四百六十二話 泡吹き、失神もの

「後、ドラゴンゾンビとか街に売ってたミスリル鉱石と、紅蓮石とか……あ、あとあれだ、黒いケルピーの素材とか使ったんだ」


「…………そ、そうなんだ、ね」


正直、泡を吹いて倒れそうになった。


メインの素材はストールであったとしても、キャバリオンという作品に対して、必ず技術料を払わなければならない。

それが錬金術師に対する礼儀。


アラッドはそのキャバリオンにストールの素材だけではなく、Bランクより一つ上のAランクモンスターの素材まで使用した。

加えて、ミスリル鉱石や紅蓮鉱石など……キャバリオンを制作するうえで鉱石というのは非常に重要。

そして何故か……聞くだけで嫌な予感がする、黒いケルビーの素材というワード。


(え、えっと……いったい、幾らになるんだ?)


思考が停止しそうになるが、必死で計算する。

そもそもギーラスの手持ちで用意されていた素材はストールのみ。

それ以外に使用された素材の金額、そして技術料金……やはり考えるだけで泡を吹きそうになる。


「ほい、乗ってみたよ。ギーラス兄さんにあげる物だから」


「……ん? あげる???」


「そう、ギーラス兄さん専用のキャバリオンなんだ。他に誰にあげるってのさ」


「…………いや、その……あれだよ。いったい幾らなのかってちょっと考えてて」


そんなギーラスの言葉に対し、不思議そうな顔をしながら答える。


「別にお金は取らないよ」


「ッ!!!??? い、いや……それはな、ちょっと……ほら、色々と駄目だろ」


「なんで? だって、これはギーラス兄さん専用のキャバリオンだし」


「いやいやいや、それは……うん、本当に嬉しいと思ってる。本音なんだけど、それだけ色々と素材が使われてるのに、タダってのは良くないだろ」


豪商、貴族の当主は自身の先輩にあたる騎士たちが順番待ちしている。

そして大金を払ってアラッドに造ってもらっていることを知らない兄ではない。


とはいえ、アラッドとしては天魔の制作最中、非常に楽しかった。

久しぶりにギーラスが本気で戦う姿を見れて、兄専用のキャバリオンのイメージが湧き上がり、手が止まらなかった。

なので、本当にギーラスから金を取るつもりは一ミリもない。


弟の純粋な目から「あぁ~~、アラッドは本気で言ってるんだな……」と、弟の優しさを有難く思う……しかし!! 流石に甘えすぎる訳にはいかない。


「解ったよ、アラッド。この天魔は……有難く貰うよ。でもね、俺もこう……色々と立場があるんだ。だから、本当に金を払わない訳にはいかないんだ」


亜空間からストール討伐の褒美として受け取った袋を取り出し、アラッドの前に突き出す。


「受け取ってくれ。じゃないと、俺もこの天魔を受け取ることが出来てない」


「…………解ったよ。ったく、ギーラス兄さんは頑固だな~」


同じく兄弟だからこそ、本当に自分が袋に入った大量の硬貨を受け取らないと、天魔を受け取ってくれないと解ってしまう。


「アラッドが豪快過ぎるだけだよ」


ギーラスとしては、ここ最近で大きな出費もないため、勲章と同じく貰った褒美の硬貨を全て弟に渡したところで、生活に困ることはない。


「それじゃ、早速試運転してみようかな」


学生時代、何度か実家に戻った時にパーシブル家のキャバリオンに何度か乗ったことがあるため、一応四つ脚で走るという動作は行える。


(っ……素材を聞いていたから解ったつもりでいたけど、これ……本当にとんでもないな)


まずは軽く走ってみよう、という予定を変更し、ゆっくり歩くことにした。


「ッ…………アラッド、また本当に凄いのを造ったね」


「ギーラス兄さん本人にそう言ってもらえるのは嬉しいですね。まっ、今回はイメージがしやすい分、素材の追加も行いやすかったんで」


じゃじゃ馬、という訳ではない。

しかし、気を抜けば制御を誤る可能性がある。


(でも、せっかく弟が超高価な素材を惜しみなく使ってくれたんだ。さっさと扱いこなせるようにならないとね!!)


アラッドは本当に兄の戦闘スタイルを考えてキャバリオン、天魔を制作した。


メインは風属性は雷属性と相性が良く、速さや切れ味を相乗効果させるほど相性が良い。

これによって、ストールの素材だけを使った時よりも脚力がもう一段上昇。


そして……幸運だったのは、以前アラッドがソロで討伐したドラゴンゾンビ……元は火竜だったことが判明。

そこに紅蓮石も加えた事で、装備時にギーラスの黒炎を後押しすることも出来る。

加えて、天魔には宙を駆けることが出来る……人間が四つ脚で駆けるよりも非常に難しい行動だが、まさにロマンがある効果と言っても過言ではない。


アラッドからその付与効果を聞いたディックスを含むギーラスの同僚たちは、子供の様に目を輝かせた。


「ッッッッ……あ、アラッド! いや、アラッドさん!!! 頼む、俺にも……俺にもキャバリオンを造ってください!!!」


「うぉっ!!??」


スライディング正座からいきなりキャバリオンの制作を懇願するスティームの兄、ディックス。


アラッドは驚きながらも、ゆっくりと兄から受け取った袋の中身を見せた。


「えっと、一応これぐらい必要になりますよ」


「………………」


「ちょ、ディックスさん!!??」


袋の中の大金は、今のディックスには気を失うほどの金額だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る