五百七十九話 どうしたい?
「やぁ、いきなり集まってもらって悪いね」
「いえ!! とんでもありません!!!!」
フールは訓練を行っていたガルシアたちを個室に呼び出した。
「アラッドの近況が手に入ってね。まず、そっちから報告しようかな」
基本的にガルシアたちの主人はアラッドであるため、フールの言葉に五人は……上手く隠しているものの、フールにはあっさりと喜び具合がバレていた。
「てな感じで、相変わらず同業者と衝突することはあっても、なんやかんやで上手くやれてるよ」
「…………それは嬉しいのですが、同じエルフとしてそのバカたちの行動は本当に頭が痛くなります」
「はっはっは、それは仕方ないよ。君たちがアラッドのことを大好きなように、そのエルフ君たちも緑焔のクランマスター、ハリス君のことが大好きなんだから」
フールは過去に似た様な経験をしているため、まだ出会ったことがない組織のトップに立つ一人のエルフに同情した。
「さて……ここからが本題なんだけど、もしかしたら数年後……もしくは近々、他国と戦争が起きるかもしれない」
「「「「「っ!?」」」」」
戦争、という単語を耳にし、五人の表情に緊張が走る。
「二人が向かった街の近くにサンディラの樹海というのがあるんだけど、そこにAランクの木竜がいたのは知ってるかな」
「えぇ、話は聞いています。ただ、ここ最近突然姿を消し、それが気になったこともあり、アラッド様とスティーム様がジバルへ…………まさか!!??」
「おおよその考えは合ってると思うよ。木竜が姿を消したのは、他国の人間のせいなんだ。木竜を殺すんじゃなくて、異次元へ飛ばしたっていうんだからね……全く、どれだけ今回の嫌がらせにお金を使ったんだって話だよ」
木竜が殺されたわけではない。
そして話を聞く限り……アラッドたちが木竜を殺したわけではなさそう。
五人はまだ話の全容が見えなかった。
「それで、アラッドは緑焔のハリスさんや幹部たち、その話を聞いてジバルに来ていた騎士団たちと協力して、なんとか木竜が暴走することを防いだんだ」
「流石アラッド様ですね」
尽力を尽くしたのはアラッドだけではないが……アラッド第一である五人は、まず一番にアラッドを賞賛した。
「そうだね。僕も父親として鼻が高いよ。ただね……ここからがちょっとびっくりでね。なんと、その木竜が一時的にとはいえ、アラッドの従魔になると提案したらしいんだよ」
「「「「「っ!!!???」」」」」
アラッドの実力は模擬戦で体に染み込んでおり、実際にその眼でしっかりと焼き付けている。
ただ……そんな五人でも、事務補佐の男と同じく、決して小さくない衝撃を受けた。
「………………それは、もしやその木竜がこちら側の考えを汲み取った、ということでしょうか」
「オーアルと同じく、人の言葉を喋れる知能があるタイプみたいでね。真っ先に駆け付けたアラッドやスティーム君に興味を持ったみたいでね……その国と戦争をするなら、アラッドの従魔になって参加してくれるらしい」
「なるほど………………その、余計な心配かもしれませんが、後々大きな問題が起きたりしないでしょうか」
「ははは…………うん、そうだね。残念ながら、避けられない問題だよ」
フールの眼が死んでるのを確認し、心中お察しする五人。
とはいえ、父親であるフールとしても……最終的な上司にあたる国王としても、木竜からの提案を断れない。
アラッドではなく、他の人間の従魔であれば構わないと提案する?
そんな提案をして機嫌を損なわれてしまえば、こちら側としても良い予感がしない。
「まっ、それでもその提案を受け入れないという選択肢はない。実際、木竜という戦力が手に入るのはこちらとしても有難い」
「……そうですね。色々と事が済んだ後にアラッド様へちょっかいを掛ける愚か者がいたとしても、瞬殺されるのがオチでしょう」
「ふふ、そうだね。僕としては潰す程度に留めておいてくれると嬉しいかな……さて、君たちに伝えたいことはこんな感じで、次に訊いておきたいことがあるんだ」
これまでが、アラッドに関する五人への近況報告。
そして……ここからが、侯爵家の当主として五人に訊いておきたい事。
「おそらく起こるであろう戦争に……五人は、どうしたい」
フールは五人を一人の人間として接している。
非情市の才には戦力として役立ってもらうが……基本的に五人をそういった扱いをするか否かは、主人であるアラッドが決めること。
アサルフワイバーンが大量のワイバーンを引き連れて攻めてきた時は、五人が戦闘に参加すると自ら望んだからこそ、フールは五人を一つの戦力として扱った。
そもそも五人は現在アラッドが主に経営している孤児院を守る戦力という役割もあるため、フールとしても容易に起こるかもしれない戦争に参加してほしいと頼めない。
「「「「「参加します」」」」」
「…………それで、良いのかい? 決して強制ではないんだ」
「当主様が私たちを一人の人間として扱て頂けるのは、本当に嬉しく思っています。ただ……アラッド様の奴隷として、そういった場に向かわない、という選択肢はあり得ません」
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