四百七十四話 ……やっぱり才能かな?

(あん? どういう事だ?)


対戦相手であるオルフェンの瞳から闘志が……熱が消えた。


パッと見た限り、戦闘続行が不可能なほどの怪我は負っていない。

魔力も底を尽いていないこともあり、何故闘志が消えたのか理解出来ない。


(……何かに、ビビってる様な感情が浮かんでるな)


読心術は使えない。

それでも、オルフェンが何かに怯えている気配を薄っすらと感じ取ったアラッド。


そこで戦闘中に感じていた違和感を解くために、鋼鉄の剛剣・改を地面に付き刺し、両手を広げた。


「何も恐れる必要はない。俺が、全て受け止めてやる」


「ッ!!!!」


アラッドの姿は……まるで弟分に胸を貸す兄弟子の相撲取り。


お前がどういった攻撃をしようと、どの様な姿になろうとも、俺が受け止めて……その上で倒してやる。

そう表情が語っていた。


(なんで……解かるんだ)


アラッドの予想は、見事的中していた。

その怯えは……アラッドという絶対強者に対する恐れではない。


それをさらけ出してしまった場合、また誰かを傷付けてしまうのではないかという恐れだった。


(…………そう、だな。俺みたいな存在が、気を使うような相手じゃない)


オルフェンという冒険者は、元々孤児だった。

両親の面影は解らず、当然祖父母がどういった存在なのかも知らない。


そんなオルフェンの祖父母の一人は……獣人族であった。

故に、四分の一程度ではあるものの、オルフェンの体には獣人族の血が流れている。


見た目には一切現れていない。

しかし……それは別の形でしっかりと受け継がれており、隔世遺伝とも言える状態でオルフェンの力の一部になっていた。


「すぅーーーーー…………ゥゥウウオオオオオオァアアアアアアアアッ!!!!!!!!」


それは、獣心の解放。

獣人族の中にはごく一部、まさに獣としての心を解放し、強力なパワーアップ方法を発動する者がいる。


これに関しては戦闘の才能云々よりも、本人の素質によって発言できるか否か分かれる……そう、結局は才能かもしれない。


「ッ!!!! 良い雄叫びじゃないかっ!!!!」


アラッドはすぐさま突き刺していた鋼鉄の剛剣・改を引き抜き、獣心を解放したオルフェンの猛撃に備える。


(ッ!!?? さっきまでの動きにより磨きが、かかって……というより、動きが、滑らかになってる、のか!?)


オルフェンの猛撃はまさに獣のそれ。

ところどころでロングソードを逆手に持つこともあり、空いている片方の手で爪撃を放つこともある。


「これを、躱すか!!!」


空中に飛んだオルフェンの攻撃を避け、アラッドも蹴りでカウンターを入れようとするが……なんと体を捻り、紙一重ではあったものの、空中回避に成功。


(体幹が圧倒的に、良くなってる!!! まるで、ネコ科モンスターの動き、だなっ!!!)


獣心を解放した際の影響は、当人の種によって変化する。


オルフェンの祖父が虎人族であったため、アラッドの考えは的中していた。


因みに未熟者が獣心を解放してしまうと、標的……もしくは周囲の人物がいなくなるまで、もしくは気を失うまで暴れ続ける。


アラッドの狂化はタイムリミットが来るまで性格が少々荒くなるものの、使用時の感覚に酔いしれることがなければ、自らの意志でオンオフが行える。


(というか……二つを纏えるのか。身体能力の上昇だけじゃなくて、技術力まで向上してないか!!??)


アラッドが聞いた話では、獣心を解放した際に得られる恩恵は主に身体能力の強化。

慣れた人物であれば、行動の際に人としての技術を上手く組み込める。


だが……現在オルフェンの様な火と風の魔力、両方を一つの武器に纏わせるほど技術力を向上させるなんて話は、一度も聞いたことがない。


『攻める攻める攻める攻めるぅううううううううううっ!!!!! その攻め、まさに獣の如く激し過ぎる攻め!!!! オルフェンは普段は大人しめの性格という情報があるのだが……現在の姿は、まさに獣そのものおおおおおおっ!!!!』


実況は全くオルフェンの動きを品がない、人がする様な動きじゃないと見下したりはしていない。


闘技場という戦場では、まさに強さこそが正義。

オルフェンの強さには全く卑怯な部分はない。


実況としては五番目の挑戦者であるガキ大将感がある青年こそ批判したいが、その試合に関しては審判が止めず……アラッドが何も抗議しなかったため、空気を読んだだけ。


そして闘技場では強さこそ正義……その感覚は観客たちも同じ。

対戦相手を嬲る様な力であればまた話は別だが、オルフェンの動きはまさに重厚な力を持つ獣が、己の全てを出して戦う必死さを感じさせる。


そんなオルフェンの猛る気迫に呼応するかのように、対戦相手であるアラッドの表情もだんだん獣染みてきた。


(良いぞ、本当に良いぞ!!! 最高だ、オルフェンッ!!!!!!)


アラッドにも狂化という身体能力を大幅に向上させる切り札があるが……敢えて使わない。

素の身体能力に加えて魔力と強化スキル……それらだけを使用し、勿論遠距離も使用しない。


非常に傲慢に思える選択を……アラッドはこの状況になっても、横綱相撲の姿勢を取り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る