五百七十七話 警告必須

色々と驚く内容がある。


しかし……一番驚くポイントは、木竜が一時的にとはいえアラッドの従魔になることを提案していることだった。


「…………彼は、知識があるモンスターにも惹かれる何かがあるのでしょうか」


宰相は特殊な体質を持つレイ・イグリシアスや既に騎士団で活躍中のフローレンス・カルロストなどに強い興味を持たれていることを知っている。


加えて、騎士団長などの国の重要人物も彼のことを気に入ってると把握済み。

長い間表に出ておらずとも、人を引き付ける何かがあると評価していた。


しかし……あまり情報がないAランクモンスターを従魔にしていることに加え、今回……一時的ではあるものの、Aランクの木竜が従魔になる可能性がある。


「ふむ……そうだな。彼はとことん、普通ではない。勿論、良い意味で普通ではない。そういった点も含めて、木竜は惹かれたのかもしれないな」


アラッドは一つの武器だけではなく、多数の武器は並……もしくは並み以上に扱う事が出来る。

そこに加えて魔法の腕は完全に並を越えており……得たスキルに関しては一対多数の戦闘が得意。


そんなそこら辺のオールラウンダーが裸足で逃げだす程の手札を有しておきながら、錬金術という戦闘とはそこまで関係無い分野の腕まで並ではない。


木竜はそこまでアラッドの事を知らないが、そういった情報を知れば……惹かれる者は惹かれるだろう。


「しかし、一時的にとはいえ……アラッド君の方から参加条件として提案したのであればともかく、木竜の方から提案してきたとは…………以前から末恐ろしいどころの話ではないと解っていましたが、完全に恐ろしい存在ですね」


「そう思うのも無理はないだろうが、あまり子供に言うものじゃないぞ」


「勿論心得ております。味方であればこの上なく頼もしい存在であるのは間違いありません。全体的に凶悪と捉えられる存在には立ち向かう正義感も有していますからね」


国王や宰相は監視目的のためではなく、ただ本当に個人的にアラッドの冒険者としての活躍情報を時間があれば適度に集めている。


故に、ある程度の事は頭に入っている。


「ですが……私たちはともかく、バカなことを考える家が現れるかもしれませんね」


「……フールの本音を知っている者であれば、下手に考えぬとは思うが……知らない、もしくは信じきれない者にとっては、見逃せない内容ではあるな」


Aランクのドラゴンを一時的ではあるが支配下に置く。


それが出来る、出来ない……そして人間側からの提案なのか、それともドラゴン側からの提案なのか……それらの事情によって、他家から見るアラッドという人間の評価が変わる。


「…………もろもろの流れ、実際に開戦することが決まれば、その時点で圧を掛けておきますか?」


「そうだな……愚かな者たちがいないと信じたいところだが、そう上手くいかないのが政だ」


戦争が起きるか否かは一旦置いておき、その場合Aランクの木竜という存在をどう扱うかは、二人の中で決まった。


「しかし、Aランクのドラゴンと同じくAランクの巨狼を従える十五歳……いや、今はもう十六歳だったか。どう思う?」


「…………既に恐ろしいという意見を除くと、絶対に他国に奪われたくない。その考えが強いですね」


貴族に限ってそんな事はない……なんて事はあり得ないと、歴史が証明している。

数例ではあるものの、記録を遡ればアルバース王国の貴族出身の人物が、完全に他国の戦力になったことはある。


「家族間の仲は基本的に良好であり、身寄りのない子供たちに未来を示し、選択肢を与えている……自腹で行っているということを考えると、私は彼が神の代行者の様に思えてしまいます」


「はっはっは!!!! そうだな……アラッド君個人が度を越えた財力があるからこそ出来る保護と支援だ……聖職者たちの前ではおいそれと言えないが、私も似た様な考えだ」


「それらの件から、とてもアラッド君がアルバース王国を捨てるとは思えませんが……更に名が広まる事があれば、なりふり構わず動くかもしれません」


「……それこそ、戦争を起こしてでも、か」


最悪で可能性が低いケースではあるが、絶対にないとは言えない。


「私としては、もう一つ……アラッド君をアルバース王国に繋ぎ止める要素が欲しいです」


「…………やはり、そこでフィリアスの出番か」


「そうなりますね。フィリアス様のお気持ちも重要ですが……陛下から聞くお話通りであれば、問題はないでしょう。加えて、令嬢たちの中ではレイ嬢とフローレンス嬢が次いで候補になるかと」


割と繋ぎ止められる候補がいるのは陛下や宰相としても有難い。


宰相としては今後、自分の家の立場も考えればうちの娘を……という考えがゼロではないが、下手に押してウザがられるのは良くないと即座に判断。


(とはいえ、懸念材料はありますが……ひとまず、将来的にはその三人が候補でしょう)


元々の性格やこれまでの行動も踏まえて、二人は話題をアラッドをアルバース王国にどう繋ぎ止めるか、から外国のスカウトをどう止めるかに変えた。

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