四百七十三話 完全な上位互換
「よろしくお願いします」
「おぅ、よろしく」
今までの挑戦者たちとは違い、丁寧に挨拶をする挑戦者に少々驚きながらも応える。
(……この感じ、スティームに似ているか)
鑑定で中身は覗いていない。
しかし……これまで戦ってきた九人とは違う何かを感じる。
「アラッド、オルフェン。解っているとは思うが、クリーンな戦いを心掛けるように」
「はい」
「分かってます」
両者とも審判の言葉に答えるが、アラッドはおそらく言われた通りにはならないだろうと思っていた。
(前の九人みたいに、俺に対して殺気に近い感情はない……いや、心の奥底に秘めているだけか?)
いくら年齢不相応な実力を有しているアラッドであっても、読心術までは出来ない。
「それでは……始めぇええええええええッ!!!!!」
審判は十回戦の中で、一番気合の入った声で試合開始を宣言。
審判だけではなく観客、実況も非常に熱が入っている。
何故なら……アラッドに挑む挑戦者たちの中で、一番オルフェンが怪物に勝てる相手だと予想されている。
しかし、そんなジャイアントキリングを期待されているオルフェンは、試合開始直後に抜剣はするものの、今までの挑戦者の様に勢い良く駆け出すことはなかった。
これまでの試合は全て観ており、歳が近い者たちがどの様に転がされ、あしらわれたのか観てきた。
(……今更怯んだところで、仕方ないよね)
とはいえ、折角このような舞台で絶対強者である怪物と戦える機会を得た。
その好機を噛みしめ……オルフェンは初っ端から覚悟を決めて斬りかかった。
(対人の剣技であるものの……やけに死角を突いたり、体勢を崩そうとするテクニックが高いな)
相変わらず素手で戦うアラッドだが、その表情には……十連戦の中で、初めて感心の色が浮かんでいた。
これまで挑んできた挑戦者たちも頭が冷えていれば実行出来たかもしれないが、そもそも最初から頭がクールに働いている時点で、十人目の挑戦者であるオルフェンの評価は爆上がり中。
(暗殺とかが得意ならもっと違う動きになるんだが、どう見ても対面した相手の体勢を崩したりする技術が高い……もしかして、独学で戦い方を学んだタイプか?)
見た目は顔こそ悪くないのだが、黒髪は中途半端に伸びているボサボサヘアー。
師と呼べる人物がいれば、基本的に少しだけ身だしなみに注意しろと伝える。
だが、お世辞にもオルフェンは身だしなみに気を使っている様には見えない。
「その動き、どこで学んだ?」
「……実戦で、学んだんだよ」
対戦相手の問いに、静かに答える。
オルフェンは何かを隠すために適当に答えたのではなく、口にした言葉は紛れもない事実。
「そうか。良い動きだな」
「ッ!?」
今まであまり他人に褒められたことがなかった動き。
それを……貴族の令息が、正真正銘の強者が褒めてくれた。
その事実に、オルフェンの瞳は確かに揺れた。
「気に入った。剣を交えようか」
言葉通り、本当にオルフェン強さや動きを認めたアラッドは亜空間から愛剣、鋼鉄の剛剣・改を取り出し、抜剣。
『つ、ついに!! ついにアラッドがロングソードを抜剣んんんんんんッ!!!!!!!!』
戦いに詳しくない者たちであっても、これまでの戦いを観ていれば……それが何を意味するのか解る。
アラッドという絶対強者が、オルフェンという挑戦者の実力を認めた。
それを理解した観客たちのテンションは……文字通り大爆発。
対して、これまでアラッドに挑んで一度も抜剣させられなかった九人は、揃って苛立ちの表情を浮かべる。
攻撃方法が素手からロングソードに変わったことで、アラッドのリーチは大きく変化。
開始数十秒ほどはその変化に戸惑うものだが……オルフェンは自身の動きを褒められたことに驚きはしたものの、ロングソードを使い始めて変化した動くに戸惑うことはなかった。
(相手の体勢を崩す、死角を狙う技術に注目しがちだが、身体能力……腕力も中々あるな)
年齢はアラッドより少し上であり、スティームと殆ど変わらない。
年齢と実力を考えれば、十分将来有望な冒険者。
他の挑戦者たちも将来有望と言える若手たちではあるが、そんな中でもオルフェンは頭一つか二つ抜けていた。
(同年代との戦闘が楽しいと感じるのは、ここ最近ではスティームぐらいだったが、やっぱり世の中広いってことだな)
襲い来る斬撃などの攻撃に対してただ反応するのではなく、徐々に襲い来る攻撃に対しての予測が必要になってくる。
糸や攻撃魔法、狂化を使えばまた話は変わるが、アラッドはオルフェンをスティームと同じく、油断すれば恐ろしい存在だと認識。
「クソ、あの野郎……やっぱり、俺より火の扱いが上手ぇ」
オルフェンは途中からロングソードに火を纏い、攻撃力を強化。
ときおり良いタイミングで斬撃刃を放ち、纏う火の形を変えて牽制。
完全に茶髪青年の上位互換。
アラッドも鋼鉄の剛剣・改に風を纏って対抗。
「ッ!!!???」
そして激戦が加速してから数分後、斬撃を受け止めるという選択肢を取らされ、リングの端ギリギリまで飛ばされたオルフェン。
まだ余力はあるものの……そこでオルフェンの眼から闘志が消えた。
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