五百八話 その成長速度は如何に?
最後の最後に前回の大会で手に入れた名槍を取り出し、本職のランサー顔負けの腕前で双首を斬り落とし、見事勝利を勝ち取った。
(そろそろこの街から離れる訳だけど……うん、この感覚は本当に悪くないな)
激闘に勝利し、大歓声を浴びる。
俗な感覚ではあるものの、アラッドは再度これはこれで悪くないと思った。
そして試合終了後、パーティーメンバーであるスティームと合流後……闘技場の持ち主であり、今回の試合をセッティングした主催者の元へ案内された。
アラッドを試合に出すことが出来たのは偶々顔を合わせた職員のお陰であるが、対価として戦闘力が高い雷属性のモンスターの情報を提供しなければならない。
鬼才がこれまで打ち立ててきた功績や、彼の立場を考えると……下手な情報を渡すわけがなく、主催者もその情報が本物なのか……偽物だった場合、代わりになる本物の情報はないかと探していた。
「お疲れ様です、アラッド様。私も観戦していましたが、いやはや……まさか狂化を使わずに倒されてしまうとは」
「ありがとうございます。愛剣はこの前の戦いで砕けてしまいましたけど、代わりの名槍があったんで、使わずに済みました。それと、今は一介の冒険者なんで、様付けなどしなくて大丈夫です」
「そ、そうですか」
噂通り、貴族としての云々かんぬんを気にしない……良い人物ではある。
ただ……先日、パーシブル家の長男であるギーラスが風竜ストールを倒せたのは、アラッドの一助があったからこそとも言われている。
本人から適当に呼んでくれて構わないと言われても、はいそうですかと簡単には頷けないのが現実だった。
「では……アラッドさん、まずはこちらが試合の報酬です」
「どうも」
袋の中には金貨がぎっしりと入っている。
アラッドの強さは先日のトーナメントで多くの観衆に証明されたが、それでも戦う相手が狂暴なBランクモンスターと伝えられていたため、割とオッズは均衡していた。
「それでは、今回うちの試合に出場していただいた対価をお伝えします」
主催者は闘技場の職員が持っていた情報より……更に上の情報だった。
「雷、獣…………本当に、いるんですか」
「Bランクの冒険者が相対したそうですが、あと一歩のところで敗退を余儀なくされたそうです。体の大きさから、まだ子供であると確認されています」
雷獣……雷属性のモンスターを総称して雷獣と呼ぶことがあるが、勿論今回はその雷獣ではない。
日本の妖怪、鵺に近いモンスターが雷獣と呼ばれており、子供であってもその強さはBランク上位の強さを持つ。
成体になれば当然のことながら、戦闘力はAランククラス。
滅多に現れないモンスターであるため、素材の価値は計り知れない、が……仮に発見出来たとしても、非常に討伐が困難。
「……最寄りの街はどこですか」
「イスバーダンです」
「イスバーダン、ですか……その情報は、信じられる内容なんですよね」
「はい、勿論……確かな筋からの情報です」
アラッドの立場、実力を知っているからこそ、下手な嘘など付ける筈がない。
「…………解りました。信じましょう。情報提供、ありがとうございます」
「こちらこそ、我が闘技場に参加していただき、誠に感謝しています。機会があれば、また出場して頂きたいと願っています」
「幸運に巡り合えたのであれば、是非ともリングの上に立ちましょう」
今日みたいな相手が用意されるのであれば、またリングの上に立つのもやぶさかではない。
「たは~~~~~……ったく、あれが本当に十五の子供が放つ圧かよ」
これまで何人も闘技者、冒険者や騎士たちと顔合わせをしてきた。
強者である戦闘者たちと比べて、アラッドの圧は間違いなくトップクラスに入り込むほど濃密なものだった。
そんなアラッドは雷獣の目撃、戦闘情報があった最寄りの街がイスバーダンだと解かると、その日の内にスティームと共にレドルスを出発した。
(ちょっと急だとは思ったけど、それだけ遠かったら納得ではあるね)
アルバス王国の地理については全く詳しくないスティーム。
だが、有名どころの街であればある程度頭に入っているアラッドからすれば、早く向かわなければという思いが強い。
レドルスからイスバーダンまでの距離は遠く、普通に歩いて向かっていては他の高ランク冒険者たちが到着し、先に討伐してしまうかもしれない。
距離の遠さは伝達の遅さに比例する為、既に高ランク冒険者たちが到着してる可能性もある。
それでもアラッドにはクロが、スティームにはファルがいるため、徒歩馬車の移動と比べればずっと早い。
「このまま行けば、後どれぐらいで着くかな」
「夕方前には付くだろ。クロとファルがいなかったら絶対に無理だけどな」
アラッドが何となく自分たちを褒めたと感じ取り、得意げな表情になるクロとファル。
現在野営で飯を食べながら腹を満たしているが、二人の移動速度があればこれぐらいの休憩時間は大した問題ではない。
「……ふと思ったんだけどさ、雷獣の成長速度って……どのくらいなんだろ」
「あぁ~~、そういえば俺もそこまで詳しくは知らないな」
そもそも情報が多くないため、知ろうとしても知れないのが現状。
もしかしたら……という可能性を感じつつも、二人の心には不安という感情が一切なかった。
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