五百五十話 主を決める争い
「結構暖かくなってきたな」
「そうだね」
ビーストテイマーの頭領率いる盗賊団を討伐してから更に一か月後、既に季節は春に近づいていた。
(そろそろ、出発しても良さそうだな)
実家に戻ってきてから数か月間、アラッドはスティームと共に充実した休暇を楽しんだ。
偶にバークや兄貴と慕ってくれるボルガンたちと依頼を受けており、全く冒険者活動をしていないニート生活を送っていた訳ではなく、非常に健康的な休暇を過ごしていた。
「向かう場所は既に決まっているのですかか?」
「……サンディラの樹海に行こうと思ってる」
「ッ!! そうですか……お二人なら大丈夫だとは思いますが、気を付けてくださいね」
サンディラの樹海とは、元々数百年以上生きている木竜が主として君臨しており、危険な猛獣なども多く生息しているものの……激怒した木竜の恐ろしさを本能的に理解しているからこそ、好戦的なモンスターであっても勝負を挑まない。
それはサンディラの樹海から最寄りの街の貴族や冒険者たちも同じ。
数百年生きた木竜の素材ともなれば、超大金が手に入る……どころの騒ぎではない。
貴族がそれらの素材を手に入れれば、素材を上手く利用して一つ上の爵位を目指すのも不可能ではない。
冒険者であれば、ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れることが出来るものの……過去に悲惨な戦果が生まれたこともあり、触らぬ神に祟りなし状態。
しかし、ここ一か月の間……何者かによって数百年生きた木竜が討伐された。
「解ってるよ、エリナ。つっても……結果的に楽しんでしまう気がするけどな」
実際のところ、木竜が何者かに倒されたところを見た者はいない。
だが、ここ最近サンディラの樹海でモンスター同士の争いが活発化している。
突然そういった現象が起こるケースは過去にいくつか確認されており、その殆どが……その地域の次の主を決めるための争い。
当然のことながら……まだその戦いは終わっていない。
「まっ……マジっすか、兄貴たち」
「おぅ、マジだぞ」
「…………あれだね、流石アラッドだと思うのが一番だね」
バークやボルガンたちに今後の目的地を伝えた際、まだ知り合って数か月のボルガンたちこそ目玉が飛び出そうなほど驚き固まるが、昔からアラッドの桁外れなところを知っているバークたちは彼ら程驚かなかった。
「サンディラの樹海っつーと、今新しい王を決める為にモンスター同士で争ってるんだったか? んじゃ、その新しい王をぶっ倒しにいくのか?」
「それはそれで面白いな。まぁ、ちょっと気になる事があってな」
長年倒されなかった絶対的な力をモンスターが倒される……といったケースは珍しくはあるが、決してあり得ない話ではない。
(どうやって倒したのかとかは当然気になるんだが、どうして倒した人物……もしくは組織が解らないままなのか、そこが気になる)
今からそれを探るには遅いかもしれないが、それでもサンディラの樹海へ向かうのは色々と損がないと判断。
翌日、二人は予定通り朝からサンディラの樹海へ向けて出発。
「ねぇ、アラッド」
「なんだ?」
「木竜はさ……本当に倒されたんだと思う?」
「……どういう意味だ」
「何百年も生きた木竜って、多分Aランクの中でも最上位の力を持ってるよね」
「人間は歳取ったら全盛期を過ぎるものだが、モンスターは成長期間も含めて全盛期が長いからな」
弱肉強食の世の中だからこそ、あまり低ランクのモンスターが化けることは少ないが……過去にはゴブリンの軍団が小国を滅ぼしかけたこともある。
「姿こそ消えたけど、木竜と何者かが争った形跡、音とかは確認されてないってのを考えると、本当に倒されたのかなって疑問に思ってさ……だって、木竜ってそんなにあっさりと倒せるモンスターじゃないでしょ」
「Aランクのドラゴンって時点で、そんなにあっさりと倒せてたまるかって話ではあるな」
スティームの疑問は解らなくもない。
実際に大量の木々が切断、もしくは潰された痕跡はなく、山火事が起きたという目撃情報もない。
(木竜の弱点は当然、火。素材を気にせず倒すつもりなら炎系の攻撃で攻めるのが一番だが……そんな事をすれば、一発で山火事になる)
木竜に挑むことは法律で禁止されてなどはいないものの、暗黙の了解的な雰囲気あり、誰であっても挑もうとしない。
仮に木竜の怒りを買うような結果になれば……生き残ったとしても、今度は人間から殺されてしまう。
(いや、でもな……倒して解体して撤収……それ以外で木竜をサンディラの樹海から消すことなんてできるのか?)
普通に考えれば……あり得ない。
そもそも倒す以外に姿を消す選択肢が中々思い浮かばない。
「…………転移系のマジックアイテムを使用したってことか?」
「可能性の一つとして、あり得るんじゃないかなと思って」
「絶対にあり得ないとは言えないな。って事は、サンディラの樹海周辺の街を……もしくは、アルバース王国に嫌がらせしたい連中の仕業という可能性がありそうだな」
第三者が聞けば鼻で笑い飛ばしそうな会話であっても、パーティーメンバーであるスティームにとっては……全く笑えない可能性であり、否定も出来ない。
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