六百二十話 代わりに戦え
(褐色の肌……焼けてる、って訳じゃないよな? なら、アマゾネスか)
自分たちの直ぐ隣で自主トレを始めようとしている……ようには見えず、確実に自分たちに狙いを定めて歩を進めている。
アラッドとスティームが顔を見合わせてどうしようかと相談し合うも、答えが出る前に二人の前に堂々と到着して声を掛けてきた。
「あんたらがアラッドとスティーム……出会ってるかい?」
「あぁ、そうだが……お前は、誰だ?」
「おっと、確かに名乗らないは良くないね。私はガルーレ。見ての通り、アマゾネスの冒険者さ」
気の強そうな言葉遣いに……反して? 髪の毛は非常にサラサラであり、艶がある。
スタイルも良く……二人から見て、もうちょい面積が大きい服を着ろとツッコミたい。
「あんたらの話はエレインから聞いてるよ」
「エレイン………………あぁ、トーナメントで戦ったあいつか」
直ぐにパッと思い出せなかったが、完全にはその名前を忘れてはいなかったアラッド。
エレインとは、闘技場が盛んな都市であるレドルスで開催された二十歳以下の猛者たちが集められたトーナメントで、アラッドが初戦にぶつかったアマゾネスとエルフのハーフ。
アラッドの記憶に残るぐらいには若くて強い女性冒険者であり、今もなお成長中の有望株。
「本当はソルヴァイパーを仕留めに来たんだけど、どうやらあんた達がなんとかしちゃったんだろ?」
「な、なんとかって言うか…………まぁ、うん。そうだな」
「そ、そうだね」
アラッドがユニコーンの角を渡したことで、これ以上無理してソルヴァイパーを倒す必要はないが……それでも逃走癖があるソルヴァイパーの素材が貴重であることに変わりはなく、何組かのパーティーは何処に居るんだと探し続けたが…………今のところ二人が最後の遭遇者であり、それ以降は誰も遭遇出来てない。
「? なんか歯切れが悪い感じね」
「いや……そうだな。あんまり良い結果じゃなかったからな」
「ふ~~~ん? まっ、でもあんた達が強いことに変わりはなさそうね」
「……それはこっちのセリフ、って言っておこうかな」
いきなり声を掛けてきたエレインの友人、ガルーレ。
筋骨隆々ではないが、その肉体美は素晴らしく、当然の様に腹筋は割れている。
(おそらく……レストさんより上とは思えないが、Bランク相当の実力はありそうだな)
歳はそこまで自分たちと変わらないが、将来有望なタイプ。
そんな女性戦闘民族、アマゾネスが同じく将来有望な冒険者に声を掛けた理由は……ただ一つ。
「それは有難いね。んじゃ、とりあえず私と戦ってくれるかい?」
「…………分かった。試合の範囲で戦ろうか」
「おっ、良いね」
ガルーレはスムーズに事が運んだことに喜び、適当に準備運動を始めた。
「珍しいね。アラッドが同期からの申し出をあっさり受けるなんて」
「そうか? 別にあんな感じで普通に接してくれたら、特に断りはしない。それに、スティームもなんとなく解ってるだろ」
「……うん、そうだね。彼女は強い」
「そういう事だ」
普通に近過ぎないフレンドリーな感じで接してくる。
そして見た目の割にかなりの実力を秘めている同業者からのお誘いとなれば……断る理由はどこにもない。
「あれ、木剣は使わないのかい?」
数分後、軽い準備運動を終えたアラッドが噂のメインウェポン、剣を持ってないことに気付く。
「あぁ、そうだ。お前の……ガルーレのメイン武器は体術なのだろ」
「私のスタイルに合わせてくれるってことかい? 余裕だね」
「いや、そういう訳じゃない。ただ……俺はこっちの方も得意と言うだけだ」
「ふふ……そういえばそうらしいね。それじゃ……始めようか」
その言葉が開始の合図となったが……約五秒間、両者とも動かなかった。
(……動くか)
(来ないなら、こっちからいくよ!!!!)
そして、ほぼ同じタイミングで走り出し……右のハイキックをぶつけ合った。
衝撃音で離れた場所にいるスティームのところまで突風が飛んでくる。
(まだ魔力も強化スキルも使用してない状態とはいえ……同じ条件で、同じ蹴りをぶつけても吹っ飛ばないのは……凄いね)
アラッドの体質を知ってるからこそ、驚きが顔に出てしまったスティーム。
(っ!!?? こんな強烈な蹴り、久しぶりだね!!!!)
そして驚きを感じていたのはスティームだけではなく、初っ端から右ハイキックをぶつけ合ったガルーレも同じだった。
侮ってはおらず、自分もまだ魔力を纏っておらず、強化系スキルは使用していない。
だが、それでも素の状態でかなり本気で蹴りを放った。
それは相手も同じ状態であるにもかかわらず、押し返すどころか顔に痛みを浮かばせることすら出来なかった。
(それでこそ、挑んだ甲斐があるってもんよ!!!!)
最終的に両者とも譲らず、一旦離れて即接近し、今度はスピーディーな打撃戦が繰り広げられる。
ガルーレは見た目……そこまで極太の腕ではなく、極太の脚でもないが、食らえばアラッドでも普通に痛い。
まさに見た目からは想像威力を秘めているが、それはアラッドの拳や蹴りも同じ。
二人ともまさかの強敵に巡り合えたことに喜びを隠せず、互いに笑みを零し……打撃戦は更に加速した。
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