五百六十二話 我慢し過ぎ?
「ふぅーーーーー……」
「本当に無茶をするね」
「無茶だったか?」
「……自覚がないって言うのも凄いところだよね」
強化系のスキルを使わず、魔力すら纏わずに二体のリザードマンナイトに挑む。
それを本気で無茶と思っていない友人を凄いとは思えど、驚きはしなかったスティーム。
「それで、少しはイライラは晴れたかい?」
「そうだな……まぁ、多少は晴れたな。本当はもっと割り切って動かないとダメなんだけどな」
自分の考えを押し付けようとする者はどこにでもいる。
この世界であれば……貴族なんてその典型的な例である。
(前世であれば…………過激なヴィ〇ガンな連中とかがそれに当てはまるか)
今世でも、前世でもそういった他人の気持ちを考えられないクソったれな人間がいることは知っていた。
既に学習済みである……なのに、自身の中からモヤモヤを、イライラを消せてない。
アラッドはそんな自分をまだまだだと思うが、スティームはそう思っていなかった。
「……アラッドはさ、もうちょっと子供らしくても……いや、もう十五を越えてるんだから子供じゃないんだけど、あれだよ……歳相応の考えを持っても良いんじゃないかな」
「どういう、事だ?」
「アラッドが年齢よりも考えが大人びてるところがあるのは解ってたけど、でもさ……誰であってもイラっとする事はあるじゃん」
「それは……そう、だな」
他人から考えを押し付けられるというのは、例え十六歳の青年じゃなくてもイラついてしまう。
大人であってもイラつく者は多い。
「あのエルフやハーフエルフに対して、正直僕も一発ぐらいぶん殴ってやれば良かったと思ってるよ。あの場に居た同業者たちが僕やアラッドの立場だったら、同じことを考えてる筈だよ」
「そうか……」
「まっ、何が言いたいかというと、そこまで無理にイライラを抑えようとしなくて良いんじゃないかって話だよ。あの件に関しては、あのエルフたちが間違いなく悪いんだ」
世の中にはあぁいった連中が絶対にいる。
誰から説教を受けようとも、その考えや性格を変えることは出来ない。
そういった面倒過ぎる人間がいることはスティームも理解している。
しかし……そういった人間は世の中に絶対居るんだから仕方ないよね、と無理矢理自分を納得させる必要まではない。
「もし、また絡んでくるような事があれば、今度は全身の骨をバキバキに折っても良いんじゃないかな」
「…………ははっ。スティーム……あんまり自分でこんな事を言うのはあれだけど、お前ちょっと考え方が俺に似てきたんじゃないか」
「ふふ、そうかもしれないね。アラッドとそれなりに行動してるから、考え方が少しは移ったかもしれないね」
アラッドに似てきている。
本人からそう言われて、嫌な気は全くしなかった。
「我慢しなくても良い、か…………そうだな。今度顔を合わせたら、嫌味の一つや二つでも吐き捨ててやるか」
結局この日は木竜に関する手掛かりは得られなかったものの、非常にスッキリとした気分で期間。
素材を換金する際、冒険者ギルド内にはあのエルフたちの姿はなく、嫌味を言う機会はなかったが……二人が一旦宿に戻ってから数十分後、客が訪れてきた。
「あっ、ハリスさん」
「やぁ、二人とも。先日ぶりだね」
その客とは、Aランク冒険者にしてクラン、緑焔のクランマスターのハリス。
「まだ夕食は食べてないかい?」
「はい、まだです。これから食べようかと思っていて」
「そうか、それは良かった」
ハリスがわざわざ二人の元を訪れてきた理由は、夕食のお誘い。
勿論、代金はハリス持ち。
またハリスと楽しく食事などすれば、あのエルフたちが絡んでくるのは目に見えているが、次同じような絡み方をすれば骨をバキバキに折ると決めた。
それで構わないと思い、ハリスの後を付いて行く。
到着した店は……隠れ家的名店の個室。
そして個室に入るなり……ハリスは深く頭を下げて謝罪を始めた。
「二人とも、申し訳ない!!!!」
「「っ!!??」」
大手クランのマスターが……Aランクの冒険者が自分たちに深々と頭を下げた。
その目の前の現実を、アラッドは一先ず受け入れた。
明確な謝罪を受けるだけの理由が自分たちにはある。
部下の失敗は……上司の責任となる。
貴族社会などでは簡単に尻尾を切られることもあるが。ハリスはそのような糞みたいな態度で済ませるつもりは一ミリもない。
ただ…………ハリスが自分に深々と頭を下げる光景を見て、アラッドは再度あのエルフやハーフエルフたちに怒りが湧いてきた。
「……ハリスさん、あなたからの謝罪は受け取りました。なので、顔を上げてください」
「本当に……申し訳ない」
「もう、ハリスさんからの謝罪は受け取りました。だから、顔を上げてください」
当然、ハリスとしてはまだまだ頭を下げたりない。
しかし……謝罪されたアラッドと同様、その態度を……言葉を受け入れなければ失礼だと判断し、ゆっくりと頭を上げた。
「……とりあえず、好きなメニューを頼んでほしい」
「「ご馳走になります」」
一応この場には夕食を食べに来たため、メニューを頼まない訳にはいかない。
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