五百八十六話 どうせ見つからないので

「まぁ、あれですね。面倒な事というのは、どこに転がっているか解らない。そんな事がありました」


「そ、そうなんだね……」


個室での食事中、食事もそこそこ進んだタイミングでハリスが気になっていたことを尋ねると、スティームの代わりにアラッドが答えた。


「その面倒事は……大丈夫、なのかな?」


「はい。見なかったことにしたので、大丈夫です」


「っ!?」


見なかったことにした……アラッドがそう発言したことに、ハリスは少なからず驚きを感じた。


これまで関わってきた経験から、アラッドは面倒事を本当に面倒だと思っている。

しかし、そう思いつつもその面倒事を自ら解決していくタイプ。

だからこそ英雄の器を感じさせられてきた。


そんなアラッドから……面倒事を見なかったことにした、という言葉が出てきた。


(……だ、大丈夫なのか?)


再度、心の中で呟いた。


アラッド程の人物が、面倒事を見なかったことにした。

見なかったことにしたしたかったのだ。


これ以上深く尋ねない方がいいのは確かである。

だが、最後の一度聞いておきたかった。


「それは……そのままにしておいた大丈夫なのかい?」


「はい、問題ありません。その面倒事がいずれ他の人にバレることはないので」


木竜は現在の住処を気に入っており、当分の間はそこから離れるつもりはない。


移動するにしても、アルバース王国から離れるかは考えておらず、ホットル王国の人間にこの件を知られることは……まずない。


「そうか、分かったよ」


「納得して頂いて、ありがとうございます」


「気にしなくて良いよ。寧ろ、アラッド君にもそういうところが……人間味があると思うと、少し安心するよ」


「……俺、そんなに人間味がないですか?」


大ダメージではないが、ほんの少し精神ダメージを食らったアラッド。


「常人離れした身体能力を持ってるという点を考えると、ね」


ぶっちゃけた話、それ以外にも……歳不相応に感じる面なども多くある。

こうして個人的に食事をする時に二人の冒険譚を聞くが、特に雷獣を討伐した時の一件内で起こったことに関しては、そう思わざるを得なかった。


(精神面も飛び抜けてるけどね……彼に変な絡み方をすれば、肉体的にボコボコにされるだけではなく、精神的にもボコボコにされる……特に彼に絡んでしまった歳上の者は災難だろうね)


ハリスが考えている通り、雷獣の一件で自身の正義感をぶつけてしまったクソイケメン優男先輩ことエレムは、刻まれたダメージが中々消えないほどの重傷を負った。


「ところで、二人はこれからどうするんだい?」


元々消えた木竜の行方が気になってジバルにやってきたことは知っている。


その調査? に加えて、直ぐに解決しておかないといけない問題を解消した。

であれば、次の目的地に向かうことは至極当然。


「……まだ全然決まってませんね」


「そうか。まぁ、色々と解ってしまったから、アルバース王国の外には出ない方がいいだろうね」


「そうなりますよね」


まだまだアルバース王国の全てを旅出来ていないため、まだ国外に興味を持つのは早い。


しかし、いずれはそちらに行ってみたいが……まだ早い。


「ん~~~……あっ、そういえばハリスさん。ウグリール山の周辺で暴れている二体の火竜に関して、何か知っていますか」


まだ実家で休暇中だった時、ちょっと遠出して冒険したいな~と思い……幾つかの情報を集めた。


結局二人は盗賊のトップがビーストテイマーである、Bランクのモンスターを従えているという情報に惹かれ、クロとファルと共に盗賊たち時に向かった。


休暇中にプライベートで盗賊退治……色々と単語の組み合わせがおかしい気がしなくもないが、その話を聞いたハリスとしては、二人らしいと思い、笑って済ませた。


そして二人は他にもCランク冒険者を倒したゴブリンの群れと、ウグリール山周辺で暴れている二体の火竜がいるという情報も得ていた。


「そんな情報、確かにあったね…………厄介なモンスターが討伐されたとか、そういった情報なら調べずとも耳に入ってくる」


「えっと、もしかして……まだ討伐されてない、ということですか?」


「多分ね」


アラッドが得た情報では、二体の火竜は共にBランク。


アラッドが討伐したドラゴンゾンビやオーアルドラゴン、木竜には及ばないが……それでも属性を持つドラゴン。

Bランクモンスターの中ではトップクラスの戦闘力を持っているのは間違いない。


「……スティーム、どう思う」


「Bランクのドラゴン、か……空も移動出来ることを考えると、この前戦ったホワイトタイガーよりも強いよね」


「一撃の攻撃力、連撃などに関してはホワイトタイガーの方が上だろう。ただ、総合的な面で考えると、火竜の方が上かもしれないな」


本当にまだ討伐されていないとなれば、何かが起こる前に次の討伐戦で完全に潰してしまう必要がある。


「二人共、そのつもりがあるなら、早めに向かうことをお勧めするよ。そういった何度も討伐に向かった冒険者や騎士を倒しているモンスターは、懸賞金や討伐することで得られる名誉も上がっていく」


そこまで言われれば、もう理解出来る。


二人の今後の予定は速攻で決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る