五百五十二話 顔のせい?
「……俺たちに声を掛けてくれた、ってことで良いのかな」
「うん、勿論だよ」
自分とスティームが声を掛けられたのだと、勘違いではないことを確認。
「どうして、俺たちに声を掛けたんだ?」
「今、サンディラの樹海は探索するにしても依頼を受けるにしても、今までと比べて生きて帰れる可能性が確実に下がっている。そこで、お互いにCランクの僕達が組めば、生還率も確実に上がると思ってね」
(……とりあえず、間違ったことは言ってない。加えて、こっちを利用してやろう……って黒い感情はなさそうだな)
声を掛けてきた青年が所属するパーティーのメンバーも含めて、彼らの実力は並以上。
サンディラの樹海を探索するにしても、決して足手まといになることはない。
(とはいえ、あのクソイケメン優男先輩以下……だろうな)
Cランクの冒険者であっても、スティームやオルフェンの様に攻撃力だけであればBランククラスの持ち主、といった優れた実力者がいることは解っている。
ただ……声を掛けてきた者たちは、そういった秘めた力を持っている様には思えなかった。
「申し訳ないが、断らせてもらう」
「……一応、理由を聞いても良いかな。今のサンディラの樹海状況を考えれば、二人……いや、従魔を入れて四人だとしても危険は付き物だと思うけど」
(馬鹿正直に言わない方が良いだろうな)
なるべく、相手の面倒な部分を刺激しないように言葉を選ぶ。
「俺たちは、安全な冒険をしに行こうとは思ってないんだ……多分、あなた達とは目的が違うと思います」
アラッドが選んだ言葉を耳にした冒険者……結局、喧嘩が始まるのかと予想し、更に視線を集める。
声を掛けた青年のパーティーメンバーたちも、血の気の多い者は強く拳を握りしめ……いつでも戦れる準備に入っていた。
「……そうか。確かに目的が違うなら、無理に組まない方が良いかもしれないね」
「理解してもらえて助かります」
特に大きなイベント……問題に発展することなく、両者は別の依頼を選び、野次馬達が期待していた流れに発展することはなかった。
「さっき、喧嘩に発展するんじゃないかって凄いひやひやしたよ」
「……なぁ、それは確かに俺も可能性として頭の中にあった。でもさ……なんで俺が断ったら、喧嘩に発展するかもしれないって思うんだ?」
理由は超単純。
アラッドは相手が同世代の者たちなどであれば、本人は意識しておらずとも……誘いを断る時などは、無意識に態度が上になっている。
「なんでって……アラッドだから?」
「結構文句を言いたい内容だな」
「ん~~~、ほら! アラッドの顔って怖い寄りのカッコイイタイプじゃん。だから、アラッドが意識していなくても、自然と上からな態度になってるんだと思うよ」
「……それなら、文句は言えないな」
「それより、僕は昨日話してた内容をそのまま口にしなかったことにちょっと驚いたかな」
昨日話した内容、と言われてアラッドは直ぐに細かい内容を思い出した。
「それはさすがに口に出したら、即喧嘩に発展すると思ったんだよ。俺も……少しは学んだってことだ」
「流石だね」
「……ちょっと馬鹿にしてないか?」
「そんな事ないよ。ただ、アラッドは思った事をズバッと言うってイメージが強いからさ」
己の過去を振り返ると……それ以上は何も返せないアラッドだった。
「グルル」
「どうした、クロ。いつになく楽しそうだな」
「グルルルっ!!!」
樹海の雰囲気としては、とても楽しめるような空気ではない。
だが、Aランクモンスターであるクロからすれば、荒々しさが強い現在の空気は、とても好ましい。
「既にバンディットゴブリンやコボルトの上位種が躊躇することなく襲い掛かってくる状況を考えると、クロにとっては非常に楽しい狩場かもしれないね」
高ランクモンスター同士の争いが頻繁に行われる中、その争いに加わる事が出来ないモンスターのメイン食事は……樹海に入り込んでくる人間。
長く樹海で暮らしていれば暮らしているほど、初見ではない高ランクモンスターの恐ろしさを身に染みて理解している。
とはいえ……結局のところ、アラッドたちに襲い掛かるのは自殺行為であった。
「それでも、この荒々しい空気とランクが高くないモンスターがクロたちにも躊躇なく襲い掛かってくる……それら以外は、特に変わった点はないみたいだな」
気になる疑問を持っているアラッドとしては、もっと解りやすい何が見つかると嬉しいが……そう簡単に今回の異変に繋がる何かが発見されれば、既に他の冒険者たちが見つけている。
「……っ!!!」
「ファル、どうしっ!? アラッド!」
「木に偽装したトレント、と……エルダートレントか。入って一時間も経たずにこんな奴と戦れるなんてな……良い時期にこれたもんだ!!!」
十数体と一体のエルダートレント。
樹海という場所は彼らのテリトリー。
再生力も高く、非常に厭らしい攻撃が得意なモンスターたちだが……彼等にとっては、それぐらいが丁度良い実戦だった。
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