四百九十二話 それぞれの感想
決勝戦ということもあり観客たちは大盛り上がり。
賭けのオッズからアラッドが優勢であるのは明らかだが、それでもスティームも一回戦、二回戦と並ではない戦闘者たちを倒し、決勝戦まで上がってきた。
加えて二つの試合で大きな怪我を負っていないことも評価され、ニ十歳以下の試合では最高の試合が見れると騒いでいる。
(この二人、同じパーティーのメンバー……なんだよな? なのに、なんで片方がこんなに戦意と殺気が全開なんだ??)
審判を務める男性は……正直なところ、二人の試合が非常に楽しみではある。
楽しみではあるのだが、何故スティームだけが前回、前々回の試合で対戦相手を殺すつもりで戦ってはダメだと伝えているのに、その気しかないのが理解出来ない。
(一回戦、二回戦を見た限り、そういった部分は冷静に判断を下せる青年だと思っていたんだが…………いや、決勝戦の相手がこの怪物であれば、そこまでしないと刃が皮膚に掠りもしない、そう考え……信用しているから、なのかもしれないな)
パーティーメンバーである対戦相手が強烈で純粋な戦意と殺意を向けられているにも関わらず、アラッドという冒険者……戦士は飄々と、嬉々とした表情を浮かべている。
仲間の反応を……ある意味楽しんでいる。
そう見て取れると感じ、審判は再度少年の恐ろしさを感じ取った。
(同じ歳頃の少年、青年がスティームの殺気を向けられれば、到底笑っていられないだろうな……ったく、結界が壊れないことを祈るばかりだ)
闘技場には、観客たちに選手たちの攻撃が飛んでも当たらない様に、結界が張られている。
基本的にその結界が、狙った攻撃でなければ破壊されることはない。
ただ、世の中に絶対はない。
アラッドは完全に化け物だが、その対戦相手であるスティームも将来化け物になる可能性を秘めている有望な戦闘者。
「二人とも、悔いが無いように戦ってくれ」
「あぁ」
「えぇ、勿論です」
「それでは……始めッ!!!!!!!!」
決勝戦のゴングが鳴り……一瞬だけ早くスティームの方が動いた
最初からアクセル全開の状態で双剣を振るい、友に勝ちにいく。
その動きを予想していたアラッドは慌てることなく鋼鉄の剛剣を用いて対処。
(やはり、私との戦いでは……本気ではなかったのか)
(何と言うか、俺との試合の時とは気迫というか必死さが段違いだね。まぁ、彼にあの顔をさせる実力がなかった俺が悪いんだけど……でも、やっぱりちょっと妬けるね)
決勝戦を観ていたレイピア使いの男はスティームの動きを見て、やはり自分との試合では必死さに駆られて武器を捨てたのではなかったと確信。
アバックも自分との試合と比べて、明らかに気迫……勝利に対する執念が違うと感じ取り、ほんの少し決勝戦の相手でスティームと戦っているアラッドに嫉妬していた。
(う、わぁ~~~……アラッドもヤバい奴なのは解ってたけど、あの速度……スティームって奴も、大概ヤバいな。こりゃアラッドが参加してなかったところで、あのお坊ちゃんが優勝出来てたどうか、怪しいもんだ)
(ッ……あの剣速、私の拳より速いか? 準決勝でアラッドが戦った騎士、もう一人の騎士にも完敗するイメージは湧かなかった。でも、あの冒険者……完敗はしなくても、良い一撃を叩きこめるか?)
アバックの実家に仕える老人に雇われていた騎士は少々苦笑いを浮かべながら観戦。
正直なところ、今回の大会で自分よりも確実に強いのはアラッドだけだと思っていたものの、決勝戦で正真正銘、本気になったスティームの動きを見て、直ぐにその考えは揺らいだ。
初戦でアラッドとぶつかったマッスル女子は何度も何度も脳内戦闘をイメージするが、全くスティームに勝ち切れるイメージが湧かない。
その悔し過ぎる事実に握りこぶしをつくるも……顔には一切不安や絶望などはなく、目の前の試合にギラついた視線を向けて観戦を続ける。
スティームはアラッドに勝つという意志だけが前のめりになり過ぎることはなく、冷静に合間合間に飛んでくるカウンターに対し、冷静に対処していた。
(集中力が、極限に高まってるからか……おそらく、あの槍使いの騎士との戦闘時と同じく、俺のカウンターが、線になって、見えてるのかも、しれないな!!!!)
アラッドの想像通り、スティームはぼんやりとではあるものの、カウンターがどの軌道で飛んでくるかが見えていた。
とはいえ、ぼんやりと見えているだけでなので、明確にどの攻撃が飛んでくるかまでは解らない。
それでも……今のスティームであれば、双剣や肘などを使って捌くことが出来る。
(ん~~~~~……こりゃ、纏わないとヤバいな)
アラッドよりスティームの方が三つ歳上ではあるが、実戦経験の豊富さと特殊な体質のお陰で、身体能力はスティームより優れてはいるものの……強化系スキルの発動だけではなく、雷を纏い更に強化。
下手な決着の付きかただけは避けたいアラッドは風を武器だけではなく全身に纏い、スピードアップ。
これによってアラッドの動きが格段に上がるも……スティームの表情に焦りが浮かぶことはなく、試合開始時と比べて殆ど変わっていなかった。
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