五百十七話 今回は、違う

「スティーム、少しの間回復に専念しといてくれ」


「……解った」


どういった目的で自分たちの目の前に現れたのか解らない。

尋ねたところで、雷獣は人の言葉を話せないので、どちらにせよ答えは知りえない。


「…………」


無言のまま、雷獣はニヤッと笑みを浮かべた。


(来る!!!!)


アラッドは即座に狂化を発動し、渦雷を抜剣。


雷獣の爪撃を防御、受け流すのではなく、全力で回避。


(この……なんて速さだっ!!!!)


タイプが違うため当然と言えば当然だが、ドラゴンゾンビよりもスピードは上。

アラッドも速さには自信があるが、今は攻防に興じるのは得策ではないと判断し、渦雷の性能を利用してスピードアップ。


「ガルルゥアアアアッ!!!!!」


「キィィィィアアアアアッ!!!!!」


クロとファルもそれぞれ後退しているスティームの位置を気遣いながら、敵の意識がスティームやアラッドだけに向かない様に動く。


「ジェェエエエアアアアッ!!!!」


三対一という状況でありながら、雷獣はアラッドが戦闘中に浮かべる笑みと同じ笑みを浮かべ、嬉々とした表情で激闘に興じる。


(こんの獣、イカれてるだろッ!!)


モンスターもお前には言われたくないと返したくなる。


とはいえ、やはり超年齢不相応な戦闘力を持つ冒険者とBランク、Aランクのモンスターが囲んで戦えば、いずれかの攻撃は当たる。


しかしその身軽さと反応速度の速さから、アラッドたちが放つ攻撃はどれもクリーンヒットならず。


「ガルルルルルウウゥ……」


そんな中……クロは冷静に体感した雷獣の情報を整理。

そしてなんと、同じ笑みを浮かべた。


「ッ……キィエエエエエエエエエエッ!!!!!」


超強敵を相手に、最近仲間と言える存在になった……自分より何歩も先に進んでいる者が、不敵な笑みを浮かべた。


ここで遠距離だけの攻撃に徹してるようでは、いつまでたっても追いつくことは出来ない。

強い危機感を感じたファルは咆哮を上げ、強い覚悟を持って接近。


(ったくお前ら……頼もし過ぎるだろ!!!!)


雷獣の総合的な戦闘力の高さに驚いている自分とは違い、相棒は自分が本気で攻めても問題無さそうな相手の登場に歓喜。


相棒の友人となりつつある仲間も闘志も燃やし、得意分野ではない接近戦へ自ら身を投じた。


そんな頼もしい仲間たちの様子を見せられては……色々と飛び火するというもの。


(ちょっとだけ、修正しないとな!!)


予想に反してファルが直接翼や爪を使って攻撃し始めたため、全力でぶった斬りたい気持ちを抑え、雷獣がしたい動きをさせないという……されて嫌であろう攻撃を全力で行う。


(あれか、この前俺と戦ったスティームと同じぐらい、集中してるって事か!!??)


Aランクモンスターであるクロが本気を出すとなると……そう簡単に避けられない攻撃がどんどん飛んでくる。


にも拘わらず、そこそこ大きいダメージはクロが二回、アラッドが二回、ファルが一度。

それだけでも雷獣の体力をそれなりに削れて入るが、パフォーマンスは落ちるどころか寧ろ向上している。


アラッドも渦雷の効果で頑張って止まらず走り続けている為、スピードだけはずっと上昇中ではあるが、中々遠距離攻撃で完全に雷獣の動きを止められない。


(ッ、戻ってこれたか)


まだ狂化には余裕があり、自身の狂気をコントロール出来ている。

しかしこの戦いは……早く終わらせることが出来るに越したことはない。


(とはいえ、スティームが参加出来る時間は、もって五秒……はダメだな!! 三秒から四秒だ!!!)


なんとなく……今日は自分が主役ではない。

そんな予感があった。


主役待つものではなく奪うもの?

確かにそういった考えは間違ってはおらず、アラッドも同意する部分はある。


しかし……その主役が自分の友人ともなれば、同時に輝く瞬間が見てみたいとも思うってしまう。


とはいえ、今完全に自身の攻撃に集中しているクロとファルはスティームの復活に気付いておらず、雷獣ももう一人いた人間が割って入ってこれるとは持っておらず、一人と二体に意識を割いていた。


(道は、俺がつくれば、良いッ!!!!!!!)


クロとファルが重ならない……ほんの数瞬の隙間を縫い、上段から思いっきり渦雷を振り下ろした。


「ぬぅううんんんッ!!!!!!」


「ッ!!!!!」


放たれた斬撃刃は……風雷の一閃。

雷だけであればまだしも、あれを食らってはならないと本能が告げた。


その結果、横から迫るファルの爪撃を躱しながら包囲網から脱出。


二体の隙間縫う攻撃とは、言い換えれば避けようがないタイミングでの攻撃であったにもかかわらず、雷獣の集中力がほぼ不可能という現実を打ち破り、追撃すら体を捻って回避。


そこまでは良かった。

予見、反応、回避技術、全てが最高に重なり合った回避……だが、どれだけ反応が早くて動きが読めていたとしても、動けない瞬間というものがある。


「疾ッ!!!!!!!!」


チャンピオンクラスのプロボクサーがその攻撃を食らう前提でリングに上がる攻撃……ジャブに似た一撃が雷獣の体を斬り裂いた。

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