
「貴族って、もう少しそこら辺ドライなんじゃないの? この前、母親は平民だけど、偶々ま貴族と交わって生まれたって冒険者と出会ったことがあるけど」
「それは、な……うん、そうだな。そういう人が居るのも、否定は出来ない、な」
「そうだね…………やっぱり価値観が違う部分というか、我儘な部分というか…………自分たちの事じゃないのに、なんか申し訳なるね」
「本当にな」
やるだけやって、子供は認知せず放置。
そんな者がいたと知り、貴族の出身である二人としては、他人事なのに見えない何かが両肩に重くのしかかる。
「あっ、あれだよ。その子の母親は、その貴族? から大金を貰ったから、生活には困ってなかったらしいよ」
「…………その冒険者は、良い人生を遅れてるのか?」
「多分送れてると思うね」
「そうか……それなら良かった」
渡さないよりは良い。
それは間違いないが、突然得た大金。
当然ながら、子供にそれを使う権限は基本的にない。
頭が悪いバカであれば、その貴族が自分を迎えに来て夢の生活を送れるようになるかもしれない……といった考えに至り、散在してしまう可能性はゼロではない。
迎えに来てもらう為に美容、普段着る服に金をかけ……自身が腹を痛めて生んだ子供に金を使わず、自分のことばかりに金を使ってしまう……そういった例は確かに存在する。
それで子が親を殺してしまうケースもある。
「とにかく、俺は種馬になる気はない。喜んで行く奴もいるのは間違いないが、少なくとも俺の周りには…………いないな」
アラッドの中で、一瞬ドラングの顔が浮かんだが、あれはあれでそういう点に関しては一本筋が通っており、そういった不義理を好まない。
ベルやリオ、ルーフたちも……そもそも頑張ってモテたい、やりたいといった考えを持つタイプではない。
「僕もかな」
「ふ~~~ん? もしかして、貴族の男達は案外性欲薄いの?」
「それはどうだろうな。俺の父さんは三人の妻が居る。その中で俺は三人目の妻の子供だ」
「確かにそれはお盛んって感じね……もしかして、二人ともまだな感じ?」
普通なら大歓迎の提案を断り、ガルーレの中にある貴族イメージとは違った反応を見せる二人に、躊躇なく少々ぶっこんだ質問を投げかけた。
「いや、一応経験はしてる」
「同じく」
「あら、そうなんだ」
冒険者になってからこういった下ネタトークを何回も行ってきたガルーレは、二人が見栄を張って嘘を付いているのではないと、直ぐに見抜いた。
(二人とやれた女がいるのね…………アラッドがどんな人とやったのか、ちょっと気になるわね)
私も含めて種を欲しがる、と口にした内容は決して冗談ではない。
というより、割と貰えるなら本気で貰いたいと思っている。
まだ友人……と言えるほど長い期間を共に過ごしてはいないが、一先ず面が良いだけで相手を選ぶとは思えない。
(強いモンスターと戦う為に冒険者をやってる感じだし……やっぱり、それなりに強い女が好みよね?)
ならなんで自分に対してそういった欲が湧いてこないんだとツッコみたくなるところだが、一旦置いておく。
そういうのが無理なら無理で、是非とも二人に頼みたいことがあった。
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