五百四十九話 ナイスなアシスト
「ビーストテイマーの頭領は、その二体を従えていました。頭領とマウンテングリズリーは自分が、スティームが一人で討伐しました」
「そ、そうでしたか……も、申し訳ありません。十分に情報を伝えていられなかったようで」
「仕方ありませんよ。最後の誰かが戦ってから随分と時間が空いていたようですし」
頭領だからといって、必ず戦闘に参加する訳ではない。
ホワイトタイガーに関しては商人の護衛者などとは全く関係無いタイミングで遭遇し、テイムに成功した。
諸々の事情を考えれば、冒険者ギルドがホワイトタイガーまで従魔としてテイムしていたことを知らなかったのも無理はない。
「こちらが懸賞金と報酬金になります」
「どうも」
大金を受け取ると、アラッドは速足でギルドから出て行った。
そして予約した宿に申し訳ないと頭を下げ、チップを払い……そのまま街から出た。
「まっ、しょうがないよね」
スティームは何故一日ぐらいゆっくりしていかず、直ぐに街から出たのかと質問はしなかった。
(この前みたいな事があったのを考えると、ゆっくり休めないのは仕方ないよね)
アラッドと同じく、スティームの脳内にクソイケメン優男先輩こと、エレムとの一件が浮かんでいた。
「悪いな、俺の判断でゆっくり休めなくて」
「直ぐに戻るのは、僕も賛成だよ。アラッドが盗賊団討伐で得られたであろう報酬を自腹で払ったけど、多分半分ぐらいの人たちが納得してないだろうからね」
アラッドたちの行動に納得してない者がいる。
そんな者たちと二人が出会えば……どうなるかは目に見えている。
(別に喧嘩したい訳じゃない……って伝えたとしても、俺とスティームが貴族の令息ってのを考えると、討伐隊の人たちは誰一人として納得しないだろうな)
二人が屋敷に到着するころには、既に知らせを受けた討伐隊たちが怒り心頭でギルドに関し、元冒険者であるギルドマスターに詰め寄っていた。
「安心したまえ。彼は自分たちが先に盗賊団を討伐してしまった時の為にと、君たちが盗賊団を倒せたときの為にと報酬を用意してくれた」
「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」
代表としてギルドマスターとの話し合いに参加した冒険者たちは、その金額に驚きを隠せなかった。
「君たちが色々と言いたい事は解る。しかしだな……彼は、貴族であるにもかかわらず、こうして君たちの為に自腹で報酬を用意したのだ。この行動は、君たちが思い浮かべるクソ貴族の行動と一致するのか?」
それを言われては、何も言い返す言葉が浮かばない。
こうしてアラッドの太っ腹な行動と、ギルドマスターの適切な対処があり、討伐隊として参加した冒険者たちの怒りは不発といった形でなんとかなった。
「はっはっは!! ナイスな機転ですね。俺が討伐隊として参加してたら、絶対にブチ切れてましたよ」
実家に帰還後、どういった日帰り度になったのか話すと、元冒険者の奴隷が盛大に笑った。
「ふむ……怒る気持ちは解るが、そこまで激怒することなのか?」
「甘いな~、ガルシア。まっ、アラッド様は自腹で自分たちが盗賊団を討伐してしまった時の補填までしてるんだから、そこまで怒ることはないだろって言いたい気持ちは解るが、そんな簡単な話じゃねぇんだよ」
男はガルシアの考えに、チッチッチと音を鳴らしながら解説を始めた。
「確かに命を懸けた戦いをせずにそれなりにまとまった金が手に入るのはありがたい。けどな、その金が定期的に手に入る訳じゃない。アラッド様とスティーム様が討伐した盗賊団は、本当に討伐することが出来れば大きな功績になっただろうな」
Bランクモンスターを二体も従える盗賊団の討伐に成功すれば、集団による討伐であったとしても、参加者にとって大きな功績になるのは間違いなかった。
「聞いた限り、ぶっちゃけ……討伐隊が倒された可能性の方が高そうだが、それでも討伐する事が出来れば大金が手に入るだけじゃなく、次の昇格試験に参加出来る大きな加点になる」
「昇格までの道のりが短くなるという事か」
「そんな感じだ。んで、昇格すれば受けられる依頼の幅が上がり、報酬として受け取れる金額が上がる」
「なるほど…………それほど大きなチャンスを潰されたとなれば、怒るのも当然か」
「ガチの喧嘩まで待ったなしだぜ。まっ、お二人も冒険者な訳だから、あんまりとやかく騒げば逆に討伐に参加しようとしてた連中の格が下がるってもんだから、頭が回る奴なら大人しくするかもな」
詳しく説明した彼は、自分で騒がない方がメリットがあると口にはするが、先程発言した通り我慢出来る自信はない。
「その人達に同情はしますが、盗賊団の討伐に予約制などないことを考えると、自分たちが直ぐに動ける強さがなかったのだと、悔いるしかないでしょう」
エリナの言葉に……元冒険者の男は小さな怒りすら抱くことはなかった。
何故なら……まるで時間を惜しむかのように幼い頃から鍛錬と実戦を何度も何度も何度も繰り返してきているのが主人だからこそ、深く納得出来てしまう。
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