五百八十八話 同族でも避ける

(はぁ~~~~……まさか、クラン水蓮のメンバー来てるとは……もう少しちゃんと情報を集めてからウグリールに来ればよかったな)


反省内容通り、もう少しちゃんとウグリールに関する情報を調べれば、水蓮のメンバーが二体の火竜討伐に向けてウグリールに向かっているという情報を掴めていた。


(……水蓮のメンバーが、討伐に失敗するとは思えないな)


直接会ったことがある訳ではなく、水蓮のギルドマスターが自ら来ているわけでもない。


ただ、所属している面子やこれまでの功績を考えれば……火竜二体を同時に討伐出来ない面子を派遣するとは思えない。


「残念だったね、アラッド」


「そうだな……この街の住民には失礼なのは解ってるが、俺たち的には残念だ」


アラッドは元々強い相手と戦うことが好きなタイプであり……スティームもアラッドと共に行動するようになってからその影響を受けたのか、今回の討伐予定はかなり気合が入っていた。


「でも、一応待つんだね」


「期待するのは不謹慎だが、一応な」


死んでほしいとは思っていない。しかし失敗してほしい。


なんとも我儘な願いである。


だが、火竜が二体で行動しているというのも、中々珍しい。

こちら側も二人と二体で行動してるため、全員その戦闘を有意義に楽しめる。


「けど、水蓮のメンバーが十人以上来てるってのを考えると……もしかしたら、一体だけ残るかもしれない。その程度の希望しかないだろう」


「片割れが殺されて、残った片方の逆鱗が発動。水蓮のメンバーが致し方なく撤退。その隙に僕達が挑む……そんなところかな?」


「二割……いや、一割ぐらいはあり得そうなシナリオだな。とはいえ、Bランクでも火竜が逆鱗を発動したら……水蓮のメンバーは、生き残れるか?」


逆鱗……それはドラゴンがまさに暴力の化身となる現象。


どれだけの攻撃を与えようと、その命が尽きるまで一切衰えることなく周辺の命を蹂躙する。

それは亜竜に分類されるモンスター、ワイバーンやリザードにも起こりうる現象である。


そうなった状態では、Bランクの冒険者であっても逃げの選択を取るのが賢明と言われている。


因みに、アラッドはオーアルドラゴンから逆鱗状態になった属性ドラゴンからは逃げた方が良いとアドバイスを貰っている。

実際に本気のアラッドと戦ったことがある訳ではないが、これまでの戦闘から得た経験により、ある程度は把握している。


通常の状態であれば、ある程度の余裕を持ってBランクのドラゴンを討伐出来るとまで評価している。

だが……逆鱗状態になったBランクドラゴンであれば、話は別だった。

その状態は同じ種族であるドラゴンであっても、避けなければならない状態なのだ。


「逆鱗、かぁ…………凄い恐ろしい状態っていうのは理解してるんだけど、具体的にどんな感じに恐ろしいのかイメージ出来ないから……ちょっと、何とも言えないかな」


「どれだけダメージを受けても怯まず、勢いを失うことなく攻撃を仕掛けてくる。本当にあったのかどうか疑わしいが、首を切断されても最後の最後にブレスを放った……という報告もあったらしい」


「えっ!!!??? そ、それはさすがに…………いや、でも絶対にないとは言えないのかな?」


アラッドと共に行動し始めて、あり得ないという考えで思考を止めるのは良くないと学習。


アラッドさえ疑っている報告内容を、絶対にあり得ないと断言はしなかった。


「既にブレスを放とうとしていた状態で首を切断されたなら、絶対にあり得ないとは言えないが……俺としては、発動する直前に首を切断されたら、溜め込んでいた魔力が暴発するような気がするんだがな」


「……その暴発がブレスだと勘違いした、ということかな」


「あり得なくはなさそうだな。そんな状態で暴発したら、ある意味ブレスと同等の攻撃を食らったのと同じになる」


なんだかんだでスティームも、もしかしたら水蓮のメンバーが討伐を失敗するのでは? というあまりよろしくない内容を考え始めるが……それでも失敗する可能性が四分の一を越えることはなかった。


(まっ、とにかくあれだな。水蓮のメンバーが討伐を成功させる可能性が高いんだから、先に次の目的地を探しておくのが賢明だな)


世の中には数多くの強大な力を持つモンスターが生息している。

当然……火竜の更に上の存在もいるため、今回の火竜二体に固執する必要はない。


それはアラッドとスティーム……そしてクロとファルも何となくは解っている。

しかし、それとこれとは別問題と言わんばかりに、四者の顔には薄っすらと不満が残っていた。


そんな中、冒険者として活動していることもあり、ちゃんと仕事はしなければならない。

朝過ぎに仲介所となるギルドへ向かい、適当なら依頼を受注。


表には出していないものの、やる気ゼロの状態で仕事へ向かう二人。


「なぁ……スティーム。他のモンスターに襲われて、うっかり二体の火竜と交戦することになりました……っていうのはダメか?」


「……………………僕らの戦力をギルドが把握してない訳がないと思うから、多分無理だね」


「そうか……」


本来であれば、冷静にそれは無理だよと即答するスティームだが、本当に今回の戦いを楽しみにしていたのか……アラッドからの提案を真剣に考えてしまった。

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