五百八十七話 もう大人だもんね?

SIDE フール


「旦那様、アラッド様からお手紙が届いています」


「ふむ? さてさて、今回はどんな内容だろうね」


執務室でアラッドからの手紙を受け取ったフール。


その内容に関し……毎度ドキドキさせられるも、半分はワクワク状態。

文字通りドキドキワクワクしながら手紙の封を開け、中身を読み始める。


その手紙には、木竜の宝物庫に……ホットル王国の英雄、グリフィス・ハルドナーが所有していたバスタードソードがあった事に関しては、一切書かれていなかった。


アラッドにとって血の繋がった家族であり、当然信用出来る人物なのだが……どこでその口が滑ってしまうか……そこが少々心配でもあり、深くは知らなくて良いと判断。

手紙には、木竜の件に関して片付いたため、そろそろ別の街へ向かうという報告。


「……ふふ、次はドラゴン狩りか」


「ど、ドラゴン狩りって……そんな軽く口に出来る内容ではありませんよ?」


「そうだろうね。ただ、アラッドとスティーム君が狙うドラゴン、Bランクの属性ドラゴンみたいだよ」


「Bランクですか。それなら、大丈夫そうですね」


大丈夫……事務補佐の男は、自分が口にした言葉が流れ的に少しおかしいことは理解している。

ただ、同時にアラッドやスティームの実力も理解している為、結局心配する必要はないという結論に至る。


(アラッド様にはクロが付いている。スティーム様もBランクモンスターのホワイトタイガーをソロで倒せる実力があり、ストームファルコンが付いてる……心配は無用ですね)


それならと思い、男は冷静に書類仕事に戻ろうとした。


「ウグリール山で暴れている二体の火竜、か…………まっ、二人なら大丈夫そうだね」


「……ん? ウグリール山、ですか?」


「うん、そうだよ。ほら、まだあの火竜二体が討伐されてないでしょ。だから、二人ともその二体を狙ってウグリールに行くみたいだよ」


フールも二人の実力を解っているため、全く心配してない。


しかし、事務補佐の表情は……少し困った色を浮かべていた。


「えっとですね……私の記憶が正しければ、その件を早急に解決する為、とある大手のクランから冒険者が派遣されたと思うのですが」


「……それ、マジなの?」


「はい、マジです。私がその話を聞いたとき、酔っ払ったりしていなければ、本当にマジです」


因みに、その大手クランの名前はどこなのか……名前を聞いたフールの表情も曇り始めた。


「僕も聞いたことがあるところだね。そこの冒険者が派遣されたのって、ここ最近?」


「計算すると………………おそらく、アラッド様たちよりも先にウグリールに到着しているかと」


「ん~~~~~…………まっ、アラッドも子供じゃないんだ。順番は守るだろう」


「そう信じたいですが、目当ての……強い敵との戦いであれば、何とかしてしまいそうではありませんか?」


疑うのは良くないと解っている。


解っているが……それなりにアラッドの事を知っているため、先客が居るので待ってください……という状況をアラッドが素直に受け取るか?

といった疑問が中々消えない。


「……そ、それでも何とか正攻法で、その順番を譲ってもらうはずだよ」


「そう、ですね。アラッド様は頭の回転も素早いですし……わ、私の心配し過ぎでしたね。ははは」


どう笑おうとしても、乾いた笑い声しか零れてこない。


(う、う~~~~~ん。正直、あそこと対立関係になる様なことにはなりたくないかな~~。そもそも全ての冒険者ギルドやクランと不仲になりたくないんだけど…………ダメだダメだ、アラッドの父親である僕が信じなくてどうするんだ!!!)


日付的に手紙を送っても無駄なため、フールは息子の行動を信じて待つことにした。



「ま~~~~じか………………どうするよ、スティーム」


「どうするも何も……待つしかないんじゃないかな」


ウグリールに到着した二人。

すると冒険者ギルドに到着するまでの間に……水蓮という名のクランのメンバーがウグリールに来ているという情報が耳に入ってきた。


(水蓮と言えば、アルバース王国の中でも五指に入る超大手クランじゃないか…………はぁ~~~~~~。ダメだ、溜息しか出なくなる)


心の中で大きなため息を吐き、リアルでも特大のため息をはき出した。


「…………なぁ、失敗すると思うか?」


「正直、成功すると思う。雷獣の時とは、話が違うと思う」


「……雷獣の時みたいに、実は火竜の更に上のAランクドラゴンが襲来する可能性は?」


「多分だけど、それはあまり期待しちゃダメだと思う」


スティームの言う通り、凶悪なドラゴンの襲来などそもそもな話、期待してはいけない。


「むっ……そうだな。つい本音が零れた」


自分たちの眼の前だけに現れるのであれば構わない。


しかし、Aランクのドラゴンが現れれば……二人が何とかする前に多くの冒険者たちを殺してもおかしくない。

寧ろ同族が人間に殺されたと知れば、仲間心などではなく、苛立ちから人間の殲滅を初める可能性もある。


「……ギルドには行かず、宿を取ったら今日はぶらっと散策するか」


「賛成」


何故か冒険者ギルドの方には行かない方が良いと、直感が二人の脳に働きかけ、アラッドとスティームはその直感通りにギルドには行かずにその日を過ごした。

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