五百七十八話 悩みの種ではある
SIDE フール
「………………」
現在、フールは王室から届けられた手紙を真剣に読んでいた。
(っ……い、いったいどんな事が書かれているのでしょうか)
書類仕事の補佐をしている男は、ここまでフールが真剣に書類と睨めっこしているのを始めて見た。
しかし……次の瞬間、フールはいきなり大きな声で笑い出した。
「ぶっ!!! あっはっはっは!!!!」
「っ!!!???」
主君が突然笑いだしたとなれば、従者として心配してしまうのは至極当然。
「ど、どうされましたか」
「いや、大丈夫だよ。なんともない……とは言えないか。でも、多分大丈夫」
「そ、そうですか……しかし、その手紙にはフール様が思わず笑ってしまうようなことが、書かれているのですね」
「うん……そうだね。僕は、これを読んで思わず笑っちゃったよ……だって、もしかしたらアラッドがドラゴンライダーに……竜騎士になるかもしれないんだよ」
「…………え、えっと、それはどういう事なのでしょうか?」
幼い頃からアラッドのことを知っていることもあり、男はアラッドが竜騎士になるかもしれない……という内容に対し、腰を抜かして驚くことはなかった。
本当に……ただの天才や怪物という訳では収まらず、正真正銘規格外の鬼才であることは十々に把握している。
だが、何故いきなり竜騎士に? という疑問は直ぐに解消されない。
「う~~~~ん……まぁ、あれだね。アラッドが考えていた嫌な予感が当たった。その流れで、一体のAランクのドラゴンと出会って、どうやらそのAランクドラゴンが人の言葉を話せる知性を持っていたようなんだ」
「つまり、オーアルドラゴンと同じ強さを秘めていると」
「そうなるかな。ただ、そのドラゴンがどうやら暴走する可能性があったのを、アラッドとスティーム君、加えて現地の冒険者や騎士たちと暴走する前に止めることに成功したらしい」
「流石アラッド様ですね」
雷獣の討伐劇までは彼もアラッドの冒険譚を知っている為、どうやって止めたかまでは解らずとも、アラッドがAランクドラゴンが相手であっても討伐出来る実力を有していると確信している。
「……あれ? では、どういった流れでアラッド様が竜騎士になるのですか?」
「そのAランクドラゴンが暴走するかもしれない切っ掛けをつくったのが、他国の構成員? だったようでな」
「つまり、自らその国に攻撃を与えたいと、そのドラゴンは考えているのですね」
「そういう事なんだが、どうやらそのAランクドラゴンがアラッドに興味を持ったらしく、今すぐにその他国に攻め込もうとはしなかったらしい」
「Aランクドラゴンに興味を、持たれたのですか…………えっと、色々と反応に困りますね」
話を限り、一応味方になったと捉えられる。
ただ、たとえ人の言葉を話せたとしても、結局はドラゴン……モンスターである。
オーアルドラゴンの様にそれなりに付き合いのあるドラゴンであればまだしも、そう簡単に信用出来る相手ではない。
「そうだね。ちょっと反応に困るあれだね。ただ、アラッドに興味を持ったからこそ、こちら側の事情を汲んでくれたんだ」
「……あれ、ちょっと待ってください。竜騎士、ということは……もしかして、そのAランクのドラゴンを従えて戦う……ということ、なのですか?」
「そういう事になるね。アラッド側から……アルバース王国側の戦力として参加するために、一時的にとはいえアラッドの従魔になると申し出たらしい」
「っ!!!!???? …………フール様。私……その、アラッド様が何かをやらかしたわけではないと解ってるのですが、少し頭痛が」
「ふふ、仕方ないね。僕としては笑えたけど、確かに……頭痛の種でもあるかな」
フールはアラッドなら、現在一緒に行動しているスティームがいれば、ある程度の物理的な攻撃は対応出来ると考えている。
しかし……アラッドが一時的とはいえ、Aランクのモンスターを二体も従魔にしたという実績を持てば、必然的に他の兄弟たちにプレッシャーが与えられる。
(ギーラスは既にBランクの風竜を一人で倒してるだろうから、特に問題はないだろうけど……ルリナとガルアも先日、パーティーでとはいえ、Bランクのモンスターを討伐した)
アラッドの兄たちや姉は揃って優秀であり、将来的に長女のルリナや次男のガルアも一人で討伐することは不可能ではなく、十分可能性がある。
(シルフィーは……まだ幼い。下手に焦ることはないだろう。アッシュはそもそもそういった功績などに興味がない。そうなると、やっぱり心配なのはドラングだね)
フールもドラングが学園に入学してから成長していることは知っているものの……あっさりと特例で学園を卒業して騎士の爵位を手に入れたアラッドは、圧倒的な早さで功績を積み重ねている。
(…………………………ダメだ。全く良い案が思い浮かばない)
これまでもフールはドラングと一緒に何度も二人でゆっくり話し合ったことはあったが……まだ完全にはアラッドに対する対抗意識を上手く制御出来てるとは思っておらず、間違えが起こる前になんとかしたかった。
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