四百九十一話 意味がないたられば
「っシ!!!!!!」
二人の試合を観ていたアラッドは友の勝利が決まった瞬間、渾身のガッツポーズを浮かべていた。
勝者は次の試合で、決勝戦で戦う相手であるが……そんな事は関係無い。
寧ろそれを望んでいたからこそ、心の底から歓喜した。
(にしても、あの流れ……俺が最後の最後でフローレンスに向けた態度、雰囲気もあんな感じだったのかもな)
八刀の雷閃を背中に斬り刻んだ後、冷静に下がったスティームは明確に……ここから先は殺し合いだという意志を露わにした。
それは一種の脅迫とも取れる行動ではあるものの、戦いの場では特にルール違反ではない。
ただ……ここから先はブレーキが効かないと、丁寧に伝えただけだった。
(でも、あの爺さんがどうしても勝たせたかった? アバックって騎士も悪くはなかったな。最後の一閃はスティームの本能……野性が勝った? って感じだった。あそこで勝負を焦らず、どんと構えてぶつかり合いに出ていれば……結果はまた違ってたかもな)
たらればの話ではあるが、アラッドの考える様な展開になっていてもおかしくなかった。
だが、敗者であるアバックにその様な励ましの言葉を伝えたところで……傷口に塩を塗る結果になるだけである。
「よぅ、お疲れ。良い戦いだったな」
「ありがとう……いやぁ~~~、あそこで降参してくれて助かったよ」
手負いの獣が一番怖いという話がある。
冒険者になって数年、実家の騎士やルーキーの頃に先輩から聞いていた話をリアルで感じ取った経験がある為、心の底からあれ以上戦いが続かなくて良かったと思っている。
「そうか? あれ以上戦ったとしても、スティームが勝ってたと思うけどな」
「そう言ってくれると嬉しいよ。でも、本当に強かった……何と言うか、あの高速の突きが放たれる前に、線が見えたんだ」
「突きが通る線か?」
「うん。それが明確に見えたから、咄嗟にあの恐ろしい突きを躱すことが出来た」
最後の最後に放ったアバックの突きは、突きであって突きではない……と言えるほど恐ろしい一撃。
突きと突進が融合した強烈な弾丸。
だが……あまりにも解りやす過ぎた。
「……スティームが深く、冷静に見えていたからってのもあるが……唯一、さっきの試合でアバックの悪かった点は、あのタイミングであの突きを放ってしまった事だな」
「そうかもしれないね。僕としては有難かったけど」
迅雷一閃は大技と言っても過言ではない。
そのため、特別な感覚がない者であっても、薄っすらと通る線が見えてしまう。
スティームの体勢が大きく崩れていれば、絶好のシチュエーションではあったが、そのシチュエーションをつくるプロセスを怠ってしまった。
強いて上げれば、アバックの敗因はそこだった。
「まっ、何はともあれだ……これで、決勝戦でバチバチに戦れるな」
「……アラッド、始まる前に言っておくね」
「なんだ?」
「最初から、殺すつもりでいかせてもうよ。じゃないと……君に失礼だからね」
プライドが懸かった決勝戦かもしれない。
だとしても、パーティーメンバーである仲間にかける言葉なのか?
その答えは……アラッドの表情が表していた。
「ふふ、最高の殺し文句ってやつだな」
二人はそこで一旦別れ、決勝戦が始まるまで待機室で過ごした。
そして二人の勝敗に対する賭けなどが終わり、遂に決勝戦が始まる。
(同じトーナメントであっても、目的が違うとこうもワクワクするんだな)
以前参加した学生によるトーナメントが全く楽しくなかった訳ではないが、理由が理由だったこともあり、心の底から楽しんでいたかと尋ねられたら……即座にイエスとは答えられない。
だが、今回参加したトーナメントは思いのほか楽しみにしていたスティームとの試合以外の戦いも十分に楽しいと感じ、心の底から参加して良かったと思えていた。
(殺す気で挑む……死んでも勝つ。そして、彼の隣に立つ冒険者に相応しいと、証明する)
この大会に賭けがあることは知っている。
今回の試合のオッズに関しては……見に行かなくても解る。
それが、自分とアラッドとの力関係。
アラッドは自分の事を仲間だと、友だと思ってくれている。
その思いに嘘偽りがないと解っている。
だが……スティーム自身が本当に自分はアラッドの仲間なのだと、友だと胸を張って言えるかは別問題。
友達であるのに、無理してそこを求める必要はない?
確かに友達という関係だけであれば、今よりもっと強さを求める必要はない。
しかし、戦場で隣に立つ者として……このままではいられない。
まだアラッドと出会って一年も経っていない。そんな短期間で大きな差が埋まらないことぐらい解っている。
ただ、男には無理だと解っていても挑まなければならない壁がある。
(ったく…………最高に良い、純粋な戦意と殺意だ)
意図的に自身を鼓舞して湧き上がらせる戦意、無理矢理振り絞る殺意。
ただ目標へ向かうために、達成するために自然と湧き上がる戦意と殺意。
どちらが上という基準や決まりはない。
ただ、アラッドとしては後者の方がやや心地良かった。
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