五百五十一話 かつての犠牲者?
「……割と来る人はいるんだな」
「もしかしたら、普段は木竜にビビッて動かないモンスターが動くから、それを狙いに来てるのかもしれないね」
サンディラの樹海の最寄り街、ジバルに到着。
門の前にはそれなりに多くの者たちが並んでいたが……その多くは戦闘職に就いている者たちだった。
(ん? ありゃ……騎士団、だな。なんで……って思うのは馬鹿だな)
一般関係者以外が入れる特別入り口。
そこには貴族や豪商、騎士団など通れる道。
「アラッド、彼らはもしかして王都に所属する騎士たち?」
「いや、どうだろうな。俺もそこまで騎士団には詳しくないからな」
王都の騎士団か、それとも他の街に拠点を置いている有名な騎士団なのか……どちらにせよ、今ジバルは訪れるかもしれない恐怖に対抗する戦力が必要だった。
「っ……お、おいあの人」
「どうし……っ!?」
騎士の数人が、自分たちとは別の列に並んでいる人物に気付いた。
その瞬間……何名かの騎士が歩みを止め、その場である人物に……アラッドに向けて綺麗な敬礼を行った。
(っ!!!??? だ、誰だ、ろ…………は、はは。そうか、現実を受け止めてくれたみたいだな)
遠目から誰なのか確認出来たアラッドは、同じく敬礼で挨拶を返した。
「もしかして、学生時代に知り合った歳上の先輩?」
「いや、そういう関係の人じゃない。関わった時間だけで言えば、知り合いにもならないだろうな」
先程アラッドにビシッとした姿勢で敬礼を行った数人は……かつて、アラッドが騎士になることに不満を持ち、勝負を挑んだ者たちだった。
「いやぁ~~、お二人が来ていただけるなんて本当に嬉しい限りです!!!」
「そう言ってもらえると、こちらとしても嬉しいです」
特に用事はないが、冒険者ギルドに顔を出した二人。
すると、二人の顔や特徴を把握している受付嬢近寄り、挨拶。
ジバルの領主は領主で万が一の危機に備えて先手を打っているが、冒険者ギルドとしてもなるべく戦力を用意しておきたい。
そんな中、頼んでいないにもかかわらず……今話題の超頼りになるルーキー二人が来てくれた。
「今のところ、特に変わったところはありませんか?」
「高ランクのモンスターがぶつかり合っている事以外は、特に変わったことはないかと」
「そうですか……ありがとうございます」
高ランクのモンスターが全力でぶつかり合う事は十分変わったことではあるが、木竜が消えたという事情を考えれば、今はそれが普通であった。
更に幾つか質問して情報を得たところで、アラッドは受付嬢にもう一度礼を伝えてギルドから退室。
何人かの冒険者は受付嬢と楽し気に会話するアラッドとスティームに絡みたくなるも、二人の従魔の存在を知っている同業者から止められ……ひとまずその場では何も起こらなかった。
「あのさ、高ランクのモンスター同士がぶつかり合ってるのって、普通に考えて冒険者ギルド的には美味しくないよね」
「全くもって美味しくないだろうな。まっ、冒険者としては漁夫の利を狙えるかもしれないけど……木竜の存在によって抑えられていた暴力性が解放されてるって考えると……上手いこと狩るのは難しそうだな」
現在、サンディラの樹海に生息する高ランクのモンスターは普段から暴れ回っている……個体もいるが、敵と遭遇しなければ大人しい個体もいる。
しかし、いざ戦闘のスイッチが入れば……何連戦であっても勢いが衰えない力強さで戦い続けるほど、完全にタガが外れる。
一度倒したことがあるモンスターだからと油断していれば、あっさりその勢いに飲み込まれる可能性大。
「……多分さ、多分だけど他の冒険者たちから一緒に探索しないか、もしくは依頼を受けないかって誘われたらどうするの」
「申し訳ないが、お断りさせていただくな。この前の盗賊退治の様に俺たちだけで動きたいって明確な理由がある訳じゃないが……いざという時、サンディラの樹海の状況を考えると、絶対に守れるとは保証できない」
…………他の冒険者が今のアラッドの発言を聞けば、喧嘩待ったなしである。
スティームは出会って既に数か月が経っており、アラッドがどういった性格をしているのか知っている。
だからこそ特に怒ったり負の感情が湧くことはなく、実にアラッドらしい考えだと納得。
(これで悪意がないんだもんな~~~~。他の冒険者が聞けば……アラッドの実力を身を持って知っている人ならともかく、初対面の人なら絶対に喧嘩になるよね。というか、その場合多分アラッドから喧嘩を売ってきた? って思われる可能性の方が高いかも)
とはいえ、実力を身を持って知っているスティームからすれば、喧嘩に発展したとしてもアラッドが負けるイメージは浮かばなかった。
「なぁ、そこの二人。良かったら俺たちと一緒に依頼を受けないか」
翌日の朝……一応冒険者として依頼を受けようと思った二人は冒険者ギルドに訪れていた。
どんな依頼を受けようか悩んでいると、同年代らしき冒険者が二人に声を掛けてきた。
スティームは顔に出なかったが……何故声を掛けてしまうんだという表情を堪えるのに必死だった。
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