五百六十一話 あの人なら?

「…………」


(あぁ~~~、ま……まだイライラが消えてないな)


緑焔に所属するエルフやハーフエルフの若者? たちにダルい絡まれ方をしたアラッドの機嫌は翌日になっても直っていなかった。


誰かに……物に当たることはなく、そこまで表情にも出ていない。

ただ、それなりの期間、共に行動をしてきたスティームにはその小さな差に気付いていた。

それはスティームだけではなく、クロやファルも同じだった。


「アラッド、今日はどうする? ギルドに行かずそのまま狩り、調査に向かう?」


「……そうだな。今日は依頼を受ける気分じゃないしな」


「そっか」


やはり、イラつきを他者や者にぶつけることはない。

それは解っているが……スティームとしては、その溜まっているイラつきがどこで爆発するかが非常に怖い。


(この前戦ったエルダートレントみたいな、かなり強いモンスターと運良く遭遇出来たら、イラつきも解消されるかな…………アラッドが前に話してた、マジットさんって人なら……話し合うだけで上手くやれるのかな)


頼れることなら頼りたいが、この世界ではスマホの様な便利な道具はないため、離れていては話すこともままならない。


(それにしても、あのエルフやハーフエルフたちは……もしかして自殺志願者なのかな? アラッドにあそこまで反抗……抵抗? の意志を見せるなんて、骨の一本や二本は折ってくださいって言ってる様なものだよ)


実際のところ、最後の最後で立ち上がってまだ対立しようとしたエルフは、素の状態とはいえ……強い怒りが籠ったヤクザキックを食らい、骨が折れて内臓が損傷した。


(自分たちが尊敬している人が、どこぞの若造と話してるのは……確かに気に入らないかもしれないけど、だからってちょっと特別なタイプとはいえ、弓を使った相手に負けたんだから、その場で心が折れてもおかしくないと思うんだけどなぁ…………それだけ堅く強い忠誠心? を持つ程の出来事が過去にあったって事なのかな)


過去に何かあった。

だからこその忠誠心と、その忠誠を誓う人物がどこぞの馬とも知れない野郎と話すのが気に入らない。


やはり……その気持ちは解らなくもないスティームだが、できればツッコミたかった。

さすがにもう少し相手を選べよと。


(僕は他国の人間だから知らなくて当然だと思うけど、それでもアラッドはこの国の侯爵家の令息だよ。貴族の令息としてだけじゃなく、冒険者としても既に結果を残してる。もう少し躊躇いを持っても良いと思うんだけどな)


ヤバい方向に頭が、思考がイってしまってるのかもしれない。


そんな事を考えながら先日まで探索した場所に移動すると、リザードマンナイトが二体、冒険者から奪ったであろうロングソードを振りかざしながら襲い掛かって来た。


「スティーム、俺にやらせてくれ」


「うん、分かった」


断る理由はない。

スティームとしてはもっと強い敵との戦闘経験を積みたいと思っているが……今はそんな思いを優先する場面ではなかった。


「お前らの相手は、俺だ」


「「ッ!!??」」


襲い掛かって来たリザードマンナイトとしては、アラッドだけではなくもう一人の人間と二体の従魔も相手にするつもりだった。


しかし、一人の人間から発せられた強烈な殺気無視出来ず……背後から狙われる危険性を無視し、一人の人間に全力で斬り掛かる。


「悪いが……八つ当たりに付き合ってもらうぞ」


通常のリザードマンより剣技の腕が優れた個体。

普段であればアラッドもロングソードを……今の期間であれば、糸をメインに使って戦うところだが……敢えてロングソードよりもリーチが短い素手で挑む。


「シッ! フッ!!!」


(うわぁ~~~~……命知らずな事をするなぁ~~~)


見れば解る。

今のアラッドは身体強化系のスキルを使用しておらず、体に魔力すら纏っていない。


対してリザードマンナイトはバリバリ強化系のスキルを使用し、体に魔力を纏い……剣技のスキルを使用している。


レベル差と体質の差もあって、素の全力と本気のリザードマンナイトの力はほぼ拮抗していた。

そこに差があるとすれば……対人戦の技量。


アラッドはこれまでの戦闘経験からくる予測、勘も含めて正確に鋭い刃を躱し、鋭い打撃を繰り出す。


当然ながら、今のアラッドがリザードマンナイトの斬撃を食らえば……斬れる。

受け方を間違えれば、腕や足が切断されてもおかしくない。


(……あのエルフやハーフエルフたちも別方向でちょっと頭がおかしいんだろうけど、おかしい度合いなら……やっぱりアラッドも負けてないよね)


「よっ、セイッ!!!!!」


右脚で片足を払い、体を回転させながら左脚で蹴突。


「ッ!!??」


心臓に決まってはいないが、肉と骨を越えて内臓が完全に破壊された。


一応モンスターにも内臓は破壊されれば、行動に支障が出る。


「シャァアアアアアアッ!!!!」


「っと、ふんっ!!!!!!!!」


剣技、アッドスラッシュを寸でのところで左脚が地面に付き、緊急脱出……そしてそのままオーバーハンドフックを叩きこんだ。


「ジャっ!!!!!????」


叩きこんだ体勢が体勢だったため、命中した部分は左脚だったが、その一撃で骨は完全に砕けて筋肉もボロボロ。


二体のナイトは完全に戦闘不能状況に追い込まれた。

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