五百十八話 本気で驚いた
「ッ!!!」
赤雷を纏った状態で拳を放ったスティームは即座に雷獣から距離を取った。
体を大きく抉ったものの、心臓を貫いた訳ではない。
実際、まだ二人と二体の内誰か一人でも殺そうと動いたが……スティームが抉った部分から出血が止まらず、その場に倒れた。
「ッ……ふぅ、どうやら倒したみたい、だな」
最速で近づいたアラッドは雷獣の死体を即座に回収し、狂化を解除。
亜空間の中に生きてる生物は入れられないため、確実に雷獣を倒せたのだという確信を持てる。
「ナイスパンチだったな、スティーム」
「あ、ありがとう……でも、美味しいところ、貰ったって、感じだけど、ね」
「まだまだこれから、だろ」
「……そうだね」
「つか、超疲れたな……当たり前だけど、本当に強かった」
結果として、誰も大きな怪我を負うことなくAランククラスの力を手に入れた雷獣を討伐することに成功。
アラッドとスティームはぐったりと疲れており、最後までやや無理矢理テンションを上げて戦っていたファルは……今になって疲れ、恐怖が戻ったため二人と同じぐったりとした状態。
そんな中、唯一クロだけが満足気な表情を浮かべた。
「ったく、嬉しそうな顔しやがって」
「ワフゥ~~~~」
主人にモフ毛を押し付けながら嬉しげに喉を鳴らすクロ。
「本当に、Aランクのモンスターに勝ったんだね」
「そうだな。俺としてはちょっと一杯一杯だったが、それでも間違いなく俺たちはAランクモンスターに勝った」
「……ねぇ、アラッド。ドラゴンゾンビと今回戦った雷獣、どっちの方が強かった?」
「雷獣だな」
「そ、即答だね」
当然比べたくなる内容だが、アラッドの中では最初から答えは決まっていた。
「雷獣はステータス的には俺と似た様なタイプだ。素早さがメインの武器だが……反応の速さに関しては、俺より上だった」
「そう、かな。離れた場所からアラッドの戦いっぷりも見てたけど、反応の速さでは負けてなかった気がするけど」
「それはそうだろうな。向こうは一体で、こっちは二体と一体だ。意識しなければならない数が増えれば、おのずと少し反応は送れる。その状態で五、六回? それぐらいしか俺たちの攻撃はクリーンヒットしなかったんだ」
「ッ、なるほど。それを考えると……そうだね。反応速度はアラッドより上だね」
「悔しい事にな。後、攻撃力……鋭さ? その点に関しては俺とほぼ同じだ。というか、スピードに関しても本当に渦雷がなかったら危なかった…………俺もまだまだってことだな」
同世代の戦闘者たちが聞けば「お前がまだまだなら、俺たちは何なんだよ!!」とブチ切れ待ったなしであろう言葉を零すアラッド。
現に、スティームは今回の戦闘内容を振り返りながら……自分の方こそもっと頑張らなければんという闘志を燃やしていた。
「その気持ちは解らなくもないよ。でも、アラッドが今回の戦闘でそういった感想を持つのは、ちょっと予想外だったな」
「そうか? まぁ、前回ドラゴンゾンビに勝ったってのを知ってれば、そう思うか……正直な、狂化をつかった状態だったのに、雷獣の強さや迫力に驚いたんだよ」
「僕も驚いてたよ」
「だろうな。でもな、狂化を使った状態だと、割とそういう感覚がマヒするんだよ」
狂気を解放した状態という事もあり、相手がどれだけ凄いパフォーマンスを行ったとしても、だから何なんだと前のめりに攻める。
「トロールの亜種を倒した時は……そういう感覚がなかったから、一切驚かなかったんだろうな。フローレンスと戦った時は……最後の最後ぐらいだな。本気で驚いたのは」
トロールもフローレンスも戦闘力は確かに雷獣よりも下ではあるが、当時のアラッドからすれば強敵……もしくは超強敵であることに変わりはない。
そういった敵と戦った時でさえも、常時恐ろしさを感じることはなかった。
(スピード、攻撃が当たる的の大きさとか色々と条件はあるが……俺にとっては、ドラゴンゾンビよりも雷獣の方が強かった……今度は、一人で殺り合いたいな)
決してバカなのではない。
少々頭はイカれてるかもしれないが、強くなる為に……次の領域に踏み込むことを考えれば、決して間違った考えではない。
「……でも、とにもかくにも僕たちは親雷獣に勝ったんだ。それを喜ぼうよ」
「ふふ、それもそうだったな……って、スティーム!! お前、その手……」
「ん? 手? ……いだだだだだだっ!!!???」
スティームは確かに十八歳という年齢の枠では、トップレベルの実力を持っている。
未来のAランク冒険者候補であるのは間違いないのだが……それでもそれは未来の話。
アラッドの様に本格的に体術を鍛えていないスティームが赤雷を纏い、強化スキルを使用しているとはいえ、雷獣レベルのモンスターに拳をぶつければ……砕けてしまうのも致し方なし。
アドレナリンがどばどば状態だったので直ぐに痛みには気付かなかったが、アラッドにバキバキに折れて血が流れているのを指摘されたことで、急激に痛みが押し寄せた。
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