六百二十三話 その強さを信用する

ジャブ、ストレート、前蹴り、フック、ハイキック、肘鉄、裏拳、膝……あらゆる五体の武器を叩き込んで叩き込んで……互いに分厚く感じる壁を叩き続ける。


(本当にっ、強いねッ!!!!!!)


偶々、自分の意志ではないとはいえ、切り札であるペイズ。サーベルスを発動してしまった。

詫びと言ってはあれだが、魔力は使用していない。


ただ……それは現時点で、アラッドも同じ状態。

身体強化などのスキルは使用しているが、それでもガルーレと同様に魔力は使用していない。


(これなら、素直に武道家を、名乗って良いレベルよ!!!)


アマゾネスは種族的に、ただ野性の本能を生かして戦うのを得意とする種族ではあるが、旅を得て里に戻って来た猛者たちは、それだけでは真の強者に敵わないと知っている。


そんな強者たちに技術も叩きこまれて来たサーベルス。


態度や言動に服装、それらの様子から品とは少々縁遠いかもしれないが、技術という点に関しては侮れない腕を有している。


だが……切り札を使用しても、倒せないレベルに到達している人物が、目の前にいる。

正直、倒せなかったとしても仕方ないという気持ちはある。


それでも同じ条件であれば、せめて彼に切り札を使わせたい。

なんなら、糸という暗殺者寄りの武器? を使ってくれても良いと思っていた。


「どうした! ペースが落ちてきたんじゃないか!?」


「まだまだぁああああ!!!!!」


しかし、アラッドはおそらく自分と同じ種類の笑みを浮かべながら、同じく己の五体に秘めた武器を用いて、己を倒しに来る。


(ッ!! 最高だよ!!!!!!!!)


変わらず好戦的過ぎる笑みを浮かべて攻撃を仕掛けてくるアラッド。


それを再確認したガルーレの思考から……狂化を使わせたいという、余計な雑念が消えた。


ただ……意識が消え、連撃が加速されたからといって、戦況の反転を許す程アラッドは甘くない。


「せやッ!!!!!!!!」


「っ!!??」


渾身の右ストレートが繰り出された瞬間……アラッドは左膝から蹴りが飛んでくるのを警戒しながら半身になり、両腕でガルーレの腕をキャッチ。


そのまま一本背負いの体勢に入る。


(こいつは、マズい!!!!!!)


ただの投げではなく、型が存在する投げ技だと瞬時に悟り、食らえばノックアウトになると本能が理解した。


ガルーレはブリッジの要領で先に地面に足を付き、強烈な衝撃から備えようとした。


「がっ、はっっっ!!!???」


しかし、予定通りのその衝撃から逃れることは出来なかった。


ブリッジのタイミングが遅れて足を付けなかった?

そうではなく、ただアラッドが一本背負いをしていれば……ガルーレの取った行動は上手くいっていた。


だが、約五分ほど……ガチで打撃戦を行っていたアラッドはガルーレが突然の投げにも対処して来ると、その潜在能力、センスを信用していた。


だからこそ……ただ背負って投げるのではなく、左脚を大きく後ろに引いて……ガルーレが予想していたタイミングよりも早く地面に叩きつけた。


アラッドが腕だけではなく体全体で投げたことで、背中に強烈な衝撃を受けたガルーレ。


「悪いが、これで終わりだ。納得してくれるか?」


背中に強い衝撃を受けたガルーレの肺から空気が強制的に追い出され……時間にして約二秒ほど固まってしまった。


それで意識が途切れなかったガルーレは既に起き上がって入るものの、その二秒の間にアラッドが止めを刺せたのは事実。


「っ…………はぁ~~~~、そうだね。私の負けだよ。負け負け。ったく、本当に噂通りの強さだったね」


「褒めてくれるのは嬉しいが、直ぐに回復した方が良い」


「っ!!?? は、ははは。確かに、そうだね」


試合が終了したのを確認して駆け付けたスティームからポーションを受け取り、一気に飲み干し……怪我は直ぐに回復した。


「たは~~~~、助かったよ」


「どういたしまして」


最初に入った良い一撃……ガルーレの本能がペイズ・サーベルスを発動させてしまった蹴りに加えて、打撃戦の中でアラッドの攻撃をガードした腕や脚にも多くの青痣ができていた。


「アラッド、君もちゃんと飲みなよ」


「あいよ」


だが、それは今回の試合に勝利したアラッドも同じ。

クリーンヒットと呼べる一撃こそ食らっていないが、紙一重……とはならず、切傷となってしまった傷は多く、打撃をガードしていた部分に青痣が生まれており、決して無事、無傷……パーフェクトゲームと言える勝利ではなかった。


「ふぅ~~。予想外の展開ではあったが、本当に楽しめた。ありがとう」


「こっちこそ、無理を聞いてもらって嬉しかったよ。本当にありがとね」


試合が終わり……やっぱり狂化を使わせてみたかったという思いが蘇るも、ガルーレの興味は既に次の人物に移っていた。


「それじゃ、今度は君と戦りたいかな!!」


「へっ……僕ですか?」


「当然じゃない! 君も話題の一人だからね!!」


アラッドと共に行動をするようになった……アルバース王国の人間ではない冒険者。

そんな人物がアラッドと共に行動しているというだけでも話題になるが、彼はしっかりと話題に絡んでいる人物であり、強者を好むガルーレとしては是非とも戦ってみたい戦闘者だった。

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