五百十六話 過去の会話を利用する
「…………ッ」
「その反応、俺たちが観てたことに気付いてたっぽいな」
「みたいだね」
当然と言えば当然ながら、アラッドたちがこのチャンスを見逃すわけがない。
卑怯? アラッドはこの判断を全く悪いと思っていない。
寧ろここでエレムの考えに義理立てし、雷獣を見逃す方が色々とアウトな選択。
「……アラッド、僕が戦るよ」
「それはスティームがメインでってことか?」
「うん、そういう事」
「…………解った。死ぬなよ」
「当然」
攻撃するタイミングはいくらでもあったが、雷獣は動けなかった。
Aランククラスまで成長したが、正確にはまだAランクの領域に足を踏み入れた段階。
エレムが放った渾身の一撃は確かに深手を負わせていたため、目の前の連中から逃げられる確率はほぼゼロに等しいことは本能が理解していた。
「すぅーーー、はぁーーーーー……」
「………………」
片方の人間が一歩前に出てきたが、もう一人の人間と巨狼に大鷲からも戦意が漂っている為、誰に集中して良いか解らない。
「…………ッ!!!!!!」
「ジェエエエアアアアアッ!!!!」
最初に動いたのは……集中力を限りなくベストパフォーマンスを出したあの戦いと同レベルまで引き上げ、赤雷を纏ったスティーム。
元から雷獣に逃げるつもりなどなかったが、アラッドとクロ、ファルは即座に逃がさない包囲網を展開。
「ッ……ジェ、ァ」
「…………はぁ~~~~~。万全の状態だったら、ここまで上手く出来なかっただろうね」
一直線に駆け出し、真正面から攻撃を叩きこむと見せかけ、綺麗なスライディングで雷獣の爪撃を回避し、今は手元にない双剣に変わって赤雷を纏った手刀で雷獣を背後から斬り裂いた。
エレムの時の様に完全に切断出来ずにまだ息があるという状態ではなく、完全に心臓は切断され、仮に再生のスキルを持っていたとしても修復に非常に時間がかかる……もしくは再生不可能な状態。
「回収回収っと。お疲れ様、スティーム」
「いや、うん……本当に今回なんて数秒しか動いてないのに、凄い疲れた」
赤雷の使用を五秒以内に留めてあるため、反動で動けないということはない。
だが、それなりに消耗する技であり、深手を負っていたとはいえ、雷獣の圧は確実にスティームの精神力を削っていた。
「とにかく、これで雷獣の素材は全て俺たちが使いたい様に使えるな」
「……ねぇ、これはその……ちゃんとギルドに伝えるんだよね」
「前回雷獣が逃げたBランク冒険者たちを負わずに去ったことを考えると、今回も同じ展開になって立ち去って……完全にこの辺り周辺から姿を消したって思えなくもないけど……さすがに報告しておかないと、後々面倒なことに発展しそうだろ」
「だよね~~~~」
嘘は隠した方が後々面倒なことになる。
バレる時はバレるため、アラッドは嘘付く……何も知らない振りをするのは得策ではないと判断した。
「でもさ、絶対に色々と言われるよ」
「そりゃそうだろうな。でも、あのクソイケメン優男先輩は直ぐに別の街に行ったりしないだろ。多くの同業者たちがいる前でその人と以前の会話をメインにして説明すれば、後は俺たちがどうこうしなくても、クソイケメン優男先輩が何とかしてくれるはずだ」
「…………あぁ~~、なるほどなるほど。確かにそうなりそうだけど……やっぱりさ、アラッドって人生経験豊富な四十代だったりする?」
「いつも言ってるが、まだまだ人生これからのピチピチな十代だよ」
アラッドの前世も含めて、その言葉に嘘はない。
全く嘘ではないのだが、何度でもスティームが同じことを考えてしまうのも無理はなかった。
「とりあえず、今すぐ戻るのはあれだか、ら…………おいおい、マジか!!!! 下がれ、スティーム!!!!!」
「ッ!!!???」
正確に何が起ころうとしているのかは解らないが、それでも本能が友人の言葉に従い、即座にその場から離れた。
次の瞬間、先程までアラッドたちがいた場所に……雷獣がいた。
「ジェエエアアアァ……」
(さっきまでクソイケメン優男先輩たちが戦ってた個体の兄弟か? でも、体は一回り……いや、二回り分は大きいな……まさか、親個体、なのか?)
アラッドの予想は正解であり、遥か離れた場所から自身の子と人間が戦っている様子を観察し、最後にスティームの手刀によって殺される場面も見ていた。
(こいつは……もしかして、自分の子供? が殺されたことに対して、特に何も思っていないのか?)
一般的な子を持つ親であればあり得ない話だが、人とモンスターではそれなりに異なる場合が多い。
今頃地獄に落ちているであろうストールは親であるボレアスから蔑まれているかもしれない。
自分で生んだ子供であっても駒の様に扱う個体も多い。
(クソ、あんまり何を考えてるのか読めないな。しかし……超迷うな)
視れば解る。
先程までエレムたちが戦っていたAランクの領域に足を踏み入れたばかりではなく、完全にAランクモンスターと化し、自身の力を十全に扱える個体。
そんなモンスターの素材……欲しくない、わけがなかった。
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