五百九話 強力な二枚のカード
「ちょっと、暑いね」
「ここら辺はそういう気候らしいからな」
クロとファルが頑張ったお陰で、あっという間にイスバーダンへ到着。
「とりあえず今日は飯食って汗を流して寝よう」
従魔たちに美味い料理を食べさせてから就寝。
翌日から本格的に雷獣について調べ始める。
「あの、お二人も雷獣のことを調べているのですか?」
「はい、そうです」
冒険者ギルド内で声を掛けてきた人物は……ギルドの受付嬢。
既にアラッドという侯爵家の三男が冒険者になったという情報は広まっており、その実力も討伐実績と共に広まっていた。
そして冒険者ギルドの職員であれば、最近アラッドが他国の冒険者とパーティーを組んで共に行動していることを知っている。
「この前の戦いで二人とも武器が壊れたんで、雷獣の素材なら特にこいつの武器にピッタリだと思って」
「ッ!!!???」
当然のことながら……現在アラッドがいる場所へギルドの中。
当たり前だが、ギルド内には二人以外にも冒険者たちがいる。
そんな中でアラッドは討伐することが前提の話をした。
「そ、そそそそうでしたか」
多くの冒険者たちの視線がそこに集中する為、まだ一年目の美女職員はぷるぷると震えながらも討伐に繋がるかもしれない仕事を進める。
「ぎ、ギルドとしては一つでも戦力が欲しいので、現在集まっている情報をお伝えしたいと思っています」
「良いんですか? ありがとうございます」
「……い、いえ。仕事ですので」
大胆な発言はさておき、侯爵家の三男で顔がイケメン寄りの怖い顔系なのに、非常に礼儀正しい態度。
そのギャップに少々食らいながらも、受付嬢は二人を個室へと案内。
「…………」
「あの野郎、ケイトちゃんと楽しげに話しやがって」
「ルーキーが彼女と会話しようなんて、十年早いんだよ!!!」
彼等の嫉妬に関しては全くアラッドは悪くなく、寧ろ中々理不尽な不満しか零さないベテラン達。
そんな彼らを無視して個室へ通された二人。
「それでは説明しますね」
ケイトはギルドが今までに得ている雷獣の情報、どういった被害が出ているかを細かく伝えた。
「その、えっと……そちらの冒険者さんはCランク、で合っていますでしょうか」
「えぇ、そうです」
Cランクは冒険者全体で見れば優秀な人材ではあるが、一般的に考えて雷獣の討伐には戦力的に似合わない。
だが、ケイトが何かを言う前にアラッドが口を開いた。
「ケイトさん、こいつは俺と同じ、Cランクです」
「同じ…………あっ!! そ、そうでしたか。大変失礼しました!!!」
「いえいえ」
アラッドと同じCランク。
つまり……普通のCランク冒険者ではない。
そう言いたいアラッドの考えを受付嬢歴一年未満ではあるが、上手く汲み取ることに成功。
「それでですね、あの……その、先程の言葉を直訳するなら、アラッドさんとスティームさんは……お二人だけで、雷獣に挑むということですか?」
「あぁ~~~…………はい。そうなりますね」
言い切った。
今度は特に言葉を濁すことなく、自身の考えを堂々と言い切った。
(え、えぇ~~~~~~!!! ど、どうしましょう!!!???)
雷獣は既にBランクの冒険者たちに深手を負わせており、発見された時期を考えれば……更に成長してる可能性は大いにある。
なのでイスバーダンを拠点にしている冒険者たちに加えて、他の街から高ランクの冒険者を呼んでいる最中。
成長すればAランクの強さを有する超強敵になるため、ギルドとしても実力者を多数集めて討伐したいと考えている。
「あの、他の冒険者と協力してという方法では……ダメ、ですか?」
「……ギルドの方にも色々と事情があるのは解っています。でも、他の冒険者と組んで戦えば、雷獣の素材は分配という形になりますよね」
「そ、そうなってしまいますね」
「それはちょっと困るので、俺たちだけで倒したいですね」
「ッ!!?? そ、そうですか……」
正々堂々とした顔で言われては、受付嬢歴一年以下の受付嬢では返す言葉が出てこない。
「それに、スティームの従魔であるファルはBランクで、俺の従魔……相棒のクロはAランクです。それを考えれば、雷獣を倒しにいく面子として申し分ないと思うのですが」
「……そういえばそう、でしたね」
ケイトは完全に従魔の存在を忘れていた。
ぱっと見だけでもCランクの冒険者が二人だけではなく、BランクとAランクのモンスターが従魔として付いている。
Cランクの二人が危険という意見は変わりないが、勝率はグンっと上がるのは間違いない。
「そういうことなんで、俺たちは俺たちだけで雷獣を探して討伐します」
BランクとAランクの従魔がいる……その強力過ぎるカードを見せられては、例え新米受付嬢ではなくとも、二人を納得させられるだけの言葉を返す事など出来ない。
(……ルーキーやベテラン関係無しに視線を向けてくるが、今のところ下手に絡んでくる気配はないな……できれば、そのまま続いてくれると嬉しいな)
あまりにも調子に乗り過ぎていると思われるかもしれないその態度。
しかし、アラッドには既にそれらを黙らすことが出来る実力を実績を有していた。
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