五百八十九話 今回は無理でも
「「…………」」
探索を開始してから数時間……二人は相変わらず気を抜いた状態。
そんな状態で森の中を探索するのはよろしくないと解ってはいるが、目当ての標的を先にロックオンされてると知ってしまっては……若干間抜けな表情になってしまうのも仕方ない。
従魔二体も次はどんなモンスターと戦うのは知っていたため、クロもファルもかなり気合が入っていた。
(……完全に、気分はドラゴンとの戦いだったんだが、どうしようか…………悩むな)
ドラゴン……と言えど、地域によっては守り神に近い扱い、もしくは触らぬ神に祟りなし状態の場合もある。
サンディラの樹海に生息していた木竜も、ジバルからすれば討伐する気など微塵もなく、寧ろその様な愚かな考えを持つ者がいれば、処罰するほど。
つまり、ひとえにドラゴンというモンスターを相手にしようにも、モンスターだからといって倒してはいけないケースがある。
そういった事情を考えると……二人にとって、この付近で暴れ回っていた二体の火竜は、絶好の獲物だった。
「……ねぇ、アラッド」
「なんだ、スティーム?」
「僕……次は、ドラゴンと戦ってみたいな」
「それは、火竜以外のドラゴンということで合ってるか?」
「そうだね。僕の我儘で、アラッドに迷惑を掛けたくないし」
正直……実際のところ……二人がやけになって二体の火竜を討伐したとしても、ウグリールの領民や領主的には、どちらにしろ有難い。
ただ、頭を悩ませるのは冒険者ギルドのみ。
そして……派遣された水蓮のメンバーが「ふざけんな!!!!!!!」という感情を表に出して二人に詰め寄る。
超個人的な感情、計画でウグリールにやって来た二人からすれば「チンタラ準備してるお前たちが鈍間なのが悪いんだろうが!!!!!」と、これまた超超個人的な反論が出てくる。
実際に暴れている火竜からすれば、次に自分たちと戦うのクラン水蓮のメンバー!!! と予約されている為、他の人間と戦う気はない!!!! なんて意思はなく、そもそも次に挑んでくる人間がどんな奴らなのか知らない。
二体にとっては、自分たちに襲い掛かってくる奴らは人間であろうと、同じモンスターであろうと焼いてく潰して食い殺すだけである。
「俺だけが責められるなら別に良いんだが、どう考えても実家に迷惑が掛かるからな……完全な私情で喧嘩を吹っ掛けて、順番を譲ってもらうか? 一応流れはどうであれ、勝手に挑むよりは悪くない思うぞ」
「勝手に挑むよりは悪くないけど、必ず水蓮と怨恨が残るんじゃないかな」
「戦って正々堂々と順番を奪ったなら、納得してもらいたい……っていうのは、こちら側の我儘か」
「そうなるね。向こうから提案してきたならまだしも、こちらか戦闘を吹っ掛ければ……派遣メンバーのリーダーが
納得しても、他の人たちが納得しないんじゃないかな」
「……ふぅ~~~~~~~。冒険者なんだから納得してくれ、っていうのもこっちの我儘か」
スティームはアラッドの考えがなしではないとは思っている。
水蓮のトップがその一件で、アラッドへの貸しに出来ればラッキー! と考えられる人物かもしれない。
だが、絶対にそうなるとは限らない。
「どういう見方をしても、最終的にはそうなっちゃうよ。ところで、水蓮の方から一緒に戦わないかって誘われたらどうするの?」
「だったら俺たちに変わってくれって返す」
即答だった。
他の同業者と共同戦線を張る必要は一切ない。
傲慢に思えるかもしれないが、それは紛れもない自信と事実であった。
「やっぱりそうだよね」
「雷獣の時とは状況が違うんだ。水蓮のメンバーも、そんな提案をしてくることはないだろう」
二人は話の話題をどんな属性のドラゴンと戦いたいかという内容に変えながら、討伐依頼のモンスターを探し続け……夕方前には発見し、あっさり討伐。
討伐後はそれぞれの従魔にライドし、ウグリールに帰還。
(……? なんか、住民たちのテンションが高めだな)
到着時も、水蓮のメンバーが火竜討伐の為に派遣されたことで、沈んでいたテンションが上がっていた。
しかし、帰還後の雰囲気は……これまで以上に高まっていた。
「あれかな。明日、水蓮のメンバーがいよいよ火竜の討伐に向かうのかな」
「あぁ、なるほど。それで……前祝いか」
スティームの推察に納得。
願わくば……領民たちの表情が反転しないことを祈る。
自分たちが火竜と戦いたいという思いは相変わらず消えていないが、民に絶望を味わあって欲しいわけではない。
(……逆鱗に触れなければ、おそらく問題無く終わるだろう)
二体で活動しているというところに問題を感じなくはないが、もう気にする必要はないと……完全に気持ちを切り離し、冒険者ギルドの中へと入る。
「こちらが買取金額になります」
「ありがとうございます……?」
依頼達成を報告し、報酬金を受け取り……最後に素材の売却。
買取金額を受け取り、後は飯を食って風呂に入って……と考えていると、自分の後ろに並んでいた筈の気配が、モーセの十戒の如く割れた。
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