六百二十一話 強くなる環境は負けてない

(はぁ~~~~……解ってた。僕はまだまだだって解ってたけど……うん、やっぱり世の中は広いね)


自分より強い人間はごまんといる。

そんな事は実家を……自国を出る前から解っていた。


だが、目の前の戦いを観て更にそれを痛感。


両者ともスキルは使っておらず、魔力も使っていない。

故に強い衝撃を受けるのは早計では? と思うかもしれないが……先程まで同じ条件で戦っていたからこそ、素の身体能力や体術では敵わないと悟ることが出来る。


「ハッ!!!!」


「っと、ふんッ!!!!」


全体的に見れば……身体能力はアラッドの方が勝っている。

しかし、体術の技術だけを見ると、ややアラッドよりもガルーレの方が勝っていた。


(こいつは、驚いたな。剣技の次に体技が得意だと、思ってたんだが……このアマゾネスの女性、体技なら、俺よりも上か)


自分を強くすることにハマり、特訓バカと言えるほど特訓……実戦を繰り返してきたアラッド。

それ故に……どの武器の扱いも基本的に平均以上に達してはいるが、当然……センス、才がある者がアラッド以上に体技を磨き続けていれば、ある程度差に現れる。


「んっ!!!???」


「ふっ!!!!」


「がっ!!!!」


とはいえ、アラッドもアラッドで色々と考えながら特訓を積んできた。


アマゾネスは女性だけの戦闘民族。

体技だけではなく、あらゆる武器の使い手がおり……大抵が好戦的な性格をしている。


その好戦的な性格ゆえか……相手の攻撃を受け流すという技術は身に付けても、相手の力を利用して体勢を崩す、もしくはそのまま投げるといった発想に至らない。


アラッドはガルーレの右ストレートの威力を利用し、体勢を崩した直後に右足の蹴りを叩き込んだ。


「っと。はぁ~~~、あぶねぇあぶねぇ。なんだい、今の技は?」


しかし、寸でのところで左腕でガードすることに成功し、まだまだ戦闘は続行出来る。


「今戦ってる相手にわざわざ説明すると思うか?」


「はは! それもそうだね」


「まぁ……あれだ。ガルーレが感じたままの技だ」


アラッドは気分が良かったのか、わざわざヒントを与えた。


(まだスキルや魔力は使ってない……それでも、ここまで体技で戦える相手は、ガルシア以来か?)


己の体だけでの戦闘は、武器を使って戦う戦闘とはまた違う楽しさがある。


そんなもん、全く楽しくねぇよ!!! と断言する者もいるだろうが、アラッドはそれを楽しいと捉えられるタイプ。


「それじゃあ、続きをやろうか」


「良いねぇ……噂通り、熱いじゃん!!!!!」


一度アラッド戦ったことがある友人、エイリンからはどちらかと言えば戦闘が好きな性格の中でも、クールで冷静なタイプと聞いていた。


しかし、こうして実際に会って拳を交え、会話をしてみると……確かに冷静な部分もあるが、奥底には確かな灼熱を持つ強者だった。


「ぜぇええええああああああああああっ!!!!!!」


「ぅおおおおらああああああああああっ!!!!!!」


互いに縛りを設けているからか、やはりアラッドはガルーレの攻撃を全て見切り、回避することは出来ず、四割ほどはガードしなければ対応できない。


それは同じく縛りありの状態で戦っているガルーレも同じであり、アラッド以上に足や腕で打撃を防御している。


(制限ありとはいえ、同じ素手でここまで昂れる相手と戦えるなんて……しかも歳下!!!! 俄然、燃えるわ!!!!!!)


幼い頃から戦って戦う。とにかく戦う。

他の道に進む者もいるにはいるが、それでも同世代の中でも頭一つ抜けていたガルーレは、当然戦う道を選んだ。


更に強くなる為に里を離れ、見聞を広める為に冒険者となった。


里を出た時には既に色々と成熟していたため、屑から襲われることもあったが、それはそれで遠慮なく拳を振るって相手を潰せる絶好のチャンス。


偶に手強い屑もいるが……アマゾネスという里で生まると、貴族と同等の戦闘環境に恵まれる。

ガルーレと同じく世界を渡り歩いてから故郷に戻って来たアマゾネスともいるため、自分よりも強い相手との戦いという機会には困らない。


それでも数年間、旅と戦闘を続け……同じ同性代の冒険者の中では、頭三つか四つ程抜き出るほどまで強くなった。

偶に歳が近い者たちと手合わせもするが、同じ素手同士の戦いでは苦戦こそするが、ここ最近は負けなし。


だが……今、どう考えても自分の方が押されている。


魔力やスキルを使えば自分の方が上?

それらを使わず、同じ条件で戦っているのはアラッドも同じであり、そんなことは言い訳にもならない。


そもそも、そんな言い訳が頭に浮かぶことはない。

今ガルーレの頭の中は……歓喜一色。


狙っていたソルヴァイパーというBランクのモンスターと戦えなかったのは残念ではあるが、それでも今冒険者界隈で熱いスーパールーキーとこうして戦えている。

わざわざここまで来た甲斐があった断言出来る。


「シッ!!!!!!」


「ごばっ!!!???」


そう……これだけ、歳が近い者と戦えるのに……これで終わるなんて、非常に勿体ない。


そう思った瞬間、ガルーレの本能が動いてしまった。

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