五百六話 それはそれ、これはこれ
「フローレンスのキャバリオンか……仮に、本当に造ることになったら、父さんやギーラス兄さん……国王陛下のキャバリオン同様、並みの素材では造れないな」
「こ、国王陛下にも造ってるんだね」
アルバス王国の国民ではないスティームだが、一国の王に自作の品を売ることが出来る……それがどれだけ名誉なことなのかは理解している。
「でも、そうなってくるとAランクモンスタークラスの素材が必要になってくるね」
「そうなんだよな~。それだけでも面倒なのに、あいつの力を百パーセント……百二十パーセント引き出すってことを考えたら、それだけじゃ足りない」
精霊と契約しているフローレンスの力を百二十パーセント引き出すのであれば、キャバリオンの製作に欠かせない素材がある。
「……アラッドって、フローレンスさんの事あまり好きじゃないんだよね」
「今でも嫌いではないって程度のレベルだけど……それがどうかしたか?」
「それぐらいの感情しか持ってない相手のキャバリオンでも、どうすれば力を引き出せるのか深く考えて造ろうとするんだね」
「別に嫌いって訳じゃないからな。そもそも嫌いなら例えどんなに大金を積まれても造らない。んで、依頼を受けるのであれば全力で集中して造る」
職人という立場に変われば、しっかりとそれはそれでこれはこれと別ける。
それがアラッドの魅力の一つとも言える。
「なるほど……やっぱり君はカッコ良いね」
「そういうんじゃない。ただ、俺の職人としての部分がそうさせてるだけだ。けど……あれを手に入れるには、まず
運が必要だからな」
「あれって言うと、もしかして精霊石のことかい?」
「それだ」
上級鉱石のミスリルと超上級鉱石のオリハルコンの功績に位置するレベルの鉱石、それが精霊石。
基本的にモンスターを倒して手に入れられる素材ではなく、特定の場所から採掘出来る鉱石でもない。
だが、光の精霊を契約しているキャバリオンを製作するとなれば、必ず必要な素材。
「とてつもなく値段が高いからね……って、アラッドの場合そこは問題無いんだっけ」
「ん? まぁ、そうだな。俺が買おうと思えば、別に買えはする」
多くのおもちゃを考え、特許を持っている為、今でも財産は増え続けている。
孤児院の子供たちや職員、マザーたちが快適に生活できるように惜しみなく金を使ってはいるが、それでも一月あたり増える額の方が多い。
「けど、俺の身内のキャバリオンじゃないんだ。ルリナ姉さんやガルア兄さんとかがちゃんとした額を払ってくれるなら、一部の超高額な素材ぐらいは出しても良いとは考えてるけどな」
「まぁ……そういう感じだよね。でもさ、それだったら別にアラッドが悩むことはないんじゃないかな」
「……それもそうだったな」
そもそも実際に戦争が起こるのかも怪しいところであるため、少なくとも今はフローレンスのキャバリオンについて考える必要はなかった。
「それに、フローレンスの家は公爵家なんでしょ。どう考えても将来有望な娘の為なら、投資は惜しまないんじゃかな」
「全然課金しそうだな…………そうなると、あれだな。今考えた方が良いのは俺らの武器についてだな」
「……あっ」
「おいおい、本気で忘れてたのかよ」
トーナメントの決勝でバチバチに戦ったことと、赤雷を纏った影響もあってアラッドの鋼鉄の剛剣・改だけではなく、スティームの雷属性の双剣も壊れた。
「いやぁ~、正直赤雷のことで頭が一杯だったからさ」
「それは解らなくもない……それで、どうするんだ? 新しい双剣を買うのか、それとも素材を集めて鍛冶師にオーダーメイドを頼むのか」
「そうだねぇ…………どうせなら、冒険者らしく自分で素材を集めて、腕の良い鍛冶師にオーダーメイドを頼みたいかな」
「ふふ、やっぱりそうだよな。俺も鋼鉄の剛剣・改を使った新しい得物を造ってもらうか」
「? アラッドには渦雷があるじゃないか」
確かに鋼鉄の剛剣・改はボッキリ折れてしまったが、アラッドにはまだエースの渦雷という進化する得物がある。
「あれは切り札だ。普段からほいほい使う様な武器じゃない」
「そんな事言ってたね。なら、アラッドはどんな素材が欲しいの?」
「俺か? 俺は……あんまり初期のコンセプト? は変えたくないから、硬度が高い鉱石……後はそういった感じのモンスターの鱗とか骨だな」
「なるほどね。因みには雷属性の素材」
「……俺も俺で出来れば良い武器にしたいからそれなりの素材が欲しいけど、スティームの場合は大前提として赤雷に耐えられて、尚且つ使い続けられる武器だよな」
「そうなるね」
サラッと口にするが、その要望が叶う武器を造るためには、それ相応の素材が必要になる。
アラッドがキャバリオン、天魔を造った際に使用したレベルの素材は絶対に必要。
「ってなると、まずは悪くないレベルの雷属性モンスターがどこにいるか……それを探すところから始めないとな」
「それじゃ、早速探し始めるか」
ランチを食べ終えた二人は本当にその日から目当ての情報収集を始めた。
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