五百七話 嘘だったら、解るよな

「そうだな……うちの闘技場で一回出てくれれば、情報を教えても良いぜ」


「ん~~~~~…………それはアルバス王国内の話で、あまりまだ広まっていない情報なのか?」


情報収集中、闘技場の関係者と遭遇。

その人物は自身が働いている闘技場に出てくれるならという条件を提示。


アラッドとしては別に闘技場の試合に参加するのは構わない。

だが、せっかく戦ったのに情報がスカだった場合、それはそれでキレる案件。


「おぅ、勿論だぜ」


「……解かった。その提案受けるよ」


「おっ、マジか!?」


「ただし」


念には念を重ね、目の前の人物がギリギリ失神してしまわない程度の圧を放つ。


「その情報が俺が提示した条件に合わなかった場合……解るよな」


「は、はい!! も、勿論です!!!」


人伝で得た情報ではあるが、それなりに信憑性が高い情報ではある。


だが、アラッドの圧にビビり散らかした闘技場関係者は期限までに全力で確証を得られるだけの情報収集を行った。


そしてアラッドは情報とは別に報酬を貰い、闘技場のリングへと上がった。


「へぇ~~~、あの話はマジだったんだな」


事前に話は聞かされていたが、実際にその眼で見るまでは半信半疑だった今日の対戦相手。


今回アラッドが闘技場で戦う相手は……人間ではなく、モンスター。

しかもそのモンスターはBランクのツインヘッドワイバーン。

通常のワイバーンと比べて身体能力が一回り高く、双頭から繰り出される灼熱のブレスは骨すら焼き溶かす。


「「キシャァァアアアアアアアアアアアッ!!!!」」


「はは、活きの良い奴だな……っしゃ!!!!!!」


実況の煽り、軽い解説が終わり……ツインヘッドワイバーンを繋いでいた鎖が解かれ、解放された双頭の翼竜は真っ先に目の前の人間を食らおうと動く。


(そう簡単に、食われる訳ないだろ!!!!)


目の前の敵はBランクのモンスター。

強敵を相手にアラッドが選んだ武器は……素手。


まさかの選択肢に観客たちはバカだろと思いながらも、自然と沸き立つ。


因みに素手で挑むという舐めプに近い攻撃方法を取っているが、既に狂化を除いた強化系スキルは使用しており、更に風を纏って各面を強化済み。

決してツインヘッドワイバーンを嘗めてはおらず、初っ端から全力で楽しもうとしている。


「「ッ!? ジャァアアアアッ!!!!」」


最初の一撃でツインヘッドワイバーンもスイッチが入り、完全に捕食ではなく討伐モードに入った。


目の前の人間はまず殺さないと食えない。

ドラゴンの本能がそう叫び、戦いは激しいものになる。


手数では二つの頭、両翼、そして両足と尾を持つツインヘッドワイバーンに分がある様に思えるが、いかんせん……標的が少々小さい。


人間体人間であればアラッドは決して小さくはないのだが、双頭の翼竜がアラッドを正確に攻撃しようとすれば、かなりの集中力が必要になる。


「ふんっ!!!!!」


「「シャっ!!!???」」


双頭から放つ超広範囲のブレスというチート武器があるが、アラッドの脚であれば……予備動作を見逃さなければ道という事はない。


だが、アラッドは敢えて広範囲ブレスに風の掌底を叩きこみ、自身に当たる範囲だけは確実に吹き飛ばした。


(ん~~……割と魔力の量はとんとんか、俺の方が少し上、か。ただ、今の状態だと攻撃力は向こうがやや上で……防御力は三周りぐらい向こうの方が上だな)


アラッドの拳打、蹴突は決してツインヘッドワイバーンにダメージを与えていない訳ではない。


それでも双頭の翼竜……ただのワイバーンとは違う。

内出血、骨にヒビは入れど中々骨を粉砕して内臓を破壊するには至らない。


(そういえば、出来れば主催者からなるべく盛り上がらせてくれって言われたな……)


既にアラッド対ツインヘッドワイバーンの戦いは非常に盛り上がっているが、このタイミングで主催者からの頼みを思い出し……ある得物を取り出した。


「お、おい!! あの槍は!!!!」


「俺観てたぞ! あれって、この前の大会で手に入れた……」


そう、アラッドが亜空間から取り出した得物はトーナメントの優勝者に与えられる雷属性の名槍、ファーロウグ・シャールド。


「こうして強敵相手に使うのは初めて、だな……とりあえず、適度に暴れようか」


「「ッ!!!!!」」


ファーロウグ・シャールドを手にした瞬間、討伐すべき獲物の危険度が跳ね上がる。


「「……シャァァアアアアアアアアアアアッ!!!!!」」


双頭の翼竜は目の前の人間を死ぬ気で殺さなければならない獲物、強敵と認識。


(良いね、まだまだ元気一杯だな!!!!!!)


ツインヘッドワイバーンは闘技場の運営側の判断により、先日の朝から本日まで一切餌を与えられていなかった。

その空腹感からくる飢えに加えて、死んでも殺すべきという意識の変化。


アラッドはまだ体験したことはないが……これが逆鱗状態のドラゴンなのかと思い、メイン武器ではない雷槍を振るいながらも、その表情から笑みが消えることはなかった。


そして数分後……最後の最後に双頭のブレスを一閃で突き破り、そのまま通過する際に両首の切断に成功。

アラッドはツインヘッドワイバーンを相手に、見事勝利をもぎ取った。

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